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「孤独死や闇バイト」住宅を危険から守る最新技術…「スマートライフ」サービスで豊かな暮らしになるか

3/16 11:02 配信

東洋経済オンライン

 単身高齢者の孤独死問題、闇バイトやお悔やみ泥棒による窃盗事件、激増する空き家の管理などのさまざまな社会課題を、IoT機器を設置したスマートホームで解決する取り組みが広がってきた。

 これまでのスマートホームは、住宅に設置された家電や設備機器や家電製品を簡単に操作できるようにするサービスが中心だったが、外部のサービス事業者と連携して居住者の生活を支援する「スマートライフ」サービスへと進化しつつある。さらに人手不足が深刻化している不動産管理など事業者向けのサービスの導入も進んできた。

その変化を後押しするデジタル技術や国の取り組みについて、3月5日に公開した記事『米中に出遅れ「日本のスマートホーム」普及のカギ―データ連携サービスで大企業がタッグを組む訳』で詳しく解説した。

 人口減少によって新築住宅の需要が落ち込むことが予想されるなか、住宅に関わるさまざまなプレイヤーが協力しながら「スマートライフ」サービスの需要をいかに創出していくか。そのために必要なデータ連携基盤をいかに整備していくかがカギを握る。

■高齢者見守りサービスと「事故物件」リスクへの対応

 高齢者の見守りサービスは、これまでは単身高齢者の孤独死を防ぐニーズから開発が進められてきた。単身高齢者は2050年には1000万人を突破すると予測されるが、国土交通省の調査によると、賃貸住宅オーナーの約8割が高齢者の入居に対して拒否感を持っており、居室内での死亡事故などによる不安から入居制限が行われているのが実態だ。

 自宅における死亡者数を死因別に見ると、約9割を老衰や病死などのいわゆる自然死が占めており、自殺や不慮の事故が発生して、いわゆる「事故物件」となるのは1割以下。しかし、自然死も気付かれずに遺体が放置されたままだと「事故物件」になってしまう。

 日本住宅総合センターのセミナーで講演した成城大学の定行泰甫准教授によると、事故物件情報サイト「大島てる」の検索件数は増加傾向にあり、賃貸契約時や中古物件購入時に事故物件をチェックする人は増えているという。

 事故物件での「オバケ調査」サービスを提供するカチモード代表取締役の児玉和俊氏は、「事故物件が発生した場合、事故住戸の賃料の下落だけでなく、隣接住戸の退去や賃料下落も発生し、賃貸物件の収益が大幅に悪化する」と指摘。孤独死を放置して特殊清掃やリフォーム工事が必要になると数百万円の費用が発生するという。

 高齢者向け賃貸住宅の情報サイトを運営するR65不動産では、賃貸住宅オーナーが高齢者に賃貸しやすくなるように、スマートメーターで30分ごとに検知する電気使用量データを使った異常検知サービス「らくらく物件見守り らくもり」を提供している。同社が3月に作成・公表した「高齢者向け入居支援サービス カオスマップ2025」では、IoT機器などを活用した約20の見守りサービスが提供されている。

 国交省が今年10月から導入する予定の「居住サポート住宅」認定登録制度も、高齢者が賃貸住宅を借りやすくするのが主な目的だ。現時点では認定要件は確定していないが、人感センサーなどで異常を検知する機能を搭載し、各自治体が指定した居住支援法人976法人(2024年12月末時点)に通知して、安否確認、見守りを行い、認知症などの症状がある場合には医療福祉法人につなぐ役割も担う。

■賃貸から持ち家へ拡大する見守り需要

 賃貸事業者向けの高齢者見守りサービスは、入居者の孤独死の早期発見に重点に置かれてきたが、持ち家で暮らす高齢者の自立した生活を支援するための見守りサービスも求められている。そのために高齢者の状態を的確に把握して、必要なサポートを提供する必要がある。

 筆者にも地方の実家で暮らしている高齢の両親がいる。妻が頻繁に実家に行って世話をするようになって、すぐに実家にインターネット回線を引いてビデオ電話を利用できるようにした。自宅に戻った時には、毎日、朝と夜には電話して安否確認しているが、担当のケアマネージャーからも頻繁に連絡が来る。何か問題が発生しても、自宅からすぐに実家に駆けつけるのは難しいので、頼りになるのは地域の人たちだ。

 石川県能美市では2024年4月から各種センサーを使って地域のケアマネや民生委員の活動を支援する高齢者見守りサービスを導入した。同市は、加賀平野の中央に位置し、2005年に根上町、寺井町、辰口町が合併して誕生した人口約5万人の地方都市。北陸新幹線小松駅で下車してタクシーで市役所に向かう途中で市内の様子を見ると、農地の中に住宅が点在するのどかな風景が広がる。

 同市のサービスは、見守りが必要な高齢者世帯に、人感センサーなどを装備したシャープ製の空気清浄機、または三菱電機製エアコンを設置。各家庭で得られたデータはインターネットを経由して、まずは各メーカーのクラウドサーバーに蓄積される。そこから見守りサービスに必要なデータを、シャープ子会社「AIoTクラウド」のサーバーに送って高齢者の状態を把握するための高次化処理を行う。

 その情報を能美市の汎用連携システムで、イエIDと照合して高齢者の住居を特定し、市から高齢者世帯を担当するケアマネまたは民生委員に通知して安否確認などのサポートを行う仕組みだ。

■異なるメーカー間のデータ連携を可能にする共通基盤

 IoT機能付きの家電製品や設備機器は、各メーカーで稼働データを収集してクラウドサーバーで管理している。そのデータを囲い込んで他のライバル企業に提供しないことが、データ連携サービスの開発が進まない要因となってきた。また、家電製品を設置した家の情報もメーカーごとにバラバラで共通IDが整備されていないため、家単位でデータを連携してサービスを提供することも難しかった。

 能美市では、これらの課題を2つの技術基盤によって解決した。1つは、スマートホームの標準通信規格を推進する団体「エコーネットコンソーシアム」が開発した共通API規格「エコーネットライト・ウェブ・API」。これによって異なるメーカーのシステムを連携することが可能になる。もう1つは、同コンソーシアムと電子情報技術産業協会(JEITA)が開発した「イエナカデータ連携基盤」だ。家を特定する「イエID」によって家に設置された異なるメーカーのIoT機器データを連携できるようになる。

 高齢者の状態に関する情報は、高いプライバシー保護が求められるので、それらの情報を自治体と担当するケアマネまたは民生委員しか見られない仕組みとした。サービス開始後、東京や大阪などに離れて暮らす家族から実家の見守りに関する問い合わせが来るようになった。初年度にサービスを導入した高齢者世帯には国の補助金を使い実証事業としてIoT機器やネット環境を整えたが、今後は、各家庭でIoT機器とネット環境を整えてもらい、市が補助金で一部負担し、市民に広くサービスを利用してもらうことにしている。

 IoT機能付きエアコンを熱中症対策に活用する研究も始まっている。熱中症による搬送件数は2024年に9万7578人と過去最高を記録したが、発生場所の4割が住宅で、搬送者の半数が高齢者だった。年間死亡者数も2023年に1651人に達し、その8割以上が高齢者で、その9割が室内でエアコンを使っていなかった。IoT機能付きのエアコンであれば外部から操作できるので、もし適切なタイミングでエアコンを作動できれば、熱中症を防止できる可能性は高い。

 国立環境研究所では、2024年度からシャープなどの家電メーカーの協力を得て研究に着手した。人感センサーによって居室内の人を把握し、温度・湿度センサーなどで暑さ指数(WBGT)を実測して対策が必要かどうかを判断。状況によって外部からエアコンを作動させるなどの措置を講じる。今後も地球温暖化による気温上昇が見込まれるだけに実用化が待たれるサービスだ。

■闇バイト報道で日本でも高まる防犯意識

 アメリカでスマートホームが普及した最大の理由が防犯対策で、約4割の住宅に防犯システムが導入さていると言われる。日本でも昨年8月に闇バイトなどのニュースが報じられたことで、防犯に対する意識が高まり、住宅業界でも対応に迫られている。

 これまでセコムやアルソック(綜合警備保障)などの警備会社がホームセキュリティサービスを提供してきた。住宅に設置した防犯機器のデータを警備会社が監視し、異常検知後25分以内に警備員による駆け付けサービスを行うため、初期導入費用+月額利用料5000円程度と負担が重かった。

 このサービスを手軽に利用できるようにしたのが、異常発生時に居住者のスマートフォンに自動通知する「セルフセキュリティ」サービスだ。警備会社の駆け付けを居住者が必要と判断した場合のオプションサービスとすることで月額利用料は1000円程度と導入しやすくした。

 ヤマダホームズでは、2023年10月からLIXIL製のスマートホームシステムを新築戸建て住宅に標準装備し、2024年4月からアルソックのセルフセキュリティ「HOME ALSOK Connect」を5年間の月額使用料を無料にして導入した。「実際に使ってもらえればサービスの良さを実感して6年目からも継続してもらえるだろう」(広報担当)と期待する。

 積水ハウスは2021年から「プラットフォームハウスタッチ」の名称で、アルソックのホームセキュリティを搭載したスマートホームの提供を始め、24年度の装備率は戸建て注文住宅の30%まで高まってきた。2023年からは博報堂と提携し、スマートホームから得られるデータを解析して新サービスを開発する共同プロジェクト「暮らし解析プラットフォーム」を開始。

 住宅で発生した侵入窃盗の45.5%が「無締まり」が原因であることから、ドアや窓の開閉センサーから1日の解錠時間、夜間の窓開放時間などのデータを取得し、入居者の防犯行動を評価して利用料金を減額するサービスを昨年12月から始めた。月額利用料金はプラットフォームハウスタッチの使用料を含めて月額5600円(税抜き)だが、防犯評価が高いと1000円減額される。

■入居者が自分で設置できる機器

 セルフセキュリティ「Secual Home」を提供するセキュアルでは、闇バイト事件の報道を機に、販売数が前年比で約7倍に増えた。Wi-Fi環境があれば工事なしにゲートウェイやセンサーなどのIoT機器を入居者が自分で設置できるので、初期費用を機器の購入費だけに抑えられる。

 「最初にホームゲートウェイ1台と窓開閉センサー1台を1万2100円(税込み)で購入し、試しで使ってみようというユーザーも多い。あとからセンサーを追加しても月額利用料は1078円(同)。警備員駆け付けもオプションサービスで提供している」(広報担当)

 セキュアルのホームセキュリティシステムは、積水化学工業が5年前に完成した複合型スマートタウン「あさかリードタウン」(埼玉県朝霞市)に導入された。現時点で積水化学のスマートタウン全てにホームセキュリティを標準装備していないが、昨年暮れにあさかリードタウンの住民を対象に実施した初めての意識調査で「防犯性」に対する満足度・支持率が戸建・マンション合わせて35%という結果となり、「今後、防犯は住宅の必須アイテムになる」(住環境研究所)と評価している。

 スマートホームと損害保険の連携に取り組むのが、三井住友海上火災保険だ。世界60カ国以上で住宅IoTプラットフォーム事業を展開するアメリカのAlarm.com Holdings(アラーム社)と提携し、2023年10月からIoTプラットフォームを「MS LifeConnect」のブランド名で提供を開始した。保険会社は法律上、機器の販売が認められないため、保険代理店やホームビルダー、警備会社等の提携企業先の販売チャネルを通じて、第1弾のAI機能を搭載した防犯カメラを提供している。

 通常の防犯カメラは、常時撮影した映像をクラウド上に録画するのが一般的だが、MS LifeConnectの防犯カメラは撮影するエリアやポイントを利用者が設定し、人物を検知した映像だけを録画してスマートフォンに通知する。誤検知率が低く、間違ったアラートが届くことが少ないのが特徴だ。不審者の検知や高級車の盗難防止のほか、認知症高齢者の外出を検知するといった使われ方もしている。

 「今後は、家に設置する各種センサー類、スマートロック、子供を見守るウェアラブルデバイスなどをプラットフォームに追加してサービスを拡充する計画。将来的にはIoTを活用してリスクを低減した分を保険商品に反映していく取り組みも進めていく」考えだ。

■見守りサービス普及を阻む費用負担

 高齢者や子どもの見守り、住宅の防犯など安全・安心な社会基盤を構築していくうえで課題となるのが費用負担である。見守りや防犯などのサービスに月1000円以上の利用料を支払うのは負担が重いと感じる人は少なくないだろう。

 実家にインターネット回線を引いたり、見守りサービスを導入するのは多少、費用が高くても“親孝行”と思って家族で負担するだろうが、賃貸住宅の見守りサービスは誰が負担するか。高齢者の孤独死による事故物件発生を防止するためと言っても、最初から高齢者に貸さなければ費用負担は発生しないわけで、見守りサービスを導入してまで高齢者が借りやすい賃貸住宅を提供しようというオーナーがどれくらいいるかである。

 国交省では、今年10月に導入する予定の「居住サポート住宅」の高齢者支援も行う居住支援法人には最大1000万円を助成する制度を設けている。しかし、R65不動産の飯田鉄弥氏によると「かなり熱心に活動している支援法人でも助成金は200万円程度で、人件費も賄えない状況」という。能美市など自治体による見守りサービスも、住宅に設置するIoT機能付きの家電製品の購入費用まで自治体側で負担するのは難しい。

 国は、2024年6月にデジタル技術による社会課題解決と産業発展のため「デジタルライフライン全国総合整備計画(デジタル全総)」を策定した。共通の仕様と規格に準拠したハード・ソフト・ルールに基づくデジタル基盤を整備しAIを活用することで、クルマの自動運転、ドローン配送、上下水道など地下埋設物のデジタル管理などのイノベーション実現をめざしている。

 経済産業省では、デジタル全総のプロジェクトなどでデータ連携する仕組みを「ウラノス・エコシステム」(ウラノスはギリシャ神話に登場する天空神)と命名。その技術を広く民間企業に提供していくため、今年2月28日にエンジニア向けの技術参照文書を公開し、引き続き入門書やガイドブック、仕様書などを順次、整備していく計画だ。

■「スマートライフ」サービスが抱える課題

 住宅も、国民の暮らしを支える重要な社会インフラである。これまでは各企業が個別にスマートホームを開発して提供してきたが、アメリカや中国に比べて普及が進まず、「スマートライフ」サービスも本格普及にはほど遠い状況だ。

 サービス事業提供者である大阪ガスや東急グループのイッツ・コミュニケーションズが、ソニーネットワークコミュニケーションズのスマートホーム子会社であるライフエレメンツに資本参加したのも、データ連携プラットフォームを共同利用することでコストパフォーマンスが高い「スマートライフ」サービスを実現するのが狙いだ。IoT機器の直接販売を認められていない保険会社の三井住友海上が、IoTプラットフォームを自ら導入して事業を始めたのも、保険を含めた付加価値の高いサービスを実現するためだ。

 人口減少・少子高齢化が進むなかで、居住者から求められる「スマートライフ」サービスをどのように提供していくのか。スマートホームに関わる企業が家電製品や住設機器などハードばかりを売ることから、社会課題を解決するためのサービスプロバイダーへと転換していく必要があるだろう。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/16(日) 17:32

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