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元「東京メトロ日比谷線車両」上毛電鉄でデビュー、なぜ実現した? 運転台の仕様が異なるが試行運転を重ね習熟

4/22 4:32 配信

東洋経済オンライン

 上毛電気鉄道は、群馬県桐生市の西桐生駅から群馬県前橋市の中央前橋駅を結ぶ全長25.4kmの地方鉄道線である。

 沿線は学校が多く、朝夕の通学時間帯はたくさんの学生が利用することから、時間帯によって、サイクルトレイン(自転車を車内に持ち込める列車)も運行されており、地域密着形のサービスを提供している。

■主力は井の頭線で活躍した700形

 鉄道施設には、登録有形文化財として歴史的にも貴重なものが多い。中でも西桐生駅は、1928年の開業に伴い建てられた駅舎で、昭和初期のモダンな洋風建築は深い歴史を感じる造りが印象的な建物である。

 車両の主力は700形で、元京王電鉄・井の頭線で活躍していた3000系がワンマン化改造され、先頭車のみの2両編成として運行されている。そのほか、イベントや貸し切り運行が主ではあるが、1928年製の半鋼製車体の電車デハ100形が1両在籍している。

 主力である700形も老朽化してきたことから、このほど東京メトロ日比谷線で運行されていた03系車両を改造したのち、2月29日より上毛電鉄で800形として運行を始めた。それに先立つ2月14日に行われた報道向け試乗会・撮影会に参加した。

【写真12枚】元東京メトロ日比谷線の「03系」あらため上毛電鉄「800形」の現在の姿など

 橋本隆社長によると、最初に今回につながる話が出たのは今から3年前とのこと。「東京地下鉄(東京メトロ)から03系譲渡の打診があり、話が進んだ」という。

 03系から改造を完了した800形車両の回送については、「改造工事を受注したメトロ車両が東京地下鉄・千住検車区構内で作業を行うことになり、東武鉄道と上毛電鉄の間で渡り線が現存していたことから、東京地下鉄、東武鉄道、メトロ車両、上毛電鉄が協議を重ね、各社の協力を得て、鉄路での甲種輸送(他社線を使って車両を輸送する)を実施した」とのことだ。

 2023年12月9日の終電後、東京地下鉄千住検車区(南千住)から日比谷線と東武線の北越谷までは、自力で走行(回送)を行った(竹ノ塚駅の高架化が完了し、踏切や保安装置への誤作動の懸念がなくなったため)。北越谷から館林まで東武鉄道800型が牽引した。

 翌10日の終電後にも館林から赤城まで東武鉄道800型が牽引輸送した。赤城からは上毛電鉄に入り、大胡までは上毛電鉄の700形が牽引した。大胡駅構内の入れ替えは、デハ101形が牽引した。年明けの2024年1月からは、ブレーキ性能の試験・誘導障害の試験(鉄道車両が鉄道信号装置などに、影響を与えないことを確認する試験)等、各種試験を実施した。

■マスコンの仕様が異なる

 事業者にとっては、近年のバリアフリー化をスタンダードとする声が多くなり、同社でも800形の導入に伴い、車いす・ベビーカースペースの採用や、扉上にある車内表示器の導入、車内セキュリティ・カメラも設置されており、旅客サービスも向上している。

 なお、従来の車両の運転では、マスコン(車両の速度を制御する装置)とブレーキが独立したツーハンドルマスコン方式の運転方法であったが、800形では加減速が一体となった「T」字型のワンハンドルマスコンが採用されている。そのため、「長年ツーハンドルで運転してきているため、ワンハンドルが初採用になったことで、運転上の戸惑いがあると考え、乗務員の習熟には特に力を入れた。何度も繰り返し習熟運転を行うことで、クリアした」。

 上毛電鉄に譲渡された03系、あらため「800形」は、同社によって数十年ぶりの新型車両であり期待は大きい。車両の正面にパープルの腰帯、側面はグリーンとレッドの帯を巻く。車体の印象そのものは、日比谷線時代の頃とあまり変わらないが、2両編成であることや、西桐生側の先頭車に、2つのシングルアームを載せているところなど、地方私鉄の良い雰囲気を醸し出している。

 運行開始当初は運行範囲や時間帯が限られていたが、4月2日には全線での通常運行を開始した。また、現状は1編成2両のみの導入だが、700形から800形の置き換えも引き続き予定しており、合計で2両編成3本が置き換えになるとのことだ。

■03系はなぜ全国各地で活躍するのか

 東京メトロ03系は日比谷線での運行終了後に短編成化されて、全国各地の中小事業者に譲渡が行われ、運行されている。北陸鉄道に2両編成4本、長野電鉄に3両編成5本、熊本電鉄に2両編成3本。中でも長野電鉄においては、初代日比谷線3000系も在籍した時期があり、一時的は、初代と2代目日比谷線車両が、信州の地で再会する喜びもあった。

 03系が各地に譲渡されている理由は、車両の仕様も影響している。たとえば車両の長さ。1両あたりの車体の長さは18mで、中小の私鉄事業者に適当であるこのサイズの車両は近年減少しているからだ。各地の譲渡先で活躍している03系をめぐって旅をするのも楽しいかもしれない。

 このほど、上毛電鉄に譲渡された03系は4例目となり、今後の活躍が期待されている。また、上毛電鉄は4社の中でも、東京にいちばん近い場所にある。さらに日比谷線時代の相互直通先である東武鉄道とも近い存在である。

 地下鉄愛好家にとっては、03系に会いたくなったら、いつでも会いに行ける場所として、上毛電鉄が新たな聖地になりそうでうれしく思えてならない。

東洋経済オンライン

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最終更新:4/22(月) 9:58

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