「回らないけどワクワク感は増した」「むしろ衛生的で嬉しい」との声も…。スシロー「デジローで好調」に見る回転寿司の変容

3/7 6:51 配信

東洋経済オンライン

 大手回転ずしチェーンの「スシロー」が好調だ。

 2024年10〜12月期の連結決算では純利益が前年同期比88%増の61億円。2025年9月期通期の純利益予想の4割を稼ぐほどだという。一般的に外食産業は年末年始が稼ぎ時なので、この影響ももちろんあっただろうが、それを踏まえても盛況だ。

 背景には、映像ディスプレイを使用したすしの注文システム「デジロー」設置店の好調がある。

 実は、デジロー設置の背景には、回転ずし業界をめぐる変化が見えてくる。スシロー以外の各社についても見つつ、デジローから見える業界の現状と今後を解説する。

■利益増加に貢献、デジローとはなにか

 デジロー(正式名将:デジタル スシロービジョン)は、各客席に付けられた大きなモニターに、すしの回る様子が映されるシステムだ。

【画像9枚】好調の要因になった「スシローのデジロー」はこんな感じ

 客はまるで本物のすしが回転しているような気分の中、モニター上のすしをタップして注文をする。いわば、デジタル化された回転ずしである。

 このシステムは2023年9月から東京や大阪をはじめとした店舗で試験的に導入されていた。導入店舗の売り上げや顧客満足度が高かったため、2025年度に全国100店舗への拡大を予定している。

 このシステムが売り上げに貢献したことは、今回の利益増加にもよく表れている。

■デジロー、何がすごいのか

 デジローが優れているのは以下の3つの点だ。

 ① ワクワク感の演出による客単価の増加

 ② キッチンの作業効率化

 ③ 衛生面での利点

 1つ目は、客単価が増加すること。筆者の推測だが、客単価が増加する背景にはデジローが持つ「ワクワク感」があると思う。

 これまでのパッドでの注文だと、客は欲しいものだけを注文するから、興味のない商品を見る機会はなかった。ただ、デジローでは画面に流れてくるすしネタはランダムで、興味の無い商品でも楽しくなってゲーム感覚でタップしてしまう。ついつい、という感じだ。これが、客単価のアップにつながっていると考えられる。

 事実、ファミリー層や若年層でデジローの効果が上がっているのは、こうした「ワクワク感」に親和性が高い客層だからということもあるだろう。

 2つ目は、キッチンの作業効率の高まりだ。実際にすしを流す人的コストを減らすことができ、店舗運営の効率が上がる。

 実はスシローでは、デジローに加えて「オートウェイター」というシステムも導入しているが、これはタッチパネルで頼んだ商品を、自動でテーブルまで運ぶ仕組みだ。デジローとの合わせ技で、店舗運営の効率アップに大きな貢献を果たしている。

 さらに3つ目として、衛生面での心配が無いことも重要だ。

 スシローは「醤油ペロペロ事件」で安全性への不安が生まれたことも記憶に新しい。これはすしがレーンに流れていたからこそ起こる問題だったが、デジローではその心配をする必要はまったくない。「スシローは不衛生じゃないの?」というイメージを覆す点で非常に優れている。

 こうして考えると、デジローは客側にとっても店側にとっても良いことずくめで、非常に優れたシステムだといえるのだ。

■回転ずし業界をめぐる現状

 デジローが導入された背景には、回転ずし業界をめぐる現状がある。

 1つ目に運営コストの圧迫、2つ目に回転ずし業界の飽和だ。

 1つ目について。魚の値段が上昇している。円安や、地球温暖化による漁獲量の減少、輸送燃料費の高騰などの影響だ。「安さ」が価値の一つとなっている回転ずし業界にとって、死活問題である。事実、スシローでは2022年10月に大規模な価格改定が行われ、1984年から続いていた「1皿100円」が終了。同じ時期にくら寿司も値上げに踏み切り、同じく100円皿が終了している。

 これまで以上に運営コストを工夫しなければ厳しい局面にあるわけだ。

 これに加え、回転ずしチェーンの国内店舗が飽和している。日本ソフト販売が発表する、すしチェーンの店舗数ランキングによれば、業界全体の店舗数は4164店舗(2024年7月)。その1年前は4201店舗だったので、わずかに減少している。

 実は、2年連続でその数は減少していて、国内店舗数の天井が見えてきた形だ。

 くら寿司の2024年10月期決算資料でも、日本での新規出店は9店舗なのに対し、アメリカ・アジアを合わせた海外出店は19店舗である。

 スシローはより顕著だ。運営会社であるFOOD & LIFE COMPANIESの2024年9月期決算資料では、国内の新規出店数は5店舗であるのに対し、海外出店は42店舗も増加している。

 まとめると、運営コストを低下させたり、魅力的な商品や店舗空間で客単価・客のリピート率を上げたり……といったことが、これまで以上に必要になっているといえるだろう。

 こうした状況に対応したのが、デジローだということができる。「ワクワク感」を高めて客単価を上げつつ、コストカットもできる。まさに回転ずし業界の変化をよく表しているといえるのだ。

■回転ずしの「ワクワク感」を高める各社の戦略

 興味深いのはこうした状況の中、スシロー以外の大衆的な回転ずし店も好調なことだ。

 くら寿司の2024年10月期決算の営業利益は、前年比132%増の56億9900万円。売上高は過去最高である2349億円を記録している。

 また、すき家などで知られるゼンショーホールディングスが運営する「はま寿司」の2025年3月期第3四半期連結累計期間の売上高は1801億円(前年同期比25.9%増)、営業利益は144億円(同96.2%増)と、こちらも絶好調である。

 市場が飽和しているなか、各社が市場の拡大を進めているのだ。ということは、これまで回転ずしに来ていなかった層を顧客として持ってきたり、あるいは既存客のリピート率・客単価を上昇させることに成功している、ということであろう。

 大前提として3社とも、インフレ時代においてかなり安価で商品を提供していることは強い訴求力になっていることは間違いない。

 一方、価格面での魅力だけでない店舗空間の工夫をしているのも確かだ。実際、はま寿司はスシローと似たようなデジタルサイネージ上ですしが回るシステムを一部店舗に導入。スシローと同じく何が流れてくるのかわからない「ワクワク感」を提供している。

 逆にくら寿司は、あえて「アナログ」にこだわって人気を集める。デジタル上ですしを流す2社に対し、いまだに本物のすしをレーンに流す。また、SNSを中心に大きな反響を集めた「プレゼントシステム」は、客の誕生日などに合わせておもちゃと共にケーキなどがレーン上に流れてくるもの。

こうしたサービスを提供する背景には、くら寿司の社長・田中邦彦氏の「くら寿司が目指すのは、ただのレストランではなく食のテーマパークである」という思想があるという(「くら寿司「1000円ホールケーキ」一体なにが凄いか」)。まさに「空間」的な魅力を訴求している。

 こうして見ると、大衆的な回転ずし店が好調な理由の1つは、回転ずしの持つ「ワクワク感」への訴求を各社がそれぞれのやり方で詰めているからではないか。それによって、顧客のリピート率やコミットメントを高め、飽和する市場の中でも拡大傾向にあると考えられる。

■市場の飽和に対応する回転ずしの今後

 物価高や市場の飽和はどの業界でも、いつの時代でも起こりうることだ。事実、飲食業界の他業態でも市場の飽和は起きている。その際に重要なのは、それぞれの業態のどんな部分が顧客への訴求力になるのかを考えることだ。

 回転ずしの場合、その1つが「何が流れてくるかわからないワクワク感」にあっただろう。特に「根室花まる」や「トリトン」「銚子丸」のような地場の食べ物にこだわった回転ずしが登場している現在、大衆的な回転ずし店の1つのポイントはその「ワクワク感」にあるだろう。

 各3社ともデジタル/アナログの差はあれど、その「ワクワク感」にリーチをしている。現在の回転ずし各社は、その楽しみにフォーカスして市場規模を伸ばそうと切磋琢磨している状態だ。回転ずし業界の中でこうした競争がどのように変化していくのか、注目していきたい。

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最終更新:3/7(金) 6:51

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