広島県呉市の住宅街にそびえる「両城200階段」。急斜面にいくつもの家が建ち並び、異様な光景が見られる。
この「両城200階段」は、映画「海猿」のロケ地としても知られている。
石段の上からは呉港が見渡せ、雄大な景色が広がる場所だ。古びた住宅や石段、金網のフェンスには呉市の歴史が垣間見える。
この記事では昭和レトロな街並みが残っている、呉市の両城地区、そしてそんな地区が抱える課題と市の取り組みを紹介する。
■呉市の「両城200階段」とは
JR呉駅から、天応方面行きまたは三条二河宝町線バスで「三条3丁目」バス停で下車すると、徒歩5分で「階段住宅」が見えてくる。山の斜面に民家がひな壇のように並ぶ、独特の景観だ。この階段こそ、映画「海猿」のロケ地として有名な「両城200階段」である。
階段の両側には、急斜面に立ち並ぶ家がたくさん建てられており、階段は現在も生活道路として住民が日常的に利用している。
両城地区の風景は、まるで要塞のような石垣と急な勾配の階段が印象的だ。周辺の建物は昭和に建てられたような古い住宅が多く残っている。
まるで、昭和の時代にタイムスリップしたかのような懐かしい気持ちが押し寄せてくる。
観光スポットとして有名な「両城200階段」の入り口には看板が設置され、初めて呉市を訪れる観光客にも分かりやすい。
■階段住宅は軍事都市としての歴史の名残
呉市は広島市、福山市に次ぐ広島県第3の都市であり、戦前は海軍の重要な拠点であった。
日露戦争の影響で都市が発展すると、全国から呉に人が集まり賑わいを見せる。
呉市は、太平洋戦争下の1943(昭和18)年には、人口40万人を超える大都市であり、平野部は軍用地として利用されたため、一般市民の住宅は郊外や高台に造られることになった。
そこで造られたのが、全国的に名高いこの階段住宅である。
呉市は平地が少ないため、住宅を建てるのに適した土地に限りがあり、海軍関係者の住宅を造るために崖のような急傾斜地も宅地化された。
両城エリアには戦災を逃れた住宅が当時の面影を残したまま立ち並んでおり、戦後の昭和の風景を感じさせる。
■急傾斜地で建て替えが難しく空き家が増えている
映画「海猿」で有名な場面といえば、海猿たち、つまり潜水士を目指す海上保安官がボンベを抱えて両城200階段を駆け上がる訓練シーンだ。
実際は200以上あると言われているこの階段で、海猿たちが息を切らしながら訓練するシーンが印象的である。
事実、急な勾配の階段で健脚を維持する住民は多い。
高齢の男性が足腰を鍛えるために毎日上り下りしていたり、部活動のトレーニングで利用したりする学生もいる。
200階段は長年にわたって住む人々からすれば生活エリアの一部であり、両城地区内の風景を楽しめるかけがえのない場所である。
ただ、そんな地元の人々に愛されている両城200階段は近年、急傾斜地であるため建て替えが難しいこともあり、空き家が増えている。
街には、明治から昭和にかけて建てられた家々が残ったままだ。1975年をピークに呉市の人口は減少傾向にあり、人口減少への転換期を迎えている。
2024年1月末現在における呉市の人口は約20万5000人で、年々人口の減少は止まらない。
こうした斜面地に住宅が建てられている場合、上下移動は困難となり、特に高齢者や障害者にとっては負担が重い。古い家が空き家として残るため、火災が発生するリスクも考えられる。
だが、火災が発生しても消防車が進入しにくく、消防活動が迅速に行われない可能性もあるだろう。
現在住んでいる人の高齢化も進んでおり、両城地区では将来的にますます空き家が増加することが想定される。
■呉市の斜面地への取り組み
呉市では、斜面市街地など災害の発生リスクが高いエリアから、安全な市街地へ居住を誘導することで、安心して暮らせるまちづくりを推進しているという。
また、両城を含む斜面市街地に住む高齢者の生活支援として「ファースト/ラストワンマイルネットワークの構築」と題した取り組みも。
斜面市街地に住む子供から高齢者の誰もが気軽に外出して、中心市街地で楽しめるように斜面居住地を中心にネットワークの構築を図るようだ。
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両城地区は住民の高齢化と少子化が進んでおり、自治体も対策を色々と立てている。
呉市では介護保険の適用でホームヘルパーが家まで送迎してくれるが、階段の上り下りの補助も行う。自治会のサポートも行き届いており、高齢者が暮らしやすいよう街全体で見守る活動をしているのが特色だ。
両城200階段の階段住宅では、長年住み続ける街を愛する人々が今日も暮らしている。
矢口ミカ/楽待新聞編集部
不動産投資の楽待
最終更新:3/20(水) 19:00
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