地理で考える「日本の都市」に城壁が存在しない謎。世界のほかの都市では作られているものの
日本史と地理は、別々の科目として学びますが、多くの接点があります。『日本史と地理は同時に学べ!』を上梓した駿台予備校地理科講師の宇野仙氏が、世界と比較して日本の都市には城壁がほとんどない理由を解説します。
■城壁が広がる世界の都市
日本の都市と世界の都市を比較すると、日本の都市に見られる1つの特殊な部分が浮かび上がります。それは、「城壁がない」ということです。
世界的に見ると、王がいる都市の周辺には、王を守るために壁が作られている場合が多いです。市街地が城壁で囲まれた集落は、城塞都市・城郭都市とも呼ばれます。
例えばイラクのバグダッドには、今でも古代の城壁が残っています。イタリアにもアウレリアヌス城壁などが残るほか、トルコのイスタンブールも市街地を囲むように城壁が広がっていたと言われており、現在でも訪れることができます。漫画「進撃の巨人」でも、主人公たちは3つの壁に囲まれた都市に住んでいるという設定でしたね。
一方で、日本は都市全体を囲むような城壁はほぼ存在しなかったと言われています。もちろんまったく存在していなかったわけではなく、「土塁」と呼ばれる土で作られた堤防は存在していました。またその一部に石を使った「石垣」や、土や石灰を使った「土塀」と呼ばれる塀も存在しています。
しかし、それらは外国の城壁とは大きく異なります。なぜ日本には、城壁が少ないのでしょうか? 今回は地理の視点を踏まえながら、解説したいと思います。
まず、「なぜ日本に城壁が少ないのか」の答えを考えるためには、「そもそも城壁とは、なぜ作られるものなのか」について考えなければなりません。
言うまでもなく、城壁は戦乱が発生したときに、外敵から自分たちの身を守るために作られているものです。城壁が高ければ、侵入者からの攻撃を防ぐことができます。
でもこれは、周りが平原で囲まれている地域の場合が多いです。平原であれば、四方から攻められる可能性があります。そこで四方を守るために城壁が必要になります。
一方で日本は多くの山や川に囲まれた地形になっています。例えば城の後ろに山があることで背後を守ったり、海や川があることで外敵が攻めるのは困難になります。
例えば鎌倉は、3方向が山に囲まれていて、残りの1方向は海だったため、攻めにくい立地をしています。だからこそ鎌倉に幕府が置かれたと言われています。このように、人工的な城壁がなくても、自然の要塞で防御することが可能なのです。ですから日本では、壁の代わりに自然の力を活用していたと考えられます。
もう1つ考えられることとして、城壁が地震で壊れてしまう説です。今も昔も変わらず、日本は地震が多く、高い建物を作っても壊れてしまう危険性があります。せっかく高い壁を作っても、地震で壊れてしまったら危ないですし、意味がないですよね。
海外では地震が少ないのであまり考慮しなくていいわけですが、日本では死活問題です。だからこそ城壁が少なかったのではないかと考えられます。
■城壁よりも堀が作られることが多い
さて、都市だけでなく城にも注目してみましょう。日本の城の特徴として、城壁よりも堀が作られる場合が多いことが挙げられます。
堀は、地面を掘って作られた水路のことであり、そこに水を流すことができれば外敵の侵入を防ぐことができます。
先ほど「土塁」という堤防の話もしましたが、これは基本的に、この堀を掘ったときに出てきた土を利用し、堤防状に作られたものです。つまり土塁も、ほとんどの場合、堀ありきで作られているわけですね。
堀は日本の風土と合っているものでした。壁とは異なり、地震で倒れるなどの心配もほとんどありません。また、日本は雨が多く、堀の中に水を入れることが容易だったため、城壁よりも堀のほうを防御策として建設する場合が多かったと言われています。
日本人の感覚からすると意外に感じる人も多いと思いますが、実は世界的に見ると堀がある城は珍しいです。それは、ほかの地域では日本ほど水の確保が容易ではなかったからと考えられます。
堀で特に有名なのは、姫路城ですね。美しい白い外観と複雑な防御構造で知られています。城の周囲に幅広く深い堀が巡らされているうえに、「外堀」「内堀」など堀が幾重にも重なっているのです。こうすることによって、攻め込まれても守りやすい堅固な防御ができていたと言われています。
■埋め立ててしまえば防御力失う
しかしこの堀、「埋め立ててしまえば防御力を失う」という側面もあります。「堀の埋め立て」が行われたことで有名なのは大阪城です。「大坂冬の陣」の後、徳川家康は豊臣氏の居城である大阪城の堀を埋めたと言われています。これによって、豊臣側の防御を完全に失わせた、というわけですね。
まとめると、日本に「城壁」が少ないのは、日本の国土・風土とあまり合っていないからです。山が多く、地震も発生し、多雨な日本では、「堀」のほうが防御として適していたわけですね。
日本史と地理を同時に学んでいくと、このように新しい発見をすることができます。みなさんにも、ぜひこの2つの科目を通して、学びを深めていっていただければと思います。
東洋経済オンライン
関連ニュース
- 新たな挑戦で「結果出す人」と「そうでない人」の差
- 「東大理3受かった子」に共通する"意外な性格"
- "東大理3"合格掴んだ「録画勉強法」のスゴい効果
- 模試1位でも「東大不合格」解き方でわかる"要因"
- 東大受かった子に学ぶ、合否を分けた「僅かな差」
最終更新:1/16(木) 16:02