金正恩がロシアに工兵部隊の派遣を約束した!

7/9 16:02 配信

東洋経済オンライン

 ウクライナ侵攻を巡る最近のプーチン氏の発言で、やけに強気ぶりが目立つようになってきた。2024年6月14日に行った演説では、侵攻開始後初めて停戦に応じる条件を具体的に提示。ロシアが一方的に併合を宣言した東部・南部4州からのウクライナ軍の完全撤退や、北大西洋条約機構(NATO)への不加盟などを求めた。

 この条件をキーウ側が受け入れることはありえず、それを承知のうえでの一方的な「降伏要求」とも言える内容だった。プーチン氏は2024年7月5日のオルバン・ハンガリー首相との共同会見でも、目指しているのはウクライナとの単なる「休戦ではなく、紛争の最終的な終結だ」とも述べ、ロシアが軍事的に圧倒的優位に立っているとの認識を内外に強調した。

 しかし、軍事的にロシア軍が主導権を維持しているとは言え、強く抗戦を続けるウクライナを完全に追い込んだとはとても言えないのが現状だ。こうした表の向きの発言だけでは、その強気ぶりを説明できない、別の事情があると感じた筆者はその背景を探ってみた。

■プーチン訪朝時の約束

 その結果、その事情が判明した。冒頭に記した6月の演説の直後に行われたプーチン氏の訪朝で、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記が秘密裏に、ロシアへの本格的軍事支援として、侵攻作戦への大規模な部隊派遣を約束したのだ。

 両国間の交渉に詳しいロ朝関係筋によると、派兵は10万人規模にもなる見込みという。派遣部隊は戦闘部隊ではなく、工兵部隊だ。工兵とは通常、純粋な戦闘部隊ではなく、架橋工事や障害物撤去など戦場での補助的任務を行う部隊だ。

 しかし、武器は携行するとみられており、状況次第で彼らが戦闘部隊に転じる可能性は大いにあると同筋は話す。ただ、具体的な派兵時期は本稿執筆時点では不明だ。

 全部隊は、1回で投入するのではなく、何回かに分けて交代しながら派遣する可能性もあるようだ。派遣地域も具体的には不明だ。その辺りの実務的調整は、今後両国間で詰めの作業が行われるだろう。

 この大規模な派兵が実現すれば、ロシア軍にとって実際、どれだけ大きな戦力になるのか。プーチン氏自身が最近明らかにしたところでは、ウクライナ侵攻に参加している兵力は約70万人規模。これを見ても、10万人規模という派兵がいかに大きいかがわかるだろう。

 戦闘部隊化するか否かで、具体的な軍事的影響度は変わってくるだろうが、仮に最終的に戦闘に参加すれば、相当の戦力になることは明らかだ。

 軍事的のみならず、外交的にもウクライナや米欧にとって、ロ朝の事実上の軍事同盟化は大きな圧迫材料となるだろう。

■北朝鮮派兵はゲームチェンジャーか

 つまりプーチン氏には、この北朝鮮の派兵が戦場で今後、一種のゲームチェンジャーになると映り、冒頭の強気な言動につながったと筆者はみる。

 北朝鮮からの派兵があれば、ウクライナが今後初めてF16戦闘機を投入し、反転攻勢に乗り出しても、軍事力が向上したロシア軍は対抗できると踏んでいるのだろう。結果的に戦争がより長期化、消耗戦化して、米欧のウクライナ支援が弱まると期待していると筆者はみる。

 元々ロシア軍は2024年に入り、兵力不足が深刻化している。春以降、あるあると言われていた大規模攻勢がついにできなかった一因も兵力不足だ。現在は、志願兵などを強引に契約兵に切り替えて、除隊も許さず前線に配置しっぱなしにし、また外国人を高い給料で釣って契約兵として投入しているのが現状だ。

 おまけに、戦死者増大をいとわず突撃命令を繰り返す非人道的な作戦の結果、東部ドネツク州への作戦だけで約10万人の死傷者を出したと言われている。それでも、プーチン氏は国民からの厭戦感情の噴出を恐れて、2022年9月に実施した部分動員に続く、第2次国民動員を避け続けている。

 すでに2023年9月に金総書記がロシア極東を訪れた際に、プーチン氏は北朝鮮に対し155ミリ砲弾の提供だけでなく、実は部隊派遣も要請していた。ただこの時は、金総書記は約500万個といわれる砲弾供与に応じたものの、部隊派遣については「難しい」と対応したという。

 しかし、今回のプーチン氏の訪朝時には「工兵なら、送る」と回答したという。金総書記としては、今回の部隊派兵の応諾は、初めから、プーチン訪朝時のお土産にするつもりだったのだろう。

 この「お土産」への見返りとして、ロシアは相当の軍事技術の提供に応じたとみられるが、具体的にはその内容は不明だ。

■ウクライナと朝鮮半島の同心円化

 いずれにしても、今回の北朝鮮による派兵は地政学的には何を意味するのか。指摘するまでもなく、ウクライナ情勢が朝鮮半島の対立構造とほぼ「同心円化」することを意味する。

 今回、北朝鮮の派兵が実現すれば、韓国もウクライナ側への直接的な武器供与に初めて踏み切るだろう。北朝鮮の派兵を失敗させ、金正恩政権の権威を失墜させることを狙うのは必至だろう。

 これに対し、ロシアは韓国に対しウクライナに武器供与すれば、対抗措置を取ると警告している。その場合、ロシアと韓国の関係が緊張するのは避けられないだろう。北朝鮮も韓国もウクライナでの戦局に大きくコミットすることになる。逆に言えば、双方とも戦局次第で大きな政治的ダメージを追うリスクも背負うことになる。

 また今回の外遊でプーチン氏は北朝鮮に続いてベトナムを訪問した。この訪問には気になることがある。ハノイに対しても北朝鮮と同様に軍事支援を要請した可能性があるからだ。

 仮にあったとしても、全方位外交を掲げるベトナム側が要請に応じた可能性は低いとみられるが、ベトナムは中ロを含む主要新興国で構成する「BRICS」加盟に関心があるとも言われており、アメリカは神経を尖らせている。

 BRICSや上海協力機構(SCO)を中国とともに主導するプーチン政権は最近、とくに米欧に対抗する外交上の新たな柱として、「ユーラシア安保機構」の創設を外交のキーワードとして、盛んに唱えている。今回の北朝鮮、ベトナム歴訪に続いて、今後ロシアがアジアに外交攻勢をかけてくるのは必至だろう。

■日本はどうする? 

 ウクライナを含めた国際情勢が、波乱含みでアジアにもダイナミックに波及し始めたと言える。これを見ると、筆者は外交上の大きな「空白地帯」の存在を意識せざるをえない。日本のことだ。

 岸田文雄首相は侵攻直後、「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と発言して、ウクライナ情勢に対し、G7の一員として、積極的に関与する姿勢を打ち出したかに見えた。

 しかし実際には、この岸田発言を肉付けするため、日本がどのような役割を果たしていくべきか、について、野党も含め、突っ込んだ議論は回避されたままだ。ウクライナ情勢の存在感は日を追って薄くなっている。

 元々、ウクライナ侵攻を受け、北朝鮮がロシアの意を受けて、東アジアで何らかの攪乱行動に出るのではないか、との懸念は一部専門家から出ていた。ウクライナ紛争と朝鮮半島情勢のリンクが不可避化する中で、今こそ、日本が果たすべき役割について、広範な議論を始めるべきだろう。

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最終更新:7/9(火) 16:02

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