会社の「箔」より「採用力」重視の時代? データで見るオフィス市況変化《楽待新聞》

4/28 19:00 配信

不動産投資の楽待

新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、オフィスワーカーの働き方は大きく変化した。そのうちの1つが、働く場所を選ばないリモートワークの普及だ。

これにより、働く人の労働環境に対する意識も変わり、企業はオフィスのあり方を見直すようになった。

コロナ禍に進んだ働き方の変化は、オフィス需要にどのような影響を与えたのだろうか。オフィスビル空室率や賃料の動向から、コロナ後のオフィスマーケットの変化を探ってみよう。

■主要5区の平均空室率は5%台を推移

三菱地所リアルエステートサービスが2024年3月に発表した「東京主要7区 オフィスビル空室率・平均募集賃料調査」は、同年2月末時点の東京都心の主要大型ビル(延床面積3000坪以上)の空室率や募集賃料を調べたものだ。

主要7区とは、千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区・品川区・江東区を指す。

調査対象は日本で最も「都心」と呼べるエリアの大規模オフィスビルに限られているため、この分析によってマーケット全体の傾向を読むのは少々早計かもしれないと断っておこう。

調査結果を見ると、主要7区オフィスの空室率は回復傾向にあり、主要5区(千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区)の平均空室率は1月に引き続き5%台を推移している。

主要7区の中で空室率が最も低いのは千代田区(2.55%)で、渋谷区(4.38%)、品川区(6.50%)、新宿区(6.48%)、江東区(6.63%)が続く。反対に空室率が最も高いのは港区(8.30%)となっている。

品川区と江東区の空室率は、2023年1月末時点では10%を超えるほどの高さであった。その後は下降傾向となり、2023年12月末時点で品川区は6.67%、江東区は7.64%と、大幅な回復を見せていた。

レポートで注目されているのが渋谷区だ。渋谷駅周辺では「100年に1度」と呼ばれるほどに再開発が盛んだ。オフィスビルも多く竣工している。

このエリアは、IT企業やグローバル企業を中心に高い需要があるため、新築のオフィスビルが満床になるまでもあまり時間がかからないと見られている。

なお、代々木エリアではまとまったテナントの解約があったと言うが、それでも空室率は4%台前半と低水準だ。

■平均賃料が最も高いのは千代田区

次に、平均賃料の動きを見てみよう。

千代田区の坪当たりの平均賃料は3万7715円で、他区と比べて群を抜いて高い。千代田区の平均賃料は前年同月比でも上昇している。

丸の内や大手町をはじめとした、主要なビジネスエリアを抱える区だけにオフィス需要は堅調だ。

一方、港区は空室率が7区中で最も高いものの、平均賃料は3万1061円と千代田区に次ぐ高さをキープしている。

主要5区の平均賃料を前年同月比で見ると、中央区以外の区では上昇がみられた。千代田区、港区、渋谷区の上がり幅は坪当たり1500円を超えている。

これに対して、中央区は5114円下落した。同区では、好立地の物件や築浅の物件は賃料が高額でも需要がある一方、立地が劣る物件や築古の物件は賃料を下げても決まりにくく、区内のオフィス需要が二極化しているという。

2023年の年間マーケットレポートを参照すると、2023年の主要5区におけるオフィスビルの新規供給量は3年ぶりに過去の平均を上回った。

供給量が増えたにも関わらず空室率は平年並みということを踏まえ、新規供給を上回るオフィス需要があったと分析されている。

■快適なオフィスが企業の採用力に?

新型コロナが猛威を振るっていた時期には、リモートワークの普及による働き方の変化が住宅市場に影響を与えたとの報道が目立った。その影響はオフィス市場にも及んでいるようだ。

国際不動産企業のCBREが発表したレポートによると、企業がオフィスの立地戦略について最重要視しているのは「従業員の通勤利便性」だという。そこには「人材の確保」という狙いもあるのだろう。

人材不足からさまざまな企業が採用活動の強化に乗り出しているのは周知の事実だが、採用力強化にはオフィスの立地戦略も関わっている。

CBREと同じく国際不動産企業のJLL(ジョーンズ ラング ラサール)が発表したレポートでも、オフィスワーカーの労働に対する意識の変化が取り上げられている。

「昇給や昇進といった金銭的な報酬に加えて、物理的・精神的な労働環境を重視するワーカーが増えてきた」と指摘されている。

つまり、多くの企業が採用活動を行うにあたり、優秀なワーカーに選ばれる企業になるためには「従業員が働きやすい環境」をアピールする必要があると言える。

例えば、フリーアドレス席や従業員同士のコミュニケーションを促すカフェスペースの導入といった、物理的な環境を積極的に作ることもワーカーへのアピールにつながるわけだ。

オフィスの立地場所は「会社の箔を示す」という考え方は根強い。これまでは、企業のオフィス選びが企業目線だったとしても、人材が集まった。

だが今後、企業はその考えを改め、従業員目線でオフィスの選定をする必要があるだろう。

賃貸物件のオーナーも同様に、入居者目線での運営が求められると言える。何が差別化のポイントになるのか。オフィスワーカーの立場に立って検討してみれば、新しいアイデアが見えてくるかもしれない。

朝霧瑛太/楽待新聞編集部

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最終更新:4/28(日) 19:00

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