「少年ジャンプ→アニメ」だけが大ヒットするわけではない…世界中のアニメファンが熱狂している韓国発の作品

4/23 16:17 配信

プレジデントオンライン

日本のアニメは海外でどのように見られているのか。エンタメ社会学者の中山淳雄さんは「キャラクターなどの知名度ではなく、作品の内容そのもので評価している。例えば、アニメ『マッシュル』は、主題歌が世界的にバズったものの、作品の人気はさほど伸びなかった」という――。

■世界中で大バズりしたCreepy Nutsの新曲

 世界中にいるアニメファン約2000万人が集う「My Anime List」は、アニメ好きのためのWikipediaのような存在だ。

 3カ月ごとに60~70本放送される新作アニメのページが新設され、Members(アニメをリストインしている人)、Score(アニメ評価)、Popularity(Members数の歴代ランキング)、Ranked(Scoreの歴代ランキング)の4つがトップに表示される。当然海外のアニメファンのためのサイトであり、すべて英語。

 ここはエンタメを研究する私のような立場の人間にとって宝の山だ。6~7割が10~20代の若者世代、5~6割が欧米ユーザー、あとはアジア・南米などで日本人はほんの1%未満、という純粋な「日本人以外のアニメファン」サイトだ。

 ネットフリックスや海外における最大級のアニメ配信サイト・クランチロールによって世界中に配信されたアニメをどう受け止めているかのリアリティが、ここにある。

 この3カ月、街角で聞かなかった日はないというほどだったのは、アニメ『マッシュル』第2期の主題歌だ。Creepy NutsのBling-Bang-Bang-Born(以後BBBB)は中毒性の強い音楽で、急激にバズった。

 両手を目先に掲げて左右にうごかす「BBBBダンス」は、X(ツイッター)では1月14日のティザーPV公開から急激に話題を増やした。翌日にはその楽曲もSpotifyグローバルチャートで80位、公式YouTubeでは1月末までのたった2週間で、2000万回再生。

 その間に非公式の動画がYouTubeで約500本生まれて合計8000万回再生され、Tiktokでは4.5万本の動画(『推しの子』「アイドル」の時は6万本)が作られて合計1億回再生に到達している。日本ではなく、世界レベルでのバズである。

■大バズした主題歌とアニメの関係

 この流行は海外では1カ月ほどで収束していったが、日本では3カ月ずっと続いていった。

 Spotifyランキングでみると日本だけは2月に入ってもずっと1位を席巻。日本の場合はTikTokよりも息の長いYouTubeで「踊ってみた動画」が生産されつづけた結果だろうか。

 Xのつぶやき件数も3月にノンクレジットバージョンのBBBB動画が公式で掲載されたあとも続いた。

 ではその主題歌の思いがけない大ヒットに対し、肝心のアニメ『マッシュル』はどうだったのだろうか。

 今回の比較が面白いのは、『マッシュル』第1期は昨年23年4~6月に放送されたが、同時期に『推しの子』が放送されていたことだ。その主題歌YOASOBIの「アイドル」が大ブーム渦中で、第1期の配信を終えていた(『マッシュル』第1期の主題歌は、岡崎体育「Knock Out」)。

 現在のBBBBブームのファンの中で、1年前に本作を見ていた層はかなり少ないのではないだろうか。「第2期」として『マッシュル』が改めて注目をされた際に、どのくらいMALでのファン数が増減しているかは、人気楽曲のアニメ本編への影響をみるまたとない好事例となるだろう。

■「楽曲人気=アニメ人気」とはならない

 実は結論からいうと、想像とは逆に「アニメファンは増えていない」という結果になった。2024年1~3月で放送された第2期『マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』のMALのMembersは、アニメ放送直前で10.6万人。第1期とほぼ同じスタートを切り、放送期間中に約16万人増やして26.8万人で終了。

 同期間中のアニメ61作品の中では『俺だけレベルアップな件』に続く第2位のMembersスコアではあったが、BBBBブームが肩透かしかのように「(38万人の)第1期に及ばない結果」となった。

 2019年4~6月の『鬼滅の刃』の第1期はそれなりの衝撃があったとはいえ、初動10万人からはじまり最終着地は40万人超。50万人超えの『ワンパンマン』に続く「次点」アニメに過ぎなかった。

 それが2020年のコロナ禍の空前絶後の鬼滅ブームを経て『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』となると放送終了後70万人前後、過去トップクラスの人気アニメに変貌していた(『推しの子』がそこに及ばず次点だった点も連載第1回で分析した)。

■鬼滅との決定的な違い

 つまり「アニメ人気」で第1期から、2期「遊郭編」と3期「刀鍛冶の里編」でステージを変えた『鬼滅の刃』に比べると、「楽曲人気」の『マッシュル』は1期と2期でその固定ファンのボリュームを大きく変えたとは言えない、という結論になる。

 『マッシュル』もそれぞれの時期でトップ3のアニメに入っているため基本的には人気アニメである。これはあくまで「楽曲ほどにアニメそのものはバズらなかった」というだけの結論である。

 これが世界のアニメファンの『マッシュル』に対する反応である。

 「BBBBダンス」がどれほど流行ろうとそこからアニメにユーザーが大量に流れ込んだという形跡はない。

 ある意味アニメがアニメそのものとして正しく消費された結果といえ、マッシュルというキャラクターの「認知度」を上げることには貢献したが、それが単純に「人気度」につながるほどアニメファンは単純ではない、ということもいえるだろう。

■『マッシュル』より人気だった『俺レべ』

 実は「BBBBダンス」も『マッシュル』もその勢いがかすむような衝撃が、この1~3月には起こった。

 アニメ『俺だけレベルアップな件(以後俺レべ)』はScore8.34で歴代224位、59万人のMembersという結果を残し、この3カ月61作品のなかでは断トツのトップ。この1年間に放送された250以上もの作品の中でもトップ5に入る人気度である。

 『葬送のフリーレン』『SPY×FAMILY』以上、『地獄楽』クラスで、『呪術』『鬼滅』『推しの子』には及ばない、というレベルアップぶりだった。

 『俺レべ』は韓国発の作品で、原作・原案Chugong、作画DUBU(REDICE STUDIO)だ。2016~18年に韓国のウェブサイト「カカオページ」に小説として連載され、2018~22年にはウェブトゥーン版(マンガ)が連載開始された。全179話ある。

 ※ウェブトゥーンとは、韓国発のウェブコミックの一種。従来のマンガと異なり、上から下へと読み進められるよう、各コマが一つずつ縦に並ぶ単純なコマ割りを採用しているのが最大の特徴。

 日本では、2019年から3年間ウェブトゥーン版の日本語翻訳が「ピッコマ」(カカオの日本法人である株式会社カカオジャパン発のサービス)で連載された。同作は日本にピッコマを根付かせ、Webtoonブームを牽引した。ピッコマの2023年の年間取引高1000億円突破の原動力となった大ヒット作品である。

 連載当初から「Webtoonで一番売れているのは俺レべ」というほど評判は高く、続きが読みたい「時短ユーザー課金」で月2億円、年間では20億円以上稼ぎ、日本だけで6.5億Viewにもなったお化けWebtoonでもあった。

■大ヒットアニメに共通する2つの項目

 そんな韓国発作品のアニメ化を引き受けたのがAniplexで、『ソードアート・オンライン』で名高いA-1 Picturesが制作にあたっただけにアクションバトルとしての演出の質の高さや澤野弘之のOST(劇伴)に対する海外ファンの高評価も目立った。

 最弱といわれた主人公が悲劇をこえて、唯一「ゲームのアルゴリズムが見えるユーザー」となってどんどんレベルアップしつづける。「俺TUEEE」(格下を蹴散らして勝ち誇るネットスラング)型の物語で、“物語に説得力があるわけではない”という言葉も散見されながら、視覚的スペクタクルと爽快感を与えることに成功している。

 MALでは“If you want to turn your brain off and have fun, this is one for you.(頭からっぽにしてみるなら、これはいい作品だ!)”と揶揄ともとれる高評価もついている。

 結局のところアニメとは練りこまれたキャラクター設定やストーリーの深さではなく、「わかりやすさとカタルシスを得られる設定、そしてアニメとしての質の高い演出力」が一番大事なのだ。

■『ジャンプ』一強時代に風穴を開けた

 欧米ユーザーからみてもこうした「異世界転生・なろう系(厳密には違うが隣接ジャンルとして)」へのキャラ設定・ストーリー展開の単純さへの疑問はいろいろ呈されていながら、「A-1 Picturesとこの作品が出会ったことが運命であった」というコメントに今回の成果は集約される。

 都市型ファンタジー作品として『ソードアート』という成功事例をすでにもっているアニメ制作会社が韓国作品「俺レべ」で日本アニメマーケットでも最高の成果を出すことは、日韓連携での世界展開という点でも金字塔であった。

 本当の成果は今後のシリーズ展開、商品化展開に大きく依存するが、まず1作目として集英社・少年ジャンプ作品が一強となってきていた(ある意味マンネリ化ともいえる)近年のアニメ作品集のなかに新しい風穴を開けた一作といえるだろう。

■日韓ラノベ系タイトル対決

 2024年1~3月期は(BBBBブームに引っ張られた)『マッシュル』と『俺レべ』のインパクトが強すぎたことでほかのアニメが相対的に存在感を発揮しにくかったかもしれない。

 だが『俺レべ』にひきずられるように、同じピッコマ出身の『ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する』は初期のMembersは2万だったが、配信終了時には6倍の12万人となり、Webtoonのアニメ化は十分に通用することが証明された。

 以前から根強い人気がある日本ラノベのアニメ化、3期目となる『ようこそ実力主義の教室へ』は33万人でマッシュル以上の成果を出し、初アニメ化となった『治癒魔法の間違った使い方』も初期3万から5倍に増えて15万で着地した。

 これをみると、日韓ラノベ系タイトル対決は韓国に軍配こそあがったが、ファンタジー世界をメタ視した異世界系・悪役令嬢系は全般的にどこも成功したシーズンであったといえるだろう。

■日本のアニメが持つ幅の広さ

 「ファンタジー×飯」という近年のトレンドで、モンスターを調理して食べまくる異色のグルメ作品『ダンジョン飯』がようやくのアニメ化で、ちゃんと海外にも通用する“概念”となった。個人的にイチオシだったこともあり大変うれしい。

 『魔都精兵のスレイブ』や『道産子ギャルはなまらめんこい』などジャンプ+でカルト的人気を誇っていた作品群もトップ10入りをしている。

 『ゆびさきと恋々』など『聲の形』を彷彿とさせる聴覚障がい者の“尊い”恋愛を描いた社会テーマをもったアニメも6位で19万人と十分なヒット事例であった。

 ダークホースとして注目すべきは17位『Ninja Kamui(忍者カムイ)』でアニメ配信前に300人しかMembersがいなかったマイナー作品だったが、MAPPA出身の韓国人アニメーターが作った新興アニメ会社が北米テイストでつくったもので、終了後には11万人を超える数にまでオーガニックに積みあがっていった。成長率はなんと400倍だ。

 こうした(大ヒットではないにしても)幅の広いアニメの展開例をつみあげることが、最終的には日本のアニメ産業を「日本に閉じる」ことなく、より海外の大舞台に広げていくためのエコシステムを豊かにしていくものだと思う。

 その意味では世界ヒット楽曲を作った『マッシュル』と日韓共同作で大ヒットとなった『俺レベ』に改めて賛辞を送りたい。



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中山 淳雄(なかやま・あつお)
エンタメ社会学者、Re entertainment社長
1980年栃木県生まれ。東京大学大学院修了(社会学専攻)。カナダのMcGill大学MBA修了。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、バンダイナムコスタジオでカナダ、マレーシアにてゲーム開発会社・アート会社を新規設立。2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在。2021年7月にエンタメの経済圏創出と再現性を追求する株式会社Re entertainmentを設立し、大学での研究と経営コンサルティングを行っている。著書に『エンタの巨匠』『推しエコノミー』『オタク経済圏創世記』(すべて日経BP)など。
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最終更新:4/23(火) 17:02

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