「老齢一人暮らしの母」が家に入れてくれない 2年ぶりに入った実家は「ゴミ屋敷」になっていた

5/18 10:02 配信

東洋経済オンライン

実家に35年間、一人で暮らす90代の母。父の月命日に子どもたちが家を訪れると、部屋に母の姿はなかった。そして、いつも入れようとしなかった部屋のドアを開けると、そこはゴミ屋敷となっていたーー。
本連載では、さまざまな事情を抱え「ゴミ屋敷」となってしまった家に暮らす人たちの“孤独”と、片付けの先に見いだした“希望”に焦点をあてる。
ゴミ屋敷の片付け・不用品回収の専門業者「イーブイ」(大阪府)を営み、YouTube「イーブイ片付けチャンネル」で多くの事例を配信する二見文直社長に、「高齢者の孤独」によって引き起こされるゴミ屋敷の全容を聞いた。

動画:ショック「母親がこんな生活していたなんて」わずか3カ月で手が付けられない

■キッチンに放置されたままのヨーグルト

 関西地方の一軒家に住む90代の女性は、35年前に夫と死別して以来、ずっと一人暮らしをしていた。その家の1階は、かつて夫婦で商売を営んでいた店舗スペースとなっている。しかし、すでに暖簾を下ろし、今は不用品が詰め込まれた段ボールや衣装ケースが置かれているだけだ。

 2階は居住スペースになっている。寝室とキッチン、トイレ、洗面、シャワールームもあり、生活は主にここだけで済ませていたようである。3階にはハンガーラックがひとつと多少の荷物が残っているが、やはり生活をしていた痕跡はない。

【画像】母が頑なに入れてくれなかった実家…衝撃のゴミ屋敷に。片付け後はスッキリ生まれ変わった! (24枚)

 今回の依頼者である2人の子ども(長女・長男)が久しぶりにその部屋に足を踏み入れたとき、「母がこんな生活をしていたなんて」とショックを受けるほどに荒れていた。

 すでに2人の手によってある程度片付けが済んではいるものの、今でもキッチンには飲みかけの飲料や食べかけのヨーグルトが放置されたままで虫が湧いている。ベランダに出ると、枯れた植物が雨ざらしになったままだ。トイレはカメラでは映すことができないほどに汚れきっていた。

 母がだいぶ高齢になったということで、家は子どもたちで2年前にリフォームをしている。その際、荷物も減らし部屋はほぼまっさらの状態になったはずだった。

 3人には父の月命日に集まって顔を合わせる習慣があった。ただ、2年前から母は子どもたちですら2階には上がらせてくれなかったという。そして、いつものように月命日に家に迎えに行くと母の姿がない。母はスーパーマーケットに買い物へ行った先で倒れ、救急車で病院に運ばれていた。

 入院するにあたって服や日用品を病室に届ける必要がある。母が頑なに入れようとしなかった2階に上がってみると、ゴミ屋敷が広がっていたというわけだ。子どもたちにとっては想定外の出来事だった。

■母は重い病状を子どもたちに隠していた

 病院で検査をすると、母はいくつかの病気を患っていた。合併症まで引き起こしている状態で、とてもじゃないがすぐに退院できる様子ではない。母は病状を子どもたちに隠していたようだ。現場の見積もりを担当したイーブイの二見信定氏が話す。

 「担当医にも病気のことは言われていたそうですが、お母様は子どもに迷惑をかけないようにとずっと黙っていたみたいです。一時はもう家には戻れないかもしれないと言われていましたが、しばらくすると体調も回復していつでも退院できるようになりました。お母様も40年近く夫と商売をしてきた家に思い入れがあり、“最後は家で迎えたい”という気持ちがとても強かったみたいです」

 子どもたちも母のその願いを叶えてあげたかった。しかし、多忙なゆえに母と同居することは2人とも難しい。そのため、母が嫌がっていたデイサービスを受けるという条件で、また一人暮らしを始めてもらうことにした。病院から家に戻る母のために、もう一度部屋を綺麗にしてあげたかったのだ。

 一人暮らしをする日本人の高齢者は年々増加している。厚生労働省が実施している国民生活基礎調査(2019年)によれば、1986年では65歳以上の者のいる世帯のうち単独世帯は13.1%だったが、2019年には28.8%となっている。

 この家に暮らしていた90代の母親も、部屋が荒れてしまったのは一人暮らしが大きな要因だ。イーブイの二見文直社長が話す。

 「ゴミ屋敷になってしまったのは身体の具合と年齢がかなり影響していたと思います。高齢者の部屋を片付けているときにいつも思うのは、年をとればとるほど家の中の動線が限られていくということです。一軒家の場合、大抵は1階だけが生活スペースとなり、2階や3階はまったく使われていないことがほとんどです」

 ただ、この家は1階が店舗スペースとなっており、そこでは生活することができなかった。2階まで階段を使って上がるしかなく、90代の身体には相当な負担だったはずだ。2階で出たゴミや不用品がそのままになってしまうのも無理はない。

 「動線以外の場所には自然とゴミやモノが溜まっていきます。でも、そこは動線ではないので生活に支障は出ないんですよ。ゴミやモノが生活スペースに浸食してくるまでは、本人も気にならないんです」(文直氏)

■孤独がゴミ屋敷を生んでいる

 「孤独がゴミ屋敷を生む」といっても、そこに至る経緯や背景は多岐にわたる。それは、これまで本連載で取り上げたケースからもわかることである。そのうえで、ゴミ屋敷になってしまう人はいくつかのタイプに分けられるという。

 「まずひとつは家からまったく出られなくなってしまった人。職場の悩み、人間関係の悩み、うつ、などその原因は様々ですが、そういった精神状態が部屋に現れてしまうパターンです。ゴミを外に出すこともできない“セルフネグレクト”に陥ってしまう」(文直氏、以下同)

 もうひとつは家にまったく帰らないパターンだ。

 「ゴミ屋敷に住んでいる人は、孤独で、人生が暗くて、仕事もうまくいっていない。そんなイメージを持たれている方がいるかもしれませんが、そうでもなかったりします。

 身なりも綺麗で、仕事で少なくない金額を稼いで、タワマンなどのいい家に住んでいるけどゴミ屋敷というパターンも珍しくありません。せっかくの時間をゴミ屋敷で潰してしまうのはもったいないと、常に外に出てアクティブに過ごしている方もいらっしゃいます」

 ゴミ屋敷とは別に、モノ屋敷という存在もある。その特徴は、虫が湧いたり臭いが発生したりはしていないこと。生ゴミなどの生活ゴミはきちんと処分できているが、とにかくモノが多く、生活スペースが極端に狭い。

 このモノ屋敷にもパターンがある。まずは、買い物依存症のような状態に陥っているケース。モノに価値を見いだしているというよりも、消費行動がストレス発散になってしまっている。

 「家に一人でいる時間が多い人の中には、モノが少ないと落ち着かないという人もいます。頑張ってお金を稼いでいるのに家に何もないと『何のために働いているんだろう?』という虚無感を覚えてしまい、モノに走ってしまう。そのモノたちを否定されると自分の人生までも否定されたような気持ちになってしまうんです。だから、解決が難しい」

 このように、ゴミ屋敷やモノ屋敷には、心の問題が関わっていることが多い。しかし、高齢者の場合、そういった問題がなくとも「一人暮らし」というだけで部屋が荒れてしまう可能性があるのだ。

■ゴミ屋敷は新居同然に生まれ変わった

 現場に入ったスタッフは5名。荷物の量は少ないので、片付けは約1時間で完了した。しかし、今回は病院から帰ってくる母を綺麗な部屋で迎え入れることが最大の目的だ。片付けの後はハウスクリーニングを施していく。

 キッチン、風呂場、洗面所の水垢はメラミン樹脂でできたスポンジ「激落ちくん」を使って磨き上げる。汚れやヌメリがこびりついている排水溝の部品には、漂白剤をかけてしばらく時間を置いた後、熱湯に浸ける。すると、擦らずとも汚れとヌメリが浮いて落ちる。

 床もフローリング用洗剤とモップで汚れを落とす。から拭きした後は仕上げでワックスをかける。すると、子どもたちが目を疑ったゴミ屋敷は新居同然に生まれ変わった。病院から帰ってきた母親もきっと驚くことだろう。その姿が思い浮かんだ。

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最終更新:5/18(土) 10:02

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