年明けから急上昇してきた日経平均株価。3月初旬には、史上初となる4万円台を突破した。しかしその後は一時3万8000円台に戻すなど、軟調な展開が続いている。
先行きが読めない状況が続く中、投資家が注目すべきポイントはどこなのか?
人気エコノミストのエミン・ユルマズさんは、今の日本は株価上昇のスーパーサイクルにあり、今後日経平均は30万円にまで上昇するだろうと語る。
日経平均の最高値更新の背景、これからの展開について解説してもらった。
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【プロフィール】
エミン・ユルマズ:トルコ出身。エコノミスト、グローバルストラテジスト。1997年に日本に留学し、東京大学理科一類に合格。2006年に野村證券に入社。投資銀行部門、機関投資家営業部門に携わった後、2016年に複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。ワールド・ビジネス・サテライトなど多数のテレビ番組に出演。今年5月には新著『インフレ時代の経済指標』を発売した。
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■日経平均の最高値更新は「日本株の実力」
ー日経平均株価が過去最高値を超えたことについて、率直にどう見ていますか
日本株の上昇は起こるべくして起こったもので、やっと適正価格になってきているのかなという気がします。
今までは必要以上に割安に放置されていたものが、やっと世界から注目されるようになっています。これは日本株の実力で、特に上がりすぎということはないと思います。
ー日経平均株価が上がっている理由について教えてください
いくつか理由があります。まず1つは、ここ10年間で日本企業のファンダメンタルズ(国や企業などの経済状態を表す指標)が大きく改善していることです。
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東証プライムのPER(株価が割安か割高かを判断するための指標)水準を見ると、バブルの時は非常に高かったです。しかもバブルが崩壊した後も、日本株はまだ割高でした。
しかしここ10年間を見ると、だいたい10倍台後半で推移しています。適正水準ですが、それでも株価が指数で3倍になっているというのは、純利益が上がっているということです。
だから日本企業の純利益が単純に3倍になったということで、今の株価は安いか高いかといえば、私は高いとは思いません。しかも個別で見ると、まだまだ割安な株が結構あります。
ーSNSなどでは、日経平均のいまの上昇はバブルではないかという意見もあります
おそらく、1989年の日本株の実力というのは7000~8000円でした。それが3万9000円で評価されていたから「バブル」だったのです。
もし今同じようなバブルが日本で起きているとしたら、日経平均は4万円どころか16万円くらいになっているはずです。
また、日本企業の株主に対するスタンスも以前とは変わっています。日本企業の自社株買い(自分の余剰資金で自分の会社の株を買うこと)によって株価が上がってきています。
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昔は自社株買いというのはあまりなかったのですが、グラフを見るとここ10年間で年間9兆円近く、およそ4倍になっています。
昔は日本企業はあまり株主のことを考えておらず、経営者もあまり株価のことは考えていませんでした。それが、より株主重視のスタンスに変わってきたということです。
PBRが1倍割れしている企業に対して改善を促すなど、東証の努力による部分もあります。これによって、資金を貯めていた企業が余剰資金で配当を配ったり、自社株買いによって株価を上げようとしたりする動きが起きました。
しかし、株というのは人気投票なので、これだけでは株価は上がりません。日経平均上昇のきっかけを与えてくれたのは米中対立ですね。
ー米中対立が日経平均上昇にどう影響しているのか、具体的に教えてください
米中対立が激化することによって中国からグローバル資本が撤退し、結果的には日本株に追い風になりました。
これは私が2018年に初めて本を書いたときから主張していることですが、そもそもかつて日本でバブルが崩壊して経済が大きく低迷した背景には、地政学的な逆風があるのです。
戦後日本の好景気がスタートしたのは、1950年の米ソ冷戦のスタート時です。朝鮮戦争が勃発し、朝鮮特需によって日本企業にさまざまな物を作れというアメリカからの注文が入りました。
その後もアメリカは日本を非常に必要としていたので、あの冷戦体制においては日本との良好な関係を維持し、日本をある意味優遇してきた部分もあります。
しかし、特にITや半導体において、当時の日本が市場シェア50%を超えるなどあまりにも強くなりすぎたことで、80年代後半にはアメリカが日本を脅威として見始めました。さらに冷戦が終結したことによって、日本を必要としなくなったのです。
そしてアメリカは日本叩きを始め、結果的には日本にあった半導体や家電関係、その他の産業の大部分が中国や台湾、韓国に行ってしまいました。これが日本経済の低迷をもたらしたわけです。
それが変わったのは2013年以降の新冷戦がきっかけです。シリアの内戦で、初めて東西陣営が旧冷戦と同じような政治的スタンスとなりました。その翌年は、今のウクライナ戦争の発端となるロシアによるクリミア侵攻が起きています。
この新冷戦において、アメリカは前回よりも日本を必要としているのです。アメリカとその同盟国にとって今最も大事なものは、実は原油でもガスでもなく「半導体」です。
半導体素材の市場で大きなシェアを占める中国、韓国、台湾、日本4カ国のうち、日本以外の国はすべて大きなリスクを抱えています。
中国はそもそもアメリカと真っ向から対立していますし、台湾は中国との対立構造からいつ有事が起きてもおかしくない状況です。韓国も北朝鮮という脅威に常に晒されている…といった環境を考えると、アメリカは戦略的に資産をこれらの国から日本に戻さなければいけないと考えるわけです。
アメリカの給料ではコスト面で競争できないので、まだアメリカに比べてかなりコストが低く、インフラや育った人材がいて安全な島国の日本にサプライチェーンを戻そうとしているということです。
今ものすごい勢いで日本に半導体工場ができているのも、半導体のサプライチェーンを日本に回帰させようという動きによるものです。これは当然ながら、日本経済にとっては大きな追い風になります。
■今後の値動きはどうなる?
ー日経平均の最高値更新を受け、今後の値動きはどうなると考えていますか
日本が長く悩んでいたデフレが終わってインフレになってきましたが、今のところはまだ賃金がそれほどインフレに追いついていません。しかし、賃金が上がらなければ人材が逃げてしまいますから、必ず賃金上昇圧力が生まれて賃金は上がると思います。
それによってインフレがさらに進み、賃金の上昇を生む、これは良い流れです。
日本はもともと割とお金が眠っていた国で、個人の預金が全体で2100兆円あります。この預金は放っておくとインフレで目減りしていくので、投資で運用しようという動きが起き始めています。
新NISAなどもありますがこれはまだ初動です。今はまだ外国人が日本株を買っている状態ですが、日本人が買い出せばすごいことになると思います。
いま日本株で運用されている日本人の資産は、全体の11%ぐらいです。80年代後半、バブルの時は30%でした。
2000兆円あるうちの10%がこれから30%になれば、単純計算で400兆円、株式で運用される資産が増えるということです。下手したら500兆円のお金が日本の金融市場に入ってくるのです。
今のアメリカの資産の株式運用率は55%ほどですが、もし日本でその水準までいけば1000兆円になります。
日経平均が4万円になった今、投資への参入を躊躇している人もいると思いますが、一度押し目があると日本人の参入が増えると思います。日本の投資家さんはバーゲンハンター気質で、逆張りも好きなので、押し目を待っている人が今多いのではないかと思います。
2015年、日経平均が2万円の大台に乗った時はそこから少し揉み合い、調整が入った時に資金が入ってじわじわ上がっていきました。2021年に3万円の大台に乗った時も、じわじわ揉み合ってから調整したのち、上昇に転じていました。
大台に乗るたびに同じような動きをしているので、今後も一度押し目が入れば一斉にジャパンマネーが入り、5万円に向けて上昇を始めるのかなという感じはします。
ー日経平均の上昇は歴史的に同じ流れを繰り返しているのですね
そうですね。以下のグラフを見ると分かりますが、日本株価の大きいサイクルは今まで2つありました。
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日本株価は1878年のスタートから1920年まで上昇しています。約40年間でピークをつけてから、今度は23年間下がっています。これが約65年間のスーパーサイクルです。
2回目のサイクルは、市場が戦後に一度閉鎖された後の1949年にスタートします。そこから40年間日本株が上がりました。そして1989年に天井をつけ、そこから23年かけて調整しています。
そして3回目のサイクルがスタートしたのは、2013年です。そこから40年、2053年までは上昇サイクルになり、23年間がまた調整サイクルになります。
だから私たちは今、3回目のサイクルの中にいるのです。ここ10年間で日経平均は3倍ほどになっているので、今から10年後の2034年ごろにはまた今の3倍の12万円くらいは行くのではないでしょうか。
2050年の時点には、おそらく30万円くらいになるのではないかと思います。
ー今からでも日本株を買っておいた方が良いのでしょうか
今から買った方が良いのか落ち着くのを待った方が良いのかとよく聞かれますが、これから日経平均が30万円に上昇していくとなれば、3万5000円から買おうが4万円から買おうが同じようなものですよ。誤差の範囲です。
2053年までが今の上昇サイクルで、そこから2076年までが調整になっています。下手したら、これが人間が絡む最後の株式相場かもしれませんね。2076年にまでなれば、人間の行うことは全部AIに取って代わられている可能性もあります。
AIが進化していけば、多分人間は投資で勝てなくなります。まだそうなるまでには時間がありますが、あと20~30年くらいが、私たち人間が株で儲けられるラストチャンスかもしれません。
■日本株のリスクとは
ー日本株に投資することにリスクはあるのでしょうか
日本株にとってのリスクは、基本的には景気です。
日本は特に輸出関連が日経平均を引っ張っているのでそちらは良いのですが、GDPの数字を見ると内需が減っています。あまり内需の弱さが続くと、日経平均の上昇も止まってしまうので、ここは少し心配です。
もうひとつ、今までの日本株はどちらかと言えばバリュー株(現時点の株価が、業績や企業価値の割に安い銘柄)を中心に再評価されていました。それがここに来て半導体関連ばかり買われていて、一部の銘柄に集中してしまっています。
一極集中してしまうと、株価の指数は上がるかもしれませんが、相場全体としては騰落率が悪くなってしまうのであまり良くありません。
それと、日本株の上昇の背景には外国人投資家の「日本買い中国売り」というペアトレード(相関性が高い2銘柄の売りと買いを組み合わせる投資手法)があると思います。
もし中国株がここから本格的に反発するようなことになれば、このペアトレードが反対になり、中国買い日本売りになって日本株価が下がるというリスクはあります。
ー年初来で30%ほど日本株価が上がっていますが、この短期間で急激に動いてる理由は何でしょうか
日本に限らず、世界市場は全体的に今リスクオン(高いリターンを狙ってリスクの高い取引を行う投資家が多い状況)になっていて、暗号資産など投機性の高い金融商品まで上がりだしています。
このような状況になったのは、去年の10月以降にアメリカが金融引き締めから緩和に転じるという観測が出たのに加え、AI関連の半導体メーカーに対する継続的な買いが入ったことが理由です。
そのため水準としては割高ではないのですが、短期間の動きとしては過熱感があるかもしれません。
同じITでもAppleやGoogleなどは年初来で株価が下がっていることを考えると、少し違和感があるので警戒はした方が良いと思います。
ー半導体もいま過熱感があるということですが、半導体バブルと言って良いのでしょうか
半導体バブルというか、AIバブルだと思います。
NVIDIAも現在、2兆ドルくらいの時価総額になりましたが、果たして将来も今のような成長が続くだろうかという話です。それほど儲かるのであれば、他のビジネス企業も参入してきます。
半導体も含め、AI関連はいま完全にバブルテリトリーに入っていて、どこかでやっぱり落ち着いてくるという気がしています。
(収録日:2024年3月6日)
不動産投資の楽待
最終更新:4/10(水) 19:00
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