JR上場4社が大幅増益、相次ぐ値上げと合理化は「コロナ危機への便乗」か?

5/22 4:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 JR東日本・西日本・東海・九州の上場4社が2023年度決算を発表した。昨年5月8日に新型コロナウイルス感染症が感染法上の5類に移行し、行動制限がなくなったことで、通勤定期利用を除く鉄道利用はほぼ正常化した。決算内容も、2023年度が事実上の「アフターコロナ元年」とだったことを示しており、今回の決算は「ニューノーマル(新しい常態)」の基準点として見ることができそうだ。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

● 運輸セグメントの営業損益が 4年ぶりに黒字転換したJR東日本

 JR東日本から見ていこう。2023年度の連結営業収益は2兆7301億円で、対前年度13.5%増、対2018年度では90.9%の水準。営業利益は対前年度145.4%増の3451億円で、2018年度の71.2%の水準だった。

 運輸セグメントは2022年度に241億円の営業損失だったが、2019年度以来4年ぶりに黒字に転換し、1707億円の営業利益を計上した。とはいえコロナ前の半分の水準である。不動産・ホテル、流通・サービスセグメントはコロナ前から順調に成長しているが、鉄道の穴は大き過ぎる。2024年度通期予想は、営業収益が対前期比1219億円増の2兆8520億円、営業利益は同249億円増の3700億円、経常利益は同184億円増の3150億円とした。

 同社は昨年、グループ経営ビジョン「変革2027」の目標年次である2027年度について、営業収益3兆2760億円、営業利益4100億円の数値目標を発表している。不動産・ホテルセグメントは2023年度から約780億円の増収、同約230億円の増益。流通・サービスセグメントは同2744億円の増収、270億円の増益で、ともに2024年度末に第1期開業予定の高輪ゲートウェイ事業が大きく寄与する想定だ。

 運輸セグメントの営業収益は2023年度の1兆8536億円から、2027年度は2兆190億円へ1653億円の増収を見込んでいる。だが、ホームドアや自動運転などさまざまな設備投資が控えており、営業利益は1707億円から1780億円の横ばいとした。

 JR東日本は「変革2027」で、2027年頃をめどに連結営業収益の運輸、非運輸の割合を、7対3から6対4に変えていくとの基本方針を掲げていた。コロナ禍以降はさらに5対5を目指したいとしていたが、2027年度の目標値は連結営業収益3兆2760億円のうち運輸が2兆190億円、ギリギリ6対4を達成できる計算だ。

 もっとも比率の話なので、鉄道が伸び悩めば難易度が下がり、予想以上に回復すれば達成が難しくなる。元々、コロナ禍という特殊な状況を想定して立てられた目標ではないので、数字に一喜一憂しても仕方ないが、利益面では既に変革が起きている。

 2018年度の営業利益は運輸セグメント約3419億円に対して、非運輸は約1429億、運輸の比率は7割だった。それが2023年度は運輸約1707億円に対して非運輸が約1744億円で、5割を切った。2027年度の目標値は運輸1780億円に対して、それ以外が2320億円、つまり運輸が4割となる。これはコロナ禍以前のJR九州と同等の数字である。

 非運輸シフトが加速するJR東日本に対し、JR東海・JR西日本の鉄道事業は順調に復調している。本州三社の鉄道運輸収入を2018年度と比較すると、在来線定期外はJR東日本が4.4%減、JR西日本が3.6%減、JR東海が8.6%で、概ねコロナ前の水準に戻りつつある。一方、在来線定期収入はJR東日本が17.9%減、JR東海が11.4%減、JR西日本が9.6%減となっており、リモートワークの普及率が高い首都圏を基盤とするJR東日本が特に減っている。

 大きな差がついたのは、稼ぎ頭の新幹線だ。JR東海の東海道新幹線は3.4%減、JR西日本は2%減だが、JR東日本の5系統の新幹線は合計で10%減だ。

 今年のゴールデンウイーク輸送(4月26日から5月6日の11日間)を見ると、対2018年度(2019年度は最大10連休なので除く)で東海道新幹線は109%、山陽新幹線は98%、敦賀まで延伸開業した北陸新幹線(JR西日本区間)は116%と好調だが、東北新幹線(東京~盛岡間)は87%、山形新幹線は85%、秋田新幹線は77%。

 上越新幹線は97%、北陸新幹線(JR東日本区間)は102%で、他社の新幹線と大きな差はないが、東北系統だけが極端に戻りが悪いのである。この傾向は大型連休だけでなく、平日も同様だ。JR東日本の運輸セグメントが低調な最大の理由は東北新幹線と言えるだろう。

● JR東海・JR西日本・JR九州の 3社の業績は

 続いてJR東海とJR西日本を細かく見てみよう。JR東海の2023年度の連結営業収益は対前年度22.1%増の約1兆7104億円で、2018年度の91.1%の水準まで回復した。営業利益は対前年度62.2%増、対2018年度で85.6%の水準となる6073億円だ。

 鉄道運輸収入は1兆3428億円で、2018年度の1兆3966億円に迫ったが、JR東海単体の営業費は、2020年に開始した「のぞみ」最大毎時12本化など輸送力増強施策の影響で約507億円増加したため、営業利益を押し下げた。2024年度の通期予想は、2023年度からほぼ据え置きとなる連結営業収益1兆7400億円、営業利益6080億円、経常利益5450億円とした。

 東海道新幹線の輸送量は2023年度下期以降、おおむね対2018年度95%の水準で安定しているため、このまま定常化するという見方だろう。もっとも2024年度通期予想の数字は2017年度決算を上回っており、JR東海はコロナ禍を乗り越えたといっても過言ではない。

 数字上、コロナ前に最も近づいているのがJR西日本だ。2023年度の連結営業収益は対前年度17.2%増の1兆6350億円、営業利益は同114.1%増の1797億円。2018年度の連結営業収益は1兆5293億円、営業利益は1969億円だったので、営業収益では上回り、営業利益も91.3%の水準まで戻った。ただし前者は2021年4月の新収益認識基準適用で旅行セグメントの計上方法が変わった影響が大きいため参考値だ。

 対2018年度の鉄道運輸収入は新幹線、在来線定期、在来線定期外のいずれも、JR本州三社のうちもっとも減少率が小さい。JR西日本は2023年度にセグメントを再編しているため単純比較はできないが、運輸セグメントの営業利益は対2018年度84%だった。これに加えて、不動産セグメントが50億円(同114%)、流通セグメントが69億円(同213.1%)増益したことで利益を押し上げた格好だ。

 2024年度の通期予想は、連結営業収益が対前期830億円増の1兆7180億円、営業利益が同97億円減の1700億円、経常利益は118億円減の1555億円とした。セグメント別の営業利益は、運輸が同56億円増の1200億円、不動産が同56億円減の350億円、流通は同10億円減の120億円としている。

 JR西日本単体で見ると、鉄道運輸収入は北陸新幹線延伸開業と需要回復を織り込んで464億円増の8870億円としたが、営業費用は会員サービス「WESTER」関連経費、北陸新幹線の線路使用料などで431億円増の8720億円、営業利益は45億円増の1200億円と予想した。鉄道事業の見通しは本州三社で最も強気である。

 独立独歩のJR九州は、2023年度の連結営業収益が対前年度9.7%増の4204億円、営業利益は同37.2%増の470億円だった。2018年度との比較では、営業収益は95.5%、営業利益は73.7%の水準となる。

 2018年度の連結営業収益(調整後)は、運輸セグメントが約1798億円、非運輸が計約2605億円、営業利益は運輸が274億円、非運輸が計約372億円だった。2023年度の営業収益は運輸が約1589億円、非運輸が計約2614億円、営業利益は運輸が約103億円、非運輸は約378億円となり、運輸事業の減益がそのまま表れている格好だ。この結果、連結営業利益に占める運輸セグメントの割合は、約4割から約2割に低下した。

 ただ2023年度はコロナ禍で先送りした設備修繕を行っており、2024年度の修繕費は72億円の反動減を見込んでいる。その結果、2024年度の鉄道運輸収入は約26億円、対前期1.8%程度の微増ながら、運輸セグメントは46億円の増益となる見込みだ。

 全体の通期予想は、連結営業収益が対前期207億円増の4411億円、営業利益は同103億円増の573億円。運輸以外のセグメントは不動産・ホテルが同36億円、流通・外食が同4億円の増益を見込んでいる。

● コロナ収束後も続く 合理化と運賃値上げ

 今回の決算を想定以上と見るか、不十分と見るかは人次第だが、鉄道事業者が「存続の危機」を訴え、さまざまなサービス縮小・廃止を進めた結果、数千億円の利益を確保できるようになったことに複雑な思いを抱く利用者は少なくないだろう。

 こうしている間にも、各社は次なる一手を繰り出そうとしている。JR西日本は15日、京阪神エリアの大阪環状線内、電車特定区間、幹線に分かれている運賃体系を、範囲を拡大した上で電車特定区間に統合する運賃申請を国土交通省に行った。

 同社は「京阪神都市圏の運賃体系は、国鉄から継承したまま消費税改定を除いて見直されておらず、かねて都市圏域の拡大に伴う輸送サービスやご利用状況と運賃水準との不一致が課題」と説明しており、郊外の値下げと都市の値上げを相殺し、全体としては増収にならない想定だとしているが、今後どこに経営資源を集中していきたいか、シビアな本音も見えてくる。

 また13日には、JR九州が2024年内にも運賃の値上げ申請を行う意向と日本経済新聞が報じた。こちらは明確に増収を目指したものになるようで、日経は「利用客の減少や鉄道施設の老朽化が進むなか、設備投資や人件費、災害復旧費などの原資を確保する」と解説する。

 JR東日本もかねて硬直的な運賃認可制度の改正を訴えており、収益減や費用増に対する機動的な運賃改定、つまり早期に値上げできる制度を求めている。コロナ禍のトラウマが鉄道事業者を駆り立てているのだろうが、利用者の目にはどう映るだろうか。

 象徴的なのは、JR東日本が5月8日に発表した「みどりの窓口削減方針の凍結」だ。同社は2021年5月、管内440駅にあるみどりの窓口を2025年までに140駅程度までしぼる計画を発表した。

 現時点で200駅程度まで減っているが、定期券の販売が増える年度末・年度始や、不慣れな利用者が増えるゴールデンウイークに長蛇の列ができるなどの混乱が生じたことから、削減を断念せざるをえなくなった。

 JR東日本としては、コロナ禍以降のチケットレス化、キャッシュレス化の流れに乗って、一気にきっぷのデジタル化を進めたいもくろみだった。決算資料によれば、えきねっと取り扱い率は2027年度末の目標値65%に対して2023年度末時点で55.2%、新幹線チケットレス利用率は75%に対して56.4%であり、見込み違いだったとまでは言えない。

 しかし、インターネット乗車券予約サービス「えきねっと」は、リニューアルしても評判がよろしくない。ICカードとひもづけたチケットレスサービスも、一度使えば非常に便利だが、ライトユーザーにはハードルが高いようだ。そんな状況で彼らを受け入れる窓口や券売機が削減されれば、現場が混乱するのは当然だ。

 コロナ禍では終電繰り上げや減便、運賃値上げ、駅の無人化、回数券の廃止など、平時では実行困難な決定が相次いだが、莫大な赤字という異常事態を前に利用者はしぶしぶ納得した。

 ところが鉄道事業者は、コロナ禍が収束しても、次は人口減少社会を見据えた変革が必要として、さらなる合理化や運賃値上げを訴える。確かに事業者には、ホームドアや災害対策など増大する設備投資や、人口減少の一端としての人手不足など、早急に構造改革が必要という言い分がある。

 利用者としても、鉄道を今後も走らせ続けるために、将来的な自動化や無人化、デジタル化が必要であることに異存はないだろう。だが、いつまでも「危機」が終わらず、事業者の都合で変革が早送りされるのは、惨事に便乗した「ショック・ドクトリン」に他ならない。

 鉄道事業者には以下の2点を認識してもらいたい。一つは以前、取り上げた京葉線ダイヤ改正や野田線の減車の問題と通じるが、鉄道事業者が想定する「未来像」と「現在地点」を明確にした上で、いつどのように移行したいのか、なぜしなければならないのかを利用者や地域にしっかり説明すべきだということ。

 もう一つは、いかに変化が必要であっても、利用者を置き去りにした一方的な押し付けは、お互いのためにならないということだ。現在の仕組みを取り上げて、新たなサービスを選ばざるを得ない状況を作り出すのではなく、あくまでも新旧二つの選択肢を提示した上で誘導しなければならない。言い換えれば「利用者が自ら選択した」という事実が重要なのである。

 合理化は鉄道事業者に(仮にマイナスがゼロになるのであっても)利益をもたらす。それを事業者が独り占めすれば、利用者にはサービス悪化と負担増しか残らない。副次的なものであったとしても、合理化がサービス向上、あるいは維持につながるという利用者の利益を提示できなければ、顧客に向き合った経営とは言えないはずだ。

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最終更新:5/22(水) 4:02

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