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バフェットの警鐘「ヘビの油売りに気をつけよ」の意味~投資で成功するためには「自分の範囲」を見極めることだ

4/3 5:02 配信

マネー現代

金儲けのやり方を他人に教えるのは馬鹿げている

(文 大原 浩) 投資の神様・ウォーレン・バフェットは、こんな皮肉を述べている。

 「ウォール・ストリートは、ベンツやポルシェを乗り回す金持ちが、地下鉄で通勤するサラリーマンに『金儲けの方法』を教えてもらう『奇妙な場所』である」

 私が投資業界に長年かかわってきた中で感じるのは、「事業で成功した実業家が、多くの場合、その事業で築いた財産を『未熟な投資』で溶かしてしまう」ということである。

 彼らはバフェットが述べるように、ウォール・ストリートならぬ兜町・茅場町や大手町の金融機関の担当者に「金儲けの方法」を教わる。しかし、その「奇妙な関係」によって、実業家たちが(最終的に)大きな利益をあげるのを見たことがない。

 これはよく考えればあたり前のことである。

 読者の中にも、金融機関の営業担当者に「この商品はものすごく儲かりますよ!」と言われて、「そんなに儲かるんなら、私になんかに売らないで、あなたや金融機関が買った方がいいんじゃないの?」という突っ込みを入れたことがある方がいるのではないだろうか? 
 最近では、オンライン取引が主流になっているが、対面取引が中心の時代には、しばらく音沙汰の無かった営業担当者から突然電話がかかってきて「ものすごく有望な銘柄があるので一つどうですか?」などと勧められることがあった。

 「胡散臭いな……」と思うと、しばらくしてからその勧められた銘柄が暴落するということが多かった。要するに、その営業担当者の懇意な顧客にすでに大量に買わせてしまい、彼らにもう買い余力がないので私のような取引の薄い顧客にまでセールスに走るというわけだ。

 「100人の村」については、2019年3月7日公開「投資の神様・バフェットはなぜ『株価の下落』を喜ぶのか」2ページ目「ミスター・マーケットに振り回されるな」でも紹介した、拙著「勝ち組投資家は5年単位でマネーを動かす」で解説した。

 要するに、市場を100人の村に例えれば、「もし、100人の村人のほとんどが限度一杯株式を買ってしまえば、市場は『持っている株を売りたい人』にあふれる」。逆に、これから買う余力のある人はほとんどいないから、「市場が暴落するのは必然」ということである。

ベンツが買えるほど利益の出る金融商品!?

 だから「この株を買った方がいいよ」と営業担当者や市場が騒ぐときは要警戒である。その人たち(あるいは営業担当者に勧められた人々)はたぶんその株式を保有しているから「将来の売り手」である。また、営業担当が「強く推奨する銘柄(金融商品)」も同様に「みんなが持っている」可能性があるから要警戒だ。

 「空売り」をするトレーダーなら、このような「みんなが買っている(持っている)」とか「営業担当者が勧めている」というのは、貴重な情報であろう(これらの情報は「空売り」すべきときを教えてくれる)。

 私自身は「空売り」は行わないから、このような情報を直接活用する手段が無いが、「自身の保有株」を世間が過度に注目し騒ぎ始めた時には、「そろそろ売り時かな?」などと考えることもしばしばある。

 また、かつてトレーダー仲間で「キャデラック・スプレッド」という言葉がはやったことがあった。キャデラックは、米国人の「富の象徴」である高級車であり、ベンツやポルシェ、あるいはレクサスなどの他の高級車でも同じだ。

 この「スプレッド取引」は、とにかく最先端金融商品を多数組み合わせている事が特徴だ。なぜ儲かると言えば、多数のハイテク金融商品の「手数料」が膨大だからである。

 つまり、ベンツを買えるのはその商品に投資をする「投資家」ではなく、投資家に(手数料の高い)スプレッドを販売する「営業担当者」であるということだ。

 この点では、若かりしのバフェットのエピソードが参考になる。

バフェット銘柄は儲からない!?

 大学を卒業したばかりの頃、バフェットは証券会社の営業をしていたことがあった。もちろん、バフェットが勧める銘柄は「バフェット銘柄」であるから、顧客の懐が大いに潤ったのは当然である。

 ところが、バフェット自身の営業担当者としての成績は芳しくなかった。なぜかと言えば、顧客は、どんどん価格が上昇していく「バフェット銘柄」に満足してしまい、その株を売って新たな銘柄に投資してくれなかったからだ。当然バフェットには新たな売買手数料が入らない。

 逆に、別の営業担当が勧めた株式で損をした投資家は「ここは損切りして、もっといい銘柄に投資しましょう」と勧める営業担当に、結果的に(バフェットに対するものよりも)多くの手数料を支払うから、その担当者の営業成績は向上するというわけである。

 過去長い間、バフェットがウォール・ストリートから無視されたり嫌われたりしてきたのは、「世の中の投資家がみんなバフェットのように投資をすれば」彼らの商売が上がったりになるからだ。

「ヘビの油売り」に気をつけよ

 今年のバフェットからの手紙については、2月29日公開「バフェットからの手紙2024年~米国市場暴落は不可避か? だから日本市場へ」、3月18日公開「今、目の前にある1989年のデジャヴ~上り調子の市場で損をする人々の生態とは」ですでに触れたが、「投資家の心構え」についても述べている。

 「ヘビの油売り」に気をつけよということだ。この言葉は、日本の「ガマの油売り」よりももっと悪賢いイメージのある言葉のようだ。ありていに言えば「悪意のあるセールスマン」である。

 また、バフェットは「野球がどれほど簡単なゲームかは、放送ブースに行けばよくわかる」とも言う。つまり、(放送ブースで)野球の実況をするアナウンサーや解説者は、「どうやったらチームが勝てるか」をもっともらしく論じるが、「彼らがチームの監督やコーチになって、実際に勝利できるわけではない」という皮肉をこめた言葉だ。

 それでは、バフェットは、このような「悪意のあるセールスマン」や「無責任な評論家」達の「毒牙」にかからずに投資で成功するにはどうすれば良いと言っているのであろうか? 

投資家としての第一歩は「自分の範囲」を知ること

 これまで述べてきた問題に対する、バフェットの答えは単純明快である。「『自分の範囲』の中だけで投資を行う」ということだ。

 1990年代後半のITバブルの際に、バフェットがいわゆるドットコム企業に一切投資を行わずに「ITのわからない時代遅れのポンコツ」とメディアなどに揶揄されたことは有名だ。この時にバフェットがIT企業に投資しなかったのは「IT企業が自分の範囲」ではなったからである。

 実際、少なくとも当時のバフェットは、パソコンを使うのは、せいぜいブリッジ(カードゲーム)をするときくらいであった。

 ただし、IT業界のことを知らなかったわけではない。1991年以来、家族同様の付き合いをビル・ゲイツとしているバフェットは、当時もIT業界の状況を彼から十分聞いていた。

 また、IT企業の決算書の内容も一般投資家よりもはるかに詳細に理解していた。だが、それでもバフェットは「IT企業は自分の範囲の外」だと述べていたのだ。

 ビル・ゲイツからIT業界を解説してもらえるなどという好機は滅多に得られない。しかし、その貴重なアドバイスもバフェットにしてみれば、「他人の意見」であり「自分の考え(がおよぶ範囲)」では無いということである。

 バフェットが重視する「自分の範囲」とは、「自分がすべて理解し、『自分一人で(最終的に)判断できる』範囲」であるということだ。

 言い換えれば、金融機関、評論家などの「他人の意見」をあてにする時点で、すでに「自分の範囲を越えている」ということになる。

 もし「自分の範囲」を超えてしまえば、その判断が正しいかどうかを(自分で)確認する方法が無い。「あなた任せの投資」では、成功するはずがないというのがバフェットの考えだ。これまで述べたように、「『他人』は『自分自身の金儲け』には熱心」であっても、「赤の他人のあなたが儲かるかどうか」にはほとんど関心が無い。

 これは、バフェット流の根源とでもいえる重要なことなので、「大原浩の逆説チャンネル<第15回>バフェット流の真髄は『安く買って高く売る』これがわから無い人がほとんどだ。(バフェット流の真髄その1)」などでも取り上げている。

 なお、実際の投資はこれらを参考の上、「自己責任」で行っていただきたい。「自分の考え」を持たず、他人の意見に頼って成功した投資家を私は知らない。

「自分の範囲」を広げるべし

 11歳から93歳の今日に至るまでのバフェットの人生をたどれば、バフェットが「自分の範囲を広げてきた」のは明らかだ。

 初期の頃には「自分の範囲」の外だとしていたビジネスモデルや業界も、徐々に「自分の範囲」の中に取り込んできた。

 すでに述べたIT業界がわかりやすい例であろう。ドットコム(IT)バブルの頃には、「IT業界」はバフェットの範囲外であったが、今やアップルが投資ポートフォリオの約半分を占める状態だ。

 もちろん、IT業界そのものがドットコムバブルの頃と大きく変わったのは確かだ。しかし、それ以上にバフェットの「自分の範囲を広げる努力」によるところが大きい。

 その「努力」の大半が「読書」なのである。

 昨年12月13日公開「『分散投資を有難がるとは気が違っているとしか思えない』~より過激なバフェット、『盟友』チャーリー・マンガーを偲ぶ」4ページ目「読書こそ成功の核心」で述べたように、マンガーの孫たちから、彼らは「足の生えた本」と呼ばれるほどの読書家だ。

 バフェットたちが具体的にどのように「勉強」しているのかは、昨年9月22日公開「投資家の8割は損をする、勝ち組になるためには『市場のゆがみ』と『アイディア』を」5ページ目「勉強・研究が投資の基礎」などを参照いただきたい。

 かつては「自分の範囲」である米国市場からほとんど外に出なかったバフェットが、2000年代に入ってから、「本格的な海外投資」を始めている。そして、2019年には5大総合商社への投資をスタートした。これも「自分の範囲」を広げた実例である。

投資では「ハンディキャップ」をもらえない

 初心者がハンディキャップをもらえるゴルフと違って、いきなりバフェットなどの超一流プレイヤーと「ガチ」で勝負しなければならないのが「投資」である。

 「自分の範囲」で全力投球しているバフェットに、「自分の範囲」ならともかく「自分の範囲外」で互角にわたり合えるなどと考えるのは浅はかすぎる。

 だが、投資初心者の方で「自分の範囲」がわからないという場合には、2018年9月10日公開「投資の神様バフェットが『投信を買ってはいけない』と忠告する理由」の副題「ただしインデックス・ファンドはOK」の「インデックス・ファンド」が役に立つ。米国の「長期的将来」につねに強気なバフェットは、S&P500の「手数料が安いインデックス・ファンド」を勧めている。

 日経平均については、例えば2008年10月27日の終値ベースの7162円90銭で日経平均のインデックスを購入していれば、おおよそ15年で6倍近くになっている。あくまでも過去の話だが、私自身は、「バフェットが米国の将来に強気であるのと同じように、日本の将来に強気」である(ただし繰り返すが、投資は自己責任で行っていただきたい)。

 前記「投資の神様バフェットが『投信を買ってはいけない』と忠告する理由」で述べたように、投資信託のパフォーマンスは、平均すればコイントスや猿に任せた場合の成績よりも劣る。つまり、平均すれば手数料の高い投資信託よりも「手数料の安い」インデックスファンドの方が有利なのだ。また、個別の投資信託には、場合によっては市場平均を大きく下回るリスクがあるが、インデックス・ファンドはあくまで「市場平均」に連動する。

 少なくとも、いわゆる(個別の担当者の裁量で運用する)「投資信託」ではなく、(明確に市場と連動する)インデックス・ファンドを購入した方が賢明だと考える。

マネー現代

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最終更新:4/3(水) 11:21

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