「ふてほど」「はて?」「もうええでしょう」…昨年の流行語に隠されていた“モヤモヤ感”の解消作用とは

1/11 10:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 「不適切にもほどがある!(ふてほど)」「はて?」「もうええでしょう」これらはいずれも、昨年の流行語大賞にノミネートされた言葉です。そして、予想以上に大ヒットし、若者も投資を始めた「新NISA」……多くの人が口にしたり、耳にしたりしたこれらの言葉には、ある共通点がありました。何だか分かりますか?(電通 シニア・マーケティング・ディレクター 佐藤真木)

● 「不適切にもほどがある!」で視聴者の強い共感を集めたセリフ

 「不適切にもほどがある!(ふてほど)」「はて?」「もうええでしょう」……これら三つは、いずれも2024年の流行語大賞にノミネートされた言葉です。これらにはある共通点があります。

 その共通点とは、「優れた『インサイト』があったこと」です。優れたインサイトとは、言い換えれば「人を動かす隠れたホンネ」。みんながモヤモヤと考えていたこと、誰かが言語化してくれると「ああ、それそれ!」となるような言葉ともいえます。

 「不適切にもほどがある!」は昨年大ヒットした人気ドラマで、ドラマタイトルの略称「ふてほど」は、昨年の流行語大賞にも選ばれました。現代の、時に過剰ともなりがちなコンプライアンス社会において、私たちが日頃モヤモヤと感じていたけれど、言葉にして自覚できていなかった隠れたホンネを、明確なセリフとして言語化してくれた「インサイト」の宝庫だったからこそ、世の中の人々から強く共感され、大ヒットになったといえます。

 ドラマでは、阿部サダヲさん演じる昭和のダメ親父が、1986年から2024年にタイムスリップしてきます。昭和の人間から見た2024年の現代日本は、不思議なことがたくさん。例えば、視聴者の強い共感を集めたのは、次のようなセリフの数々でした。

 「頑張れって言われて会社休んじゃう部下が同情されてさ、頑張れって言った彼が責められるって、なんか間違ってないかい?だったら彼は何て言えばよかったの?」

 「社員のやる気を削ぐのが、働き方改革ですか?」

 「認定して終わりじゃ、しょうがないと思うけどね。これはパワハラとか、パワハラじゃなくてモラハラとか、細かく分類して解決した気になってるだけなんじゃないの」

 いずれも、コンプラ意識が日増しに高まっていく現代社会の中で、私たちが、ふと感じたことがあるようなモヤモヤです。ただ、私たちはこれらの感覚や感情を誰に話すわけでもなく、なんとなく納得しきれない感じのまま、日々の業務に忙殺されながら、いつの間にか心の奥底に沈めてしまっています。その埋もれてしまった感覚や感情を、ドラマのセリフとして明確な言葉=インサイト、として表現してくれたからこそ、人々が強く共感したのではないでしょうか。

● 虎に翼「はて?」、地面師たち「もうええでしょう」

 「はて?」は、NHKの朝ドラ「虎に翼」で伊藤沙莉さんが演じた主人公、寅子の口ぐせです。世間で常識とされていること、「そういうものだから」と誰かが我慢させられてきたことに対して、「はて?」と寅子が疑問を呈するシーンが何度も描かれていました。

 道理が通らないものには絶対に納得しない、という寅子の性格から発せられる一言が、当時の男女不平等が大きかった時代への怒りを表現しているだけでなく、現代の日本社会にもまだまだ多くある「なんか納得できないモヤモヤする瞬間」にも通じるということで、視聴者の心を捉えました。

 さらに、「もうええでしょう」もドラマのセリフです。NETFLIXのオリジナルドラマ「地面師たち」で、ピエール瀧さん演じる不動産ブローカーが、都合が悪くなったときに発する一言です。お笑い芸人たちを中心に、「もうええでしょうゲーム」が生まれるほど、流行しました。

 「これ以上探られたくないときに、なんと言ったらいいのかわからなくてモヤモヤする」といった人々の気持ちに対して、こういえば冗談気味にバシッと言い返せるのか、という気づきを与えた、インサイト溢れる便利なひとことです。

● 2024年の大ヒット商品「新NISA」のインサイトとは?

 また、2024年に大ヒットした商品として、「新NISA」がありました。この大ヒットの要因にも、実は「インサイト」=隠れたホンネが潜んでいます。

 新NISAの流行の要因としてよくいわれているのは、旧NISAからの非課税投資枠拡充や非課税期間の無期限化などの税制優遇に加えて、物価や生活コストの上昇による将来不安が大きくなったから、というものです。これらも確かに大きな要因ではありますが、これらは誰もが知っている、いわゆる「常識/定説」であり、「隠れたホンネ」=インサイトとは言えそうにありません。新NISAの大流行におけるインサイトとは、いったい何だったのでしょうか?

 NISAやiDeCoなどに代表される、「貯蓄から投資へ」といった政策は、90年代の「日本版金融ビッグバン」から始まり、今までに、さまざまな税制優遇や金融商品が生まれてきました。筆者も学生時代に投資クラブを設立した経験もありますが、ただ、それでも長い間、なんだかんだ言っても「投資はお金持ちのやるもの」、「投資はリスクがある」という意識が世の中では根強く、投資はあまり広まりませんでした。

 そんな中、おそらく、新NISAの流行に大きく影響したのは、先ほどの税制優遇と物価上昇に、さらに「若者のSNSリテラシーの向上」が加わったことだと考えられます。

● SNSやインフルエンサーから投資を学ぶ若者が増えている

 若者たちは、今や投資に関する様々な知識や情報を、SNSやインフルエンサーなどからごく簡単に入手しています。そこで、単に手軽な儲け方といった情報だけではなく、新NISAのリスクや危険性、初心者がよく陥りがちな失敗例なども確認しながら、楽しく無理なく、学んでいるのです。さらには、身近な友人たちの、「新NISAやってみた」といった投稿を見たり、自分でも新NISAについて投稿して、友人たちから情報の真偽を確かめたり、アドバイスをもらっていたりしています。先ほど、「SNSリテラシー」という言葉を使いましたが、SNSを使いこなすことによって、「投資のリスク」を、手軽かつ入念に確認しながら、低リスクで、小さい金額からでも投資を始められるようになったのではないでしょうか。

 さらには、今までの投資は、自己責任で、一人でコツコツ、黙々とやるもの、といったイメージでしたが、SNSやオンラインコミュニティが普及する中で、“投資仲間”と情報交換や成果報告をし合いながらワイワイ続ける、というスタイルが若者を中心に生まれ始めています。投資の成果を「○○円増えた!」とSNSに投稿したり、失敗談を共有したり、初心者向け勉強会をオンラインサロンで開いたり……いまや投資は一人でコツコツというより、むしろ“お祭り気分”や“イベント感覚”で楽しむムーブメントになりつつあるのかもしれません。

 新NISAが大流行したのは、今まで長年、みんなが「投資はリスク」と思っていた状況から、「実は、これからの時代は、投資しない方がリスクなのではないか?」という気持ちに、タイミング良く一気に転換したからではないでしょうか。この「実は、投資しない方がリスクなのではないか?」という人々の気持ちの変化が、新NISAの大ヒットを後押しした「人を動かす隠れたホンネ」=インサイトだったのではないかと、筆者は考えています。

 2025年は、いったいどのような年になるのでしょうか?時代の変化の中で起こる、人々の気持ちの変化に寄り添い、見つめていくことで、人を動かす隠れたホンネ=「インサイト」を捉えたヒット商品を生み出せるかもしれません。

 拙著『センスのよい考えには、「型」がある~感覚を言語化するインサイト思考~』では、これまで個人の資質の問題とされてきた「インサイト」の発見方法を、「出世魚モデル」という5つの思考ステップと、さらにシンプルな「逆説モデル」として整理しています。誰にでも実践できる再現性の高い「型」として、丁寧に解説していますので、人気コンテンツやヒット商品を生み出したい方は、ぜひ参考にしてください。

ダイヤモンド・オンライン

関連ニュース

最終更新:1/11(土) 10:02

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング