日銀「金融システムレポート」から予測、2025年の「不動産向け融資」《楽待新聞》

1/18 19:00 配信

不動産投資の楽待

米国でトランプ氏が復権し、2025年の地政学リスクを増加させています。経済的には、米国の景気が強く金利が高止まりしていく中、日本は17年ぶりに利上げを実施していますが、歴史的な円安も経験しています。

米国の経済は全体で見ると堅調ですが、中国は経済成長の減速がはっきりと示されています。生成AIへの期待は高まり、半導体産業は米中対立の中心となってきました。

総じて言えば2024年は、世界的には、米国一強からの多極化傾向がさらに顕著になり、米中のブロック経済化が進み始め、世界経済の二極化を強めてきた1年と言えるでしょう。

日本は物価の上昇と円安への対応としての金利引き上げの動きが最も経済的には重要なできごとでしたが、金融緩和的な環境はあまり変わっていません。

そして、地政学リスクが相対的に安定し、投資家の権利がしっかりと保証されている日本では、海外投資家からの投資もあり、不動産マーケットは総じて悪くなかったと言えるでしょう。

このような環境の中で、日本の金融機関は2025年にどのような融資姿勢を取るのでしょうか。

不動産投資家にとって金融機関の融資姿勢は大きな影響を受けます。未来を予想するのは非常に難しいところですが、金融に携わる一員として予想してみたいと思います。

■日本銀行の「問題意識」から、「融資姿勢」を探ってみる

日本は良くも悪くも「お上」が強い国です。日本銀行や金融庁の問題意識を探ることで、日本の金融機関の融資姿勢を予測することが可能です。

そこで日本銀行が公表している「金融システムレポート」の2024年10月に発表された直近版を基に、日本銀行の問題意識を確認します。

・不動産業向け融資の増加
不動産関連の貸出は増加傾向にある。それを受けて、商業用不動産価格・賃料比率がリーマンショック前のミニバブル期を超える水準に到達している。

・都心の不動産市場のリスク
都心部の商業地区では高額取引が目立ち、不動産取引業の在庫も増加中。

・不動産業の財務状況
不動産業の財務状況をみると、不動産取引業のレバレッジ⽐率は⾜もと⼩幅に上昇しているものの、企業の利払い能⼒の指標であるICR{インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+受取利息・配当金等)/(支払利息・社債利息等)}は、景気回復とともに上昇。ミニバブル期対⽐でみても⾼い⽔準で推移しており、デフォルト率も依然低⽔準で安定している。

ただし、不動産業は他業種と⽐べてレバレッジ⽐率の⽔準が⾼く⾦利感応度も⾼い。

上記をまとめると、不動産価格は過去のトレンドと比べても高値となっており、不動産業の在庫増加が目立つこと、不動産業の財務体質は悪くないものの、金利上昇が悪影響を与える可能性があることを日本銀行は指摘しています。

■2025年の融資姿勢を予想する

では、上記の日本銀行の問題意識をもとに日本の金融行政が行われる場合、金利上昇が予測される日本において、2025年には金融機関の融資姿勢にどのようなことが起こると想定されるでしょうか。

・不動産向け貸出の慎重化
金利上昇局面では、不動産業の収益性が圧迫される可能性があり、銀行は過剰融資を控える方向にシフトするおそれ。都心不動産の高価格帯取引への依存が進んでいる中で、潜在的な価格調整リスクを銀行が警戒する可能性。

・選別的な融資
商業用不動産の賃料対価格比率の過熱感を考慮し、銀行は融資対象を厳選する可能性。具体的には、財務体質が強固で、金利上昇耐性が高い不動産事業者に貸出を集中し、融資先の選別が進むおそれ。

・地方不動産の注視
地方都市や郊外不動産への融資には、都心以上に慎重になると予想。これは、人口減少の加速による需要の低迷リスクが背景。

・住宅ローン市場の影響
銀行の不動産向け融資姿勢は、住宅ローン金利にも波及。住宅ローンの需要を支えるため、金利上昇幅を抑える努力が続けられるが限界あり。

・長期固定金利貸出の回避
金利が上昇していくのであれば、現時点では固定金利貸出よりも変動金利貸出を金融機関は選好。金利が上昇していくのであれば、金利が上昇するまで待ってから固定金利で貸し出した方が金融機関が儲かるため。

・長期貸出の固定金利水準自体の上昇
上記と理屈は一緒だが、金利上昇局面においては長期固定貸出金利の絶対水準を上昇させるのであれば金融機関は融資に応じる可能性。要は将来想定される金利上昇分を織り込んだ (割高な) 固定貸出金利ならば、現時点でも貸し出しを行おうと金融機関は考えるため。

これらの予想は、地政学的リスクや国際金利動向などの外部要因に左右される可能性が高いと言えます。

また、特に地方銀行は貸出先が乏しく、業績維持のため資金需要がある不動産業への融資を簡単には絞れません。そして、日本の円安や低金利環境を評価し、海外からの不動産への資金流入が続けば、金融機関の融資姿勢が厳しくならずに、現状維持となることも十分にあり得ます。

■「株式持ち合い」の解消は不動産融資に好影響?

2025年における金融機関の融資姿勢は、不動産投資家にとっては良いものではないかもしれません。

ただし、プラスに働く事象も進展しています。それが「株式持ち合い」の解消です。

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キーワード…「株式持ち合い」
株式持ち合い(政策保有株)とは、取引先との関係性向上などを目的に、企業同士が互いの株を持ち合うこと。

日本ではこの慣行が長らく行われてきたが、近年、株式持ち合いは経営の透明性や効率性に問題を引き起こすことが指摘されており、解消の動きが加速している。
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金融機関が、リスク資産である持ち合い株を売却することは、自己資本比率の向上につながり、健全性も改善します。保有株式の売却益が一時的な収益改善要因となりますが、一方で、収益構造の転換が求められる場面も発生してくるでしょう。

2025年において銀行と一般企業との株式持ち合い解消が進展する場合、銀行の融資姿勢には以下のような影響が予想されます。

・貸出姿勢の積極化
株式保有リスクの低下により、規制上の資本の余裕が生じれば、その分を融資拡大に振り向ける余地が発生する。事業法人との株式持ち合いに依存した関係から脱却することで、より多様な顧客層に対して公平な貸出が可能になる。

・融資基準の厳格化
株式持ち合いが減少することで、持ち合いを背景とした「関係融資」が減り、事業法人への貸出基準がより収益性やリスク管理を重視したものになる可能性が高い。金融機関が事業法人の経営に対して影響力を行使しづらくなるため、事業法人の財務状況や事業の実績を厳しく精査する必要も。

・貸出先の多様化
従来のような持ち合い先に偏った融資から、スタートアップや中小企業、あるいは新規事業分野(脱炭素関連やデジタル分野)など、より幅広いセクターへの融資が促進される可能性がある。地方銀行では、地元企業との連携を強化し、地方経済への貸出に注力するケースも増えると予想する。

・利率競争の激化
株式持ち合い解消により、事業法人との親密な関係が弱まると、銀行間の利率競争が激化する可能性。特に信用リスクの低い優良企業に対する融資は、競争による利ザヤの縮小が進む可能性あり。

株式持ち合い解消が進むことは銀行の収益構造や事業戦略の変革に密接に関連しており、2025年以降も中長期的な影響を及ぼすと考えられます。

■金融機関が「預金」を求めてくる可能性

ここまで、金融機関の融資姿勢について予想してきましたが、金融機関が他に求めてくるであろう留意事項があります。それは「預金」です。

金利がある世界においては、金融機関にとって「預金」が儲かる商品になります。低い金利で預金を受け入れ、 その預金を金融マーケット(例えば国債)で運用すれば稼げるようになるからです。

したがって、 金融機関の融資が重要となる不動産投資家に対して、金融機関から「預金のお願い」がなされる可能性もあるでしょう。金融機関は今まで以上に預金を集めるようになるはずです。

この金融機関の要望に素直にしたがいすぎると資金効率が悪くなりますので、不動産投資家としては悩みどころです。



日本において金利上昇局面が到来するのは17年振りです。金利上昇は、特に不動産市場において、徐々にではありますが影響を及ぼすことは間違いありません。

金融機関の融資姿勢が現在のまま続くことも十分にあり得ますが、金融機関は「お上から指摘」されると姿勢を転換することは往々にしてあります。

2025年は、財務体質の改善も視野に入れながら、慎重に金融機関の動きを見極めていく方が良いのではないでしょうか。

(旦直土)

不動産投資の楽待

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最終更新:1/18(土) 19:00

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