勝るのは「玉木首相への期待」か「玉木不倫党の悪名」か、与野党が入り乱れる“玉木争奪戦”の危うい実態
「7月3日公示、20日投開票」で日程が固まりつつある今夏の参議院選挙。選挙戦本番まで残り約2カ月となる中、政界では選挙後の石破茂首相退陣を前提に「ポスト石破をめぐる各党が入り乱れたうごめき」(自民党長老)が顕在化しつつある。
そうした状況下、各陣営が注視しているのが国民民主党の玉木雄一郎代表の言動だ。
昨秋の衆議院選挙で「若者を潰すな」と叫び、そのための「103万円の壁」撤廃を掲げて大躍進した国民民主党。最新の各種世論調査での政党支持率で野党トップとなり、比例代表投票先では自民党に迫る勢いだ。
これも踏まえて、玉木代表は「比例1000万票・単独で法案提出できる21議席以上の獲得」を参院選の目標に掲げる。大型連休中は連日、地方遊説やメディア出演と、得意のSNSでの発信で存在をアピールしている。
■「いつかこの国を率いていきたい」と政権に意欲
こうした玉木代表の躍動ぶりに、与野党双方で湧き起こっているのが、参院選後の「玉木首相」論だ。「各党幹部らによる“玉木争奪戦”の様相」(政治ジャーナリスト)となりつつある。
一連の流れを受けて、玉木氏自身も「いつかこの国を率いていきたい」などと首相就任への意欲もにじませる。周辺でも「次期参院選後が最初で最大のチャンス」(国民民主党の若手議員)と期待が高まる。
ただ、参院選後の政権維持を“大目標”とする自民党が「あの手この手での“玉木潰し”に躍起」(閣僚経験者)となっている。さらに、ここに来て“ダブル不倫”で政界引退を余儀なくされた菅野(旧・山尾)志桜里氏を擁立する動きや、所属衆院議員の“偽名不倫”事件などが明るみに出た。
玉木氏自身の不倫問題とも共鳴する形で、週刊誌やSNSで「玉木不倫党」との揶揄が急拡大。永田町では「“玉木争奪戦”の実態の危うさ」を指摘する声も広がる。
当の玉木代表は大型連休入り直前の4月25日、福岡市内で西日本新聞の単独インタビューに応じ、次期参院選の福岡県選挙区(改選数3)で「必ず1議席を取る」と自信を示した。
そのうえで「トランプ関税」で混乱を極める国際情勢も踏まえて、「既存の与党・野党の枠組みは通用しなくなる。どういう新しい政治体制を作るのか、その中で国民民主党がどう指導的な役割を築けるかを考えていきたい」と言及。「大きな政界再編が必要。(そのために)より影響力のある重要な役割を果たしていきたい」と明言した。
そして、「首相を目指すか」との問いには、「公党の代表をしている以上、いつかこの国を率いていきたい思いは当然ある」と将来の玉木政権樹立への意欲もにじませた。参院選後にも想定される“政界大再編”をにらんで、自身と国民民主党がその動きの中核となるべく活動していく考えを表明した。
これに関連して、玉木代表は参院選後の連立政権入りの可能性について「選挙結果次第なので、今の段階で具体的なことは言えない。誰とやるかより、何を成し遂げるかだ」と強調。併せて「2大政党的な制度設計は無理で、複数の政党が協力しながら政権運営する『穏健な多党制』に移行せざるをえない」との認識を示した。
■国民民主党の真価が問われる東京都選挙区
こうした自信の背景には、年明け以来の地方選挙における国民民主党の躍進ぶりがある。最近の全国各地の地方選では、国民民主党の公認候補のトップ当選が相次いでいる。
大型連休初日の4月26日に遊説先の鎌倉市内で記者団の取材に応じた玉木代表は、「神奈川でも確かな手応えを感じている。(一連の勝利を)参院選につなげていきたいし、つなげていける」と、さらなる党の躍進への手ごたえをアピールした。
神奈川県だけでなく、玉木代表が意欲と自信を隠さないのが、参院選地方区で最大の注目区となる東京都選挙区だ。同選挙区の改選定数は6議席だが、昨年の都知事選挙に出馬するため辞職した蓮舫前参院議員の補充も含めると、今回は7議席をめぐる戦いとなる。
この“首都決戦”に玉木代表らが担ぎ出したのが、元NHKの人気アナウンサーである牛田茉友氏(39)だ。毎週日曜日放送の「日曜討論」でキャスターを務めていたことで、「知名度と人気は抜群なので、上位当選は確実」(選挙アナリスト)との見方が相次ぐ。
牛田氏は4月26日、渋谷区で行われた国民民主党の演説会で、同じく東京都選挙区に擁立された会社員の奥村祥大氏(31)と並んで街宣車の上でマイクを握り、「16年、アナウンサーとして社会のさまざまな課題に向き合ってきたが、伝えることだけでなく、変えることに関わりたいという思いが、今、ここに立っている原点です」と出馬に踏み切った理由を説明した。
過去に自民党からの出馬も取りざたされた牛田氏だが、今回、なぜ国民民主党を選んだかについては「(国民民主党は)『人づくりこそ、国づくり』を掲げ、孤独や孤立支援、ヤングケアラー支援など、今まであまり目が向けられてこなかった社会課題の議員立法を積極的に行っている。私もしっかり向き合い、声が届かない人の声を社会に届けたい」と、同党の政策への共感と評価の高さを挙げた。
東京都選挙区は各党の有力候補者がひしめき、固い組織票を持つ公明・共産両党の1議席獲得が有力視される。一方、自民党と立憲民主党は複数の候補を、さらに日本維新の会やれいわ新選組などが独自候補を擁立する構えだ。
そこに、これまで独自候補を擁立しなかった国民民主党が参戦することで、「有力候補の落選も十分ありうる状況」(選挙アナリスト)となるのは確実。「牛田、奥村両氏の得票が国民民主党の実力の証しともなる」(政治ジャーナリスト)のは間違いなさそうだ。
■当面の課題は「有力候補者の確保」
玉木代表の最側近で党運営を仕切る立場の榛葉賀津也幹事長は、4月25日の記者会見で、一部で取りざたされている自公連立政権に参加する可能性について、「政策実現が思うようにならないから『チームに入って』というのはない。今の状況で連立入りはない」と、あえて否定的な見解を示した。
国民民主党にとっては、参院選での大躍進の前提となる多数の有力候補者の確保が課題となっている。「公募に応じる人数は急増しているが、当選目当ての人物が多く、国会議員にふさわしい経験や知識の持ち主は限られる」(選挙対策幹部)からだ。しかも、そこに一連の“不倫問題”が降りかったことで、「候補者選考が一段と難しくなった」(永田町関係者)。
いずれにしても、夏の政治決戦までの2カ月余りとなる中で国民民主党がさらに勢いを増すか、失速するかは、「『減税』をめぐる石破政権の対応や内閣支持率の推移など変動要因が少なくないので、直前までわからない」(政治ジャーナリスト)との声もある。
東洋経済オンライン
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最終更新:4/28(月) 17:02