太っ腹すぎるって!JR東日本の「ネット銀行参入」にSNS沸騰、同社の狙いとは?

4/23 10:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 JR東日本は5月9日からデジタル金融サービス「JRE BANK(JREバンク)」を開始する。利用者はインターネットで専用口座を開設すれば、振り込みや預金、住宅ローンなどのサービスに加え、利用状況に応じ、鉄道利用に関するさまざまな特典が受けられる。JR東日本はなぜ今、銀行サービスに乗り出したのか。また、利用者は具体的にどのような特典を得られるのか、詳しく解説する。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

● 鉄道料金の優待割引券など 利用者への太っ腹な特典

 JR東日本はグループブランドのデジタル金融サービスとして、5月9日に「JRE BANK」を開設する。目玉は鉄道利用などでたまるJRE POINTとのひもづけ、一定以上の資産残高などの条件を満たすと受けられる、JR東日本グループのさまざまな特典だ。

 例えば、主要駅構内に設置されたATM「VIEW ALTTE」の引き出し手数料が無制限に無料、提携ATMの利用や他行振込手数料が預金額に応じて一定回数無料になる。また、振り込みや口座振替など、利用に応じてJR東日本グループ共通ポイントのJRE POINTを獲得できる。

 ここまでは自社サービスとして「当たり前」の内容だが、ユニークなのは鉄道利用に対するさまざまな特典だ。具体的にはJRE BANK口座をビューカードの引き落とし口座に設定し、50万円以上の預金をすると、同社線の片道運賃・片道料金が4割引となる優待割引券が年2枚、給与口座に指定すれば年6枚もらえる(300万円以上の預金で最大年10枚)。

 発表と同時にSNSで大きな話題となったように、これはなかなか破格の特典だ。同社の株主優待券は割引クーポンと同じ4割引きだが、1100株(4月18日時点で約320万円)で年10枚。最低の100株(同約29万円)では、年1枚しかもらえない。

 また、JRE POINT(東京・上野・大宮駅発の場合6000ポイント)で、JR東日本の新幹線停車駅47駅からランダムに選ばれる4駅の「どこか」に行ける「どこかにビューーン!」を2000ポイント割引で利用できるクーポンを、50万円以上の預金で年4枚から最大12枚もらえる。

 同じ優待は、獲得・使用ポイントに応じて特典が得られる「JRE POINTステージ」のプレミアムステージで年2回もらえるが、ビューカードのクレジット払いだけで到達するには100万円以上の利用が必要だ。

 さらに普通列車のグリーン車を無料で利用できるSuicaグリーン券を最大年4枚もらえるなど、これまでの優待サービスと比較しても格段に太っ腹な印象だ。

● 銀行サービスに乗り出す JR東日本の狙い

 JRE BANK構想が発表されたのは2022年12月のこと。当時のプレスリリースには「本サービスは『人生に体験と経験を。』をコンセプトとし、一般的な金融機関がお客さまに提供している『資産の増加といった価値の提供』のみならず、金融資産を預けていただいたお客さまに『JR東日本グループの事業領域を活かした特典の提供』」を行うと記されている。

 銀行サービスを開始する意義、メリットを改めてJR東日本に聞くと、「一般の銀行にはない独自性の高い特典でお客さまに口座を開設していただくことで、当社グループの各サービスの入り口として接点を持つことが可能となります」と説明する。

 「接点」を強調していることからも分かるように、JRE BANKは私たちがイメージする一般的な銀行業とは異なる。通常の銀行は預金を集め、資金を必要とする人や企業に融資する事業だが、JRE BANKは「銀行代理業」というビジネスモデルだ。

 銀行代理業とは銀行法第2条第14項が定める、所属銀行のもとで預金や資金の貸し付け、為替取引や住宅ローンなどの契約を代行する事業のこと。JRE BANKのサービスは、楽天銀行を所属銀行、同社の完全子会社である株式会社ビューカードを銀行代理業者として提供される。

 「毎日、潤沢なキャッシュが入って来る鉄道事業者は銀行業に参入して資産を運用すればよいのではないか」との指摘は古くからあり、実際、戦前には鉄道と銀行の両方を傘下に収める財閥も珍しくなかった。だがJRE BANKはあくまで銀行代理業であり、楽天銀行の1支店との扱いなので、預金の管理・運用は楽天銀行が行う。

 では、JR東日本が手厚い特典を用意してまで銀行代理業に参入するメリットは何なのか。同社は「当社グループのさまざまなサービスをおトクにご利用いただくことでグループ内のサービスの認知度やご利用の拡大を図っていきたい」と、グループ全体への波及効果を強調する。

● 激しさ増す鉄道事業者による 沿線住民の囲い込み合戦

 その中でも注目しているのは横断的な購買データの取得のようだ。JR東日本は2018年に発表したグループ経営ビジョン「変革2027」の中で、「移動のシームレス化」と移動・購入・決済など多様なサービスの「ワンストップ化」の一環として「金融機関、決済企業等の商品・サービス」の強化を掲げていた。

 その中心となるJRE POINTは、2016年に誕生した。それまで鉄道利用でたまる「Suicaポイント」「えきねっとポイント」、ビューカードの利用でたまる「ビューサンクスポイント」、各駅ビルの会員ポイントなど、ポイントサービスが乱立していたが、2021年までにJRE POINTへの統合を完了した。

 この過程で、2019年にSuicaとJRE POINTをひもづけし、鉄道利用で共通ポイントがたまる仕組みを構築。グループ全体の購買データを一元的に把握できるようになった。ここに銀行口座の入出金記録が加われば、鉄道利用から買い物、引き落としまで一貫したデータが集まってくる。これを「怖い」と取るかどうかは本人次第だが、利用するのも一つの選択肢だ。

 鉄道事業者の銀行代理業参入は、今後も続く可能性が高い。実はJR東日本に先駆けて金融サービスを開始したのは、京王電鉄だ。京王はJR東日本の発表より後、2023年4月に「京王NEOBANK」設立を発表したが、同年9月27日に提供を開始したため、国内初となる「鉄道グループによるフルバンキングサービス」となった。

 こちらは住信SBIネット銀行を所属銀行、京王パスポートクラブを銀行代理業者として、京王が発行する京王パスポートカード会員を対象に提供する。提携ATMの手数料が一定回数まで無料や、預金額や取引に応じたポイントの付与などはJRE BANKと同様だが、ウェブサイトのトップに「京王NEOBANK住宅ローンなら京王ポイントが最大12万円相当もらえる!」とあるのは不動産事業を営む私鉄らしい。

 京王NEOBANK設立の狙いを京王に聞くと、ひとつは「京王グループの新たな顧客基盤として、銀行口座は生涯にわたり利用する長期的な顧客接点となり得る」こと、もうひとつが「若年層、子育て世帯などこれまで関わりが薄い層との顧客接点」の創出にあるといい、具体的なメリットとして「京王グループの分譲マンション事業強化にあたり、自前の住宅ローン提供が可能」となったことなどを挙げている。

 京王NEOBANKは開業以降、口座数や銀行取引、住宅ローンの取り扱い件数が着実に増加しているといい、今後も利用者数は伸びていくと期待を寄せる。「引き続き認知拡大・販促活動を行うとともに、グループシナジーを活用して事業を成長させ、将来的には京王グループの主な顧客基盤の1つになれるようにしていきたい」と意気込みを語った。

 首都圏でも人口減少社会が到来する中、鉄道事業者の沿線住民獲得合戦と囲い込みはますます激しくなる。銀行代理業への参入は想定通りの成果を生み出すのか。まずは、特典情報に熱狂したSNSユーザーたちが本当にJRE BANKに口座を開設するのか、から注目してみたい。

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最終更新:4/23(火) 10:02

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