アセットマネジメントOneの投資信託「One高配当利回り厳選ジャパン」のファンドマネージャー河井貞治さんにインタビュー。同ファンドは「ダイヤモンド・ザイNISA投信グランプリ2024」で、日本株総合部門のフレッシャー賞に輝いた。
「ダイヤモンド・ザイNISA投信グランプリ」は、NISAで買える成績優秀な投資信託をダイヤモンド・ザイ編集部が公平・中立な立場で審査し、表彰するもの。フレッシャー賞の「One高配当利回り厳選ジャパン」は高配当をうたうが、配当利回りのみならず、株価上昇も狙える銘柄を選び抜いて投資している。
その投資戦略が功を奏し、3年間の上昇率は79.5%という抜群の成績を残す。河井さんに好成績の秘訣を語ってもらった。
●配当利回りの高い銘柄がいい投資先とは限らない!
「One高配当利回り厳選ジャパン」の投資哲学とは
──「One高配当利回り厳選ジャパン」が成績優秀で、「ダイヤモンド・ザイNISA投信グランプリ2024」においてフレッシャー賞に輝きました。運用の特徴を教えてください。
河井 配当(インカムゲイン)と利益成長による株価の伸び(キャピタルゲイン)、両方によるトータルリターンを狙っています。
「高配当」と名のつく投資信託には、配当利回りの高い銘柄ばかりを集めたものもありますが、そうではありません。 株価の上昇にも期待しており、ROE(自己資本利益率=利益÷自己資本×100)に着目しています。
──ROEを重視しているのはなぜですか。
河井 投資哲学として持っているのが、株のトータルリターンはROEに収れんするということ。ROE10%を継続する銘柄であれば、長期保有すれば10%のトータルリターンが得られると考えています。
ROEが高いということは、しっかり利益が出ており、株主還元を出した残りは内部留保になる。それを設備投資や研究開発などに再投資することで、利益成長していきます。このように、配当と利益成長のバランスのいい銘柄に投資します。
(※編集部注:ROEとは、企業が株主から集めたお金を元手にどのくらい効率的に稼いでいるかを示す指標。「当期純利益÷自己資本」で計算される。基本的には数字が大きいほど好ましい。)
●「One高配当利回り厳選ジャパン」の投資対象は
“3年後に市場平均を上回る配当利回り”が期待できる銘柄
──「One高配当利回り厳選ジャパン」の銘柄はどのように選んでいるのでしょうか。
河井 アナリスト約20人が常に約700銘柄を調査・分析しています。その中から当戦略に合う銘柄はどれか、ファンドマネージャーとアナリストが議論を重ね、投資対象を厳選していきます。
ファンドマネージャーが、投資にふさわしいと判断した数百銘柄については、業績が良いとき・悪いときにかかわらず定点観測を続け、投資チャンスをうかがっています。
──どのような時に投資するのでしょうか。
河井 銘柄については、調査・分析に基づき、3~5年先の利益や配当の伸びを長期予測しています。足元の配当利回りだけで判断するのではなく、3年後に市場平均を十分に上回る配当利回りが期待できれば投資対象になります。
──3年・5年後の業績や配当を予測するのは難しそうですね。
河井 取材を通じて、事業展開しているマーケットの成長性や競争環境、その企業の事業の仕組みや技術などに競争優位性があるか、高い参入障壁を築けているか、といった点を把握していきます。
確かに5年後の利益数字をピタリと当てることは難しいです。でも取材していく中で、他社が簡単には追いつけそうになく、儲かるビジネスだということは理解できます。そういう企業は3年後、5年後に利益が成長していく可能性が高くなります。
いまの配当政策が維持されれば、利益の伸びに合わせて配当も成長が期待できます。中期経営計画における資本政策や、株主還元が変化しそうかといった点もチェックしています。
●3年後の予想配当で計算しても割安度が低下
パルグループホールディングスの組入比率を引き下げた
──ここからは具体的に「One高配当利回り厳選ジャパン」の組入上位の銘柄についてお聞かせください。
河井 銘柄数は30数銘柄と少ないですが、業種いわば利益の源泉の分散を心掛けています。
例えば、総合商社は伊藤忠商事(8001)だけです。商社という分類ですが、マクニカホールディングス(3132)は半導体とセキュリティの専門商社。また豊田通商(8015)は、トヨタ自動車の生産回復の恩恵が期待できることに加え、アフリカに強みがあり、アフリカでのモータリゼーション(自動車の大衆化)の恩恵が期待できます。このように同じ商社というくくりでもビジネスモデルは大きく異なります。
総合商社やメガバンクというくくりで、株価の連動性の高いものは2社以上入れていません。その中で投資戦略に最も合う1社に投資する。それ以外は専門商社のようにビジネスモデルが尖ったものをピックアップしています。
──1月まではパルグループホールディングス(2726)が組入上位10銘柄に入っていました。
河井 パルグループホールディングスは都心立地のアパレルで、コロナではだいぶ苦戦しました。もともとビジネスモデルは知っていたので定点観測を続け、業績が苦しい時期も経営層に取材していました。
パルグループは商品サイクルが1カ月と短いのが特徴です。コロナの危機的な状況で、他社が在庫をダブつかせていた時も、在庫処分が早かった。また300円雑貨ショップの「3COINS」はコロナ禍でも業績が落ちず、2ケタ成長を続けていました。
EC(ネット販売)が重要性を増す中で、社長のトップダウンで自社ECを強化するなど機動力のある会社です。他のアパレルはECが伸びると実店舗の売上が落ちてしまいますが、ECも実店舗もどちらもいい。
マーケティングもSNSを活用するなど独特でした。お店でインフルエンサーを育成しており、売上につながればそれに応じて手当が出る仕組みで、社員のモチベーションも高い。
取材を通じて、こうしたビジネスモデルの特徴や独自の取り組みは、把握できていました。
コロナの影響で、パルを含むアパレル全体の株価が下落し、配当利回りが上昇していたので投資しました。アパレルの中でも業績の回復が早く過去最高益を更新し、投資をしてから3~4年間のパフォーマンスはトップレベルとなりました。
株価が上昇し3年後の予想配当で計算しても割安度が低下してきたので、いまは投資比率を下げています。
●半導体業界は生成AIの進展によって構造変化が起きる?
株価水準が大きく切り替わる可能性も!
──「One高配当利回り厳選ジャパン」は東京エレクトロン(8035)も組入上位に入っていますが、この半年間で株価は約70%上昇しました。足元(2024年5月1日時点)の配当利回りは1.06%です。すでに割高ではありませんか。
河井 東京エレクトロンは成長力が高く、3年後、5年後に高い利益水準が見込めます。また、株主還元も配当性向50%を目安とするなど、しっかりやる会社です。
半導体業界は、生成AIによって構造変化が起きる可能性もあり、そうなれば株価水準が大きく切り替わる。確かに、最近の株価上昇でだいぶ割安感はなくなり、想定している株価水準の上限近くです。
しかしながら、半導体市場の成長と株主還元の両方を満たす銘柄は少なく、業種を分散させる意味でも、いまのところ比率を下げつつ半導体銘柄の代表として持ち続けています。
──「One高配当利回り厳選ジャパン」は3年の成績がいいですが、この間のバリュー相場が追い風になったこともありそうです。
河井 米国の長期金利が上昇していく局面で、バリュー株(割安株)には追い風でした。
ただ我々の投資戦略は、配当利回りだけに着目しているのではなく、利益成長もあるバランスのいい銘柄を選んでいます。この先、バリュー相場からグロース相場へと相場環境が変化しても、対応は可能と考えています。
──苦戦するような局面はありますか。
河井 金融緩和的になって、割高な銘柄がどんどん買われるときは苦戦します。需給が歪み大量の売り買いが発生するような局面では、株式市場の上昇についていけません。例えば、20年のコロナショックの後、世界的に資金供給があり、テーマ性の高い株や利回りの低いグロース株(成長株)がどんどん買われる場面がありました。20年は年末までかなり苦戦をしました。
しかし経験則から、需給が落ち着き、収益性を反映した株価が形成されるようになるとリターンを取り戻せます。
一時的に苦戦することがあっても、しばらく経てば相場環境は是正されます。したがって、この投資戦略を変えるつもりはありません。
「One高配当利回り厳選ジャパン」が受賞した「フレッシャー賞」は運用期間が5年未満の投資信託が対象。NISAで保有する意味でも、今後、運用期間が長期にわたっても好成績を残してくれることに期待したい。
※「ダイヤモンド・ザイNISA投信グランプリ2024」とは?
月刊マネー誌『ダイヤモンド・ザイ』では毎年、良い投資信託を表彰。第2回となる今回は、“新NISAで買える”好成績のアクティブ型投信30本を表彰した。本グランプリの特徴は、「5年以上の運用成績があり、みんなが買っている分野・投信に限定し、1.どれだけ上がったか(成績)、2.どんな時も下がらない(下がりにくさ)、3.ずっと優等生(成績の安定度)」の3つの基準で選定している点。完全な実力主義で評価し、「個人投資家にとって本当にイイ投資信託」かという点にこだわっている。特別枠として5年未満の好成績投資信託を厳選し、フレッシャー賞を設けている。
ダイヤモンド・ザイ
最終更新:5/22(水) 13:46
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