イライラを鎮めてメンタルを安定させる「食」養生 漢方では五臓六腑の「肝」を整えることを目指す

5/27 11:02 配信

東洋経済オンライン

 日差しが少しずつ強くなり、夏を感じる日もある今日この頃。

 外でアクティブに動きたくなる一方で、何となく気持ちがスッキリしない、前向きになれない……という人もいるのではないでしょうか。そんなときに役立つ、漢方の知恵をお伝えしたいと思います。

■健康には「心の安定」が大切

 仏教の教えには、心と体が深い関係を持つことを表す「心身一如(しんしんいちにょ)」という言葉があります。漢方にも同様のことを意味する「形神合一(けいしんごういつ)」という言葉があり、古くから精神と体は1つであると考えています。

 古代の医学書である『黄帝内経素問(こうていだいけいそもん)』の「上古天真論(じょうこてんしんろん)篇」には、健康を維持するために必要な考え方が記載されています。

 その1つが、”精神を内(うち)に守る”という教えです。

 「健康でいるためには、精神の状態を安定させることが大切」という意味で、メンタルヘルスの重要性は、なんと3000年以上も前からいわれていたことなのですね。

 心と体は互いに影響を与え合っていることを表す日常的な例として、以下のようなものが挙げられます。どれも心当たりがあるのではないでしょうか。

□ 怒ると顔が紅潮する
□ 緊張すると胃が痛くなる
□ 不安になると動悸がする
□ 恥ずかしいと顔が赤くなる
□ 焦ると口が渇く
 いずれも一時的な反応ですが、刺激が過度だったり長期間にわたって乱れが続いたりするような場合、病気を引き起こす原因になるので、気を付けなければなりません。

■西洋医学と漢方の違うところ

 西洋医学でも心身症や不安症、うつなど心の病が原因で、体にさまざまな不調が表れることがあります。このようなとき、心が体に起こす反応を「自律神経を介した反応」として説明します。

 少し専門的になりますが、脳には扁桃体(へんとうたい)と呼ばれる感情をつかさどる場所があります。

 扁桃体は、視覚、聴覚、味覚など五感から得た情報が、快か不快か、自身の命に関わるものかどうかを一瞬で判断します。その結果に伴って、怒りや喜び、恐怖や不安、悲しみなどの感情が発生します。

 そして、この扁桃体の判断の結果は視床下部へ伝えられ、自律神経反応を引き起こします。

 漢方では、こうした西洋医学の考え方とは少し異なった捉え方をします。漢方と西洋医学での最も大きな違いは、漢方では感情は五行学説の1つ、臓腑(ぞうふ)と関連すると考えるところです。

 説明しますと、漢方では体の機能は「肝、心、脾(消化器系)、肺、腎」という五臓に分類されていて、これらにはそれぞれ「怒、喜、思(思い悩む)、悲、恐」といった感情「五志(ごし)」が対応しています。

 五臓と五志はお互いに深い関連を持っていて、お互いに影響を与えていると考えられています。以下の表のような感じですね(※外部配信先では閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。

■「恐怖で白髪に」を漢方的に見ると

 具体的にどんなことがあるか見てみましょう。

 例えば、強い怒りは肝(かん)の不調を招き、イライラしやすくなる、キレる、震える、筋肉がけいれんするといった症状をもたらします。怒りで震えるのは肝の反応です。

 ほかにも、喜びも度が過ぎると心(しん)を傷つけます。宝くじに当選して心臓発作を起こしたり、推しのアイドルのコンサートで失神したりといった例がそれにあたります。

 思い悩んで食欲が低下するのはわかりやすい例ですが、逆に脾(胃腸)の不調からうつなど精神的な疾患を発症することもあります。

 また、恐怖で急に白髪が増えるのは、髪は腎がつかさどっている部位だからです。

 今の時期に不安定になりやすいのが肝で、肝の働きを良好な状態に保つことが、メンタルヘルスの要になるとされています。

 漢方でいう肝は、西洋医学でいう臓器の肝臓を含めた広い概念のことをいい、体に入った有害な物質を解毒する働きや、血(けつ:主に血液のこと)を貯めておく働き、さらには、気(生命エネルギー)や血を全身に巡らせる働きがあります。

 そして、この肝に関係する五志は、怒です。怒が強かったり、長引いたりすると、肝に負担がかかり、先に挙げたような肝の働きが弱まってしまうのです。

■「怒り」が頭や目にダメージを与える

 怒は、人間の気持ちが激しくなったときの感情の変化です。

 体や心を破壊的に働く有害な刺激で、まさに怒りで頭に気や血が上ってしまうと、頭や目などの重要な器官にダメージを与えてしまいます。この状態を漢方では「怒は肝を傷る(やぶる)」とか、「怒ればすなわち気上る」とかといいます。

 怒には、単なる怒りだけでなく、ストレスによって生じる感情も含まれます。特に気を付けたいのは、身体的ストレスです。

 ストレスというと精神的なものを思い浮かべる人が多いでしょうが、気候の変化や寒暖差といった体への負担も、大きなストレスです。今年は例年になく寒暖差が大きく、身体的な負担が大きいと感じている人、または不調として表れている人が増えているように思います。

 実は、肝は精神的なストレスだけでなく、寒暖差(1日の中の寒暖差や、日々の寒暖差を含む)など環境による身体的ストレスの影響も受けやすいのです。寒暖差による体温調節は、予想以上に気を消耗させます。

 肝が不安定になりやすい今の時期は、ストレスのコントロールに失敗しやすく、感情的になりやすい時期なので、注意が必要です。

 肝の機能が低下すると、気や血の流れが滞ってしまうため、全身に影響が及び、消化器系の不調、疲労感、めまいや頭痛などの症状が表れます。

 肝の機能低下による影響を以下に示しましたので、ご覧ください。

□ イライラする、キレる
□ 赤ら顔になる
□ 目が赤くなる
□ 血圧が上がる(脳卒中に至ることもある)

□ 頭痛、めまい
□ 胸から脇にかけての一帯が張る、痛む

 今はこの怒が暴走して、肝の機能を低下させやすい季節です。普段から怒りっぽい人は、以下のような対処で気持ちを落ち着かせ、正常に戻すとよいでしょう。これらは『黄帝内経』に書かれている春の過ごし方です。

□ 怒ること、興奮することを避け、ゆったりした気持ちで過ごす
□ 精神的ストレス、身体的ストレスをうまくコントロールする
□ 我慢しない(気持ちを抑えつけすぎない)

□ きつい下着や服装を避ける
□ 睡眠を十分にとる

■肝を元気にするには「酸味」が大事

 先に挙げた対処法とともにやっておきたいのが、食生活の改善です。

 肝の機能を高めるには、適度な酸味が必要です。酸味は気や血のバランスを整え、気が頭のほうに上りすぎるのを抑えてくれます。 酸にはまた、血液を浄化する、解毒するといった働きがあるので、肝がする仕事を軽減してくれます。

 オレンジやみかんなどの柑橘類のほか、漢方では、パクチーや春菊、しそ、三つ葉、クレソンなどの香草類も酸の仲間に入るので、これらを適度に摂るとよいでしょう。

 ただし、摂りすぎると胃に負担をかけたり、体を冷やしたりするので、要注意です。胃の調子が悪い人や月経中の方は控えめのほうがいいかもしれません。

 このほか、セリやミント、新たまねぎ、みょうが、タケノコ、うど、ふき、新ごぼう、わらびなど、苦みのあるものもおすすめです。

 一方で、控えたほうがいい飲食物は、脂の多い肉、甘いもの(砂糖)、乳製品、味の濃いものなど消化の負担になるものや、カフェイン(コーヒー、緑茶、紅茶、ウーロン茶、ドリンク剤)、アルコールです。

 なかでもアルコールは、体にとっては解毒すべきものとして肝が処理しますから、肝の負担は大きくなります。

 特に就寝前に飲むと、寝ている間に先にアルコールの解毒が優先されて、本来なら処理しなければならない疲労物質などの処理が後回しになるので、疲れたまま朝を迎えることになります。

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最終更新:5/27(月) 11:02

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