ホリエモンが注目!薬で老化は防げる?「ミトコンドリア」研究の最新事情とは

4/24 11:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 遺伝子レベルで老化の解明が進んでいる現代において、老いの常識は過去。堀江貴文が一流医師を取材して判明したのは、生命エネルギーを作るミトコンドリアは老化の根底に関わる細胞の超重要器官であり、ミトコンドリアの治療薬が健康長寿も叶えるということだった。本稿は、堀江貴文『金を使うならカラダに使え。老化のリスクを圧倒的に下げる知識・習慣・考え方』(幻冬舎)の一部を抜粋・編集したものです。

● ミトコンドリアは 「身体のエネルギー工場」

 病気や老化による機能低下の研究はさまざまな視点で行われている。東北大学の阿部高明教授が研究を続けているのは「ミトコンドリア」だ。ミトコンドリアは我々人間の身体を構成する約37兆個もの細胞、その一つひとつの中に数百~数千個も含まれていて、“エネルギーを産生する工場”とも言われている。近年、研究が進んでいる分野で、老化に伴う全身の機能低下や病気に関わることがわかってきているという。

 阿部教授は、生命活動に必要なエネルギーである「ATP」のうち、95%を産生するミトコンドリアの簡便な診断法と治療薬の開発を行い、その機能を改善することで健康長寿を目指している方だ。阿部教授がプロジェクトマネージャーとなり進めている東北大学の「ミトコンドリア先制医療」は、医療分野の研究開発とその環境整備の役割を担う国立の開発機構「AMED(エーメド)」の支援を受けている。

 そもそも、ミトコンドリアはどうやってエネルギーを作っているのだろう。

 「細胞内では、食べた糖を分解してピルビン酸に変える『解糖系』でATPを2個産生し、次にピルビン酸が『TCA回路(サイクル)』(*)を回して1個産生します。このTCA回路ではNADHと水素イオンが作られ、NADHからは水素イオンが外れて老化や寿命を制御する酵素、サーチュインの活性化を行うNAD(ニコチンアミド アデニン ジヌクレオチド)が作られます」(阿部教授)

 このミトコンドリアが機能低下する原因は老化だと言われているが、実際に何が起きているのかというと、ATPを作る際に酸素が消費され、その一部が細胞のダメージを起こす活性酸素に変換されている。ミトコンドリアは常にダメージを受けながらエネルギーを作っている状態なのだ。したがって長い年月、絶えず活性酸素にさらされることで、ミトコンドリアに機能低下が起こる。するとATPの産生が不足して細胞が弱り、病気へとつながっていく。

 *TCA回路(サイクル)…ミトコンドリアの中で行われる9段階からなる代謝経路のこと

 「エネルギー不足による病気で、代表的なのは『ミトコンドリア病』です。ATPの不足と活性酸素の酸化ダメージによって細胞死が起きて、脳卒中や心不全、歩行障害や聴力障害など、高齢者に起きる病気が子供に発症する難病です。1歳未満で発症することが多く、進行が速く緊急性が高い病気ですが、今まで治療薬はありませんでした。逆に言うと、ミトコンドリア病を治せる薬ができれば老化も調節できうると考えられるのです」(阿部教授)

 確かに、原因となるエネルギー不足が改善されれば、病気はもちろん、機能低下を防ぎ改善することも可能になるだろう。しかし、細胞の中にあるミトコンドリアの機能異常や、それによる病気の診断はどのように行われるのだろうか。

 「ミトコンドリアは構成するパーツが多いため、その診断は非常に難しく、病院では皮膚や筋肉を手術で採取して調べる“痛い”組織検査・細胞検査が必要でした。最近になって血液検査のみでも可能になり、血中の『GDF15』というマーカーが高値だと『ミトコンドリアの状態が良くない』ということがわかってきました」(阿部教授)

 GDF15は加齢に伴い増加することが知られており、血中のGDF15濃度が高いほど総死亡リスクが高まるとされる。

● 植物ホルモンで人体に エネルギーを与える「MA-5」

 阿部教授のプロジェクトでは、世界初のミトコンドリア病治療薬「MA-5」も開発している。

 「私はもともと腎臓病の患者さんを診察しており、腎機能が低下した患者さんが貧血になる主な原因は、血液中に溜まる老廃物であるとわかりました。しかし、その老廃物に含まれていた物質『インドール酢酸』に、僅かながら貧血を改善しATPを増やす作用があることをたまたま見つけたのです。このインドール酢酸は植物の成長ホルモンなのですが、我々の体内では、食事に含まれるタンパク質由来のトリプトファンというアミノ酸から、腸内細菌によってインドール酢酸が作られています」(阿部教授)

 インドール酢酸は植物のホルモンだから人間に効くわけがないと考える人も多いなか、可能性を感じた阿部教授は「インドール酢酸の構造を化学的に変えてさまざまな化合物を作ってみると、貧血を改善し、なかでもATPがよく増える薬『MA-5』が見つかったんです。ミトコンドリア病の患者さんの皮膚細胞では100人中95人に有効性が見られました。現在、臨床でATPを増やす薬はないので、ミトコンドリア病の患者さんにとって喜ばしいことになると思いました」と嬉しそうに話してくれた。

 ATPを作りにくくなったミトコンドリアで、MA-5はどんな仕組みでATP産生を増やすのだろう。

 「ミトコンドリアには、クリステという巾着のような袋構造があり、そこで水素イオンを作ってその濃度差の力でATPを作っています。生まれつきの異常や加齢で、水素イオンあるいはATPを作る“部品”が傷むとATPができにくくなりますが、MA-5はミトフィリンという物質と結合し巾着の口をギュッと締めるような形にすることで、クリステ内腔を狭くします。すると、水素イオンの濃度が部分的に高くなり、ATPの産生が助けられ、ミトコンドリアの動きも良くなるんです。現在、健康人を対象とした臨床試験の第1段階を行っており、2024年の3月には終了する予定です」(阿部教授)

 近い将来、ミトコンドリア病の治療が変わりそうだ。

 ミトコンドリア病の治療が可能になると、阿部教授が言っていた「老化を調節できうる」ことから、予防医療やアンチエイジングへの波及効果が得られそうだ。加齢によるミトコンドリアの機能低下や構造変化でATP産生が減少すると、フレイル(筋力・心身の活力の低下、要介護の手前の状態)、難聴、腎臓病、糖尿病、代謝疾患、老化等を招くことはわかっているが、そのほかにも着目していることがあるという。

 「MA-5の発見から、腸内の菌体成分やその代謝物が体内のミトコンドリアをコントロールしている可能性、あるいは、ミトコンドリアが腸細胞の酸化ストレスを介して腸内細菌をコントロールしている可能性もあるのではと考えています。また、唾液や尿などで、ミトコンドリアの状態を示すマーカーとして知られているGDF15の濃度を調べる機械も開発しているところです」(阿部教授)

● ミトコンドリアの機能維持を サプリメントや薬で行える未来

 これは皆が気になることだと思うが、僕たち人間はどれくらい長生きできるのだろう。阿部教授はどう考えて研究しているのだろう。

 「私の研究は“長生き”が1つの目的ではありますが、健康であることや、健康で長生きしているのに働く場がないとか、そういう社会的なところのケアも考える必要性があると思います。

 皆さん、それぞれが望む形の長寿を目指して、いろんなアンチエイジング対策を取り入れたり、効果が高いと言われるサプリメントに注目したりしているのだと思うのですが、一方で、その対策を継続すべきかどうかにも悩んでいる。それは、このサプリを飲んだら明日から健康になれるとか、前回の検査と比べて数値が良くなったという、しっかりした指標が得られないからではないでしょうか。本当に効いているのかどうかがわからなければ、継続しにくいでしょう。そのためには提供する側が、効果についてももっと深掘りをしなければならない」(阿部教授)

 確かにそうだ。わかりやすい基準を作って効果の確認ができることは、重要だと思う。

 「ミトコンドリア病であれば体外診断用医薬品としてGDF15を測定する検査法はありますが、病院での検査は自費診療なので一般的ではありませんし、発症に至っていない人のミトコンドリアの機能が、どの程度低下しているかを判断できる値はまだわかっていません。ですが、MA-5は薬として使うと、動物に投与した場合では聴力低下や筋力低下など老化に伴う諸症状を緩和します。エネルギー不足が老化につながることは確実なので、我々もさらに研究を加速させ臨床応用にもっていきたいと思っています」(阿部教授)

 我々の生命活動に必要なエネルギー、ATPを作り続けているミトコンドリアの機能維持をサプリメントや薬で行える未来は、手が届くところまできている。

ダイヤモンド・オンライン

関連ニュース

最終更新:4/24(水) 11:02

ダイヤモンド・オンライン

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング