制約だらけの日本版ライドシェア、普及進めば「駅近物件」評価が変わる?《楽待新聞》

4/19 19:00 配信

不動産投資の楽待

4月8日、日本版ライドシェアが東京都内(23区・武蔵野市・三鷹市)や京都市の一部でスタートした。12日には横浜市でも開始したほか、4月下旬には名古屋市での導入が予定されている。

都市圏や観光地でのタクシー不足を補う目的で導入されたものだが、今後ライドシェアが普及することで、移動がより便利かつ安価になり、空き車両の活用や渋滞緩和にもつながると考えられている。

普及がさらに進めば、駅近の物件のアドバンテージが低減したり、駐車場付き物件の需要が低下したりと、賃貸需要や物件購入の目線にも影響を及ぼすかもしれない。

今回の記事では、ライドシェアの仕組みを紹介した上で、それによって将来的に不動産投資にどのような影響が出るのか考えていきたい。

■深刻なタクシー不足、ライドシェアで改善図る

「ライドシェア」とは、Ride(乗る)とShare(共有)を組み合わせた言葉で、「相乗り」を意味する。自家用車を使って、一般のドライバーが有料で人を運ぶサービスを指している。

これまでの日本では、人を運ぶと言えば専ら「第2種運転免許」を有したタクシードライバーの仕事であった。

しかし、コロナ禍の利用者減少に伴ってタクシードライバーも減少。各地域で深刻な「タクシー不足」が嘆かれている。コロナ禍も明け、外国人観光客が戻りつつある今、こうしたタクシー不足は加速していくだろう。

そこで、地域交通の改善を目指して検討されたのが「ライドシェア」である。

海外ではすでにライドシェアが普及しており、市場規模も拡大の一途を辿っている。アメリカ、中国、東南アジアなどでは、主にプラットフォーマーがスマートフォンのアプリを用いてサービスを提供している。

日本版ライドシェアも、スマートフォンアプリを活用したサービスという点では同じだ。

タクシーアプリとして知られている「GO」や「S-RIDE」のほか、ウーバージャパンが開発したアプリなどを用いることで、ライドシェアを利用することができる。

事前に乗車時間や乗車地・降車地を入力し、空車車両の状況とマッチングした場合に車両が迎えにくる。タクシーの配車サービスとイメージは近い。

タクシー不足で移動手段を確保できなかった人にとって、ライドシェアという選択肢が増えたことは魅力的に映るだろう。ドライバーにとっても、自分の車を使って空いた時間に働くことができる点は魅力だ。

■制約も多い日本版ライドシェア

ただ注意したいのは、日本版ライドシェアはアメリカのようにプラットフォーマーが事業として行うのではなく、既存のタクシー事業者が運用している点だ。

アメリカではタクシーよりも2~3割程度低いとされる運賃も、日本版はタクシー利用時と同程度に設定されており、ライドシェア本来のメリットが得られない。

そして、タクシードライバーは客を乗せて走ることができる第2種運転免許が必要なのに対し、ライドシェアは普通免許で行えることにも注意が必要だ。

客を乗せて走るための知識やノウハウは、やはりタクシードライバーに軍配が上がる。車両も整備のされたタクシーではなく、ドライバー所有の自家用車だ。

また、日本版ライドシェアはタクシーの不足分を補うことが主目的のため、国土交通省がデータを分析した上で利用時間帯と導入台数に制限を設けている。

利用者からしてみれば、利用したい時にいつでも利用できる状況ではまだないと言えよう。

■今後はタクシー事業者以外の参入も

先述の利用時間帯や導入台数のほか、ライドシェアを利用可能な地域については、タクシー不足の程度の大きさから決められている。

不足の程度は、配車アプリを使った利用者からの依頼に対して、どのくらい配車できたかを示す「マッチング率」を基準としている。

例えば、10人の配車依頼に対して8台が配車できた場合の「マッチング率」は80%。マッチング率が90%未満になると、タクシーの台数が不足していると判断されるという。

上記に基づいて、4月よりサービスが導入されたのは、東京都内(23区・武蔵野市・三鷹市)、京浜地区(横浜市・川崎市・横須賀市)、名古屋市圏(名古屋市・瀬戸市・日進市)、京都市圏(京都市・宇治市・長岡京市)の4つのエリアだ。

5月以降は、札幌交通圏(札幌市など)、仙台市、県南中央交通圏(埼玉県さいたま市など)、千葉交通圏(千葉市など)、大阪市域交通圏(大阪市など)、神戸市域交通圏(神戸市など)、広島交通圏(広島市など)、福岡交通圏(福岡市など)にも拡大される。

国土交通省はこの12地域以外の地域でも、タクシーが不足している曜日や時間帯によってライドシェアの導入を認める方針だ。

さらに将来的には、タクシー事業者以外でもライドシェア事業に参入できるよう法整備が進むと見られており、その場合、ライドシェアの運行時間、車両なども拡大されると予想できる。

また、価格競争やサービスの差別化によって、より気軽にライドシェアを利用できるようになるのかもしれない。

■ライドシェアが不動産投資にもたらす影響は

現状のライドシェアは、やはり「タクシー不足解消のための策」という側面が強い。海外で普及しているライドシェアのように、市民が気軽に利用できる移動手段としての利便性はまだまだと言える。

今回のライドシェア「解禁」で一般市民が得られるメリットは限定的だが、移動手段の選択肢が広がることは、不動産市場にも少なからず影響が出てくるだろう。

ここからは、日本でライドシェアが普及することで不動産投資にどのような影響が及ぶのか、考えていきたい。

・駅近の物件が差別化できない

今後、ライドシェアの運賃が下がり、気軽に乗車地から降車地の移動ができるようになると、「立地の良さ」という概念そのものに影響が及ぶだろう。

現在は、最寄り駅から徒歩10分以内などの駅近物件に人気が集まる傾向があるが、ライドシェアで移動の利便性が向上すると、最寄り駅からの距離をあまり考慮しない入居者も出てくるかもしれない。

立地の良さが他物件との差別化にならないということになる。

実際、2011年ごろからライドシェアが拡大しているアメリカでは、その傾向が表れている。

ニューヨークの資産管理会社の調査(2018年)によれば、サンフランシスコにある、公共交通機関沿いの物件と公共交通機関から離れた物件の賃料差が縮まった。

約20%あった賃料差が、5年足らずで約15%にまで低下したという。他にも、公共交通機関の利用者が減少するなど、「ライドシェア革命」と題してさまざまな社会通念の変化を指摘している。

このようなレポートの存在を考えれば、ライドシェアの普及が賃貸需要に影響を及ぼす、というロジックが机上の空論ではないことがわかる。

・駐車場付き物件への需要が低下する

また、現在も若者の車離れが進んでいるが、ライドシェアの普及によってその傾向はさらに進むという予想もある。

アパートやマンションに駐車場を設けても利用者が少なく、想定よりも空き状態が続くケースも増えるのかもしれない。

ライドシェアとは少し異なるが、自動運転の普及するアメリカ・ボストンでは、将来的に駐車スペースが48%減少するという民間の予測(2018年)がある。

長い目で見れば日本でも駐車場に対する需要が低下し、「アパートに駐車場が何台あれば良いか」、「入居付けの時に駐車場があることはアドバンテージになるか」といった判断をする際の目線が変わるかもしれない。

・ライドシェアの活用で物件の競争力を高める

アメリカでは、ライドシェアのプラットフォーマーと不動産会社が提携し、入居者が移動時にライドシェアを活用しやすいサービスを提供する例もある。

不動産会社が所有もしくは管理する物件の入居者は、ライドシェアを割引価格で利用できるといった仕組みだ。

このようにアパート経営やマンション投資とライドシェアを連携させることによって、物件の競争力を高めることもできる。

日本でも駅からはなれた物件に入居付けを行う際、ライドシェアの割引券を特典とするようなことが出てくるのだろうか。



ライドシェアの市場規模はどんどん拡大している。日本版ライドシェアも上々の滑り出しだ。

NHKなどの報道によると、サービス提供開始初日のおよそ4時間の間に、ドライバー50人が運行、300組ほどの客が利用したという。

アメリカなどと違って、日本版ライドシェアはまだかなり限定的な運営となっている。日本においてライドシェアが広く普及し、不動産市況にも影響を及ぼすほどになるのは少し先のことかもしれない。

しかし、アメリカですでに交通機関の変化が賃貸経営に波及しているように、日本でもライドシェアと不動産投資が無関係とは言い切れない。

今後の投資計画を考える上で、ライドシェアの存在は頭の片隅には入れておきたいところだ。

倉岡明之進/楽待新聞編集部

不動産投資の楽待

関連ニュース

最終更新:4/19(金) 19:00

不動産投資の楽待

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング