「デフレ輸出国」中国への怒り
(文 藤 和彦) 米中の分断は、この貿易摩擦のなかで本格化するのかもしれない。筆者は、一抹の不安を両大国の貿易外交に感じるしかなかった。
4月5日、アメリカのイエレン財務長官が訪中した。その目的は、EVや太陽光パネルを筆頭に、政府の補助金が過剰な生産性を生み出しているとして、その改善を求めることだ。
イエレン長官は、広州市でスピーチした内容をブルームバーグはこう伝えた。
中国は「外国企業へのアクセスに障壁を課し、米企業に対して強圧的な行動をとるなど不公正な経済慣行」に関与してきたと指摘し、「私は今週の会合でこれらの問題を提起するつもりだ」と語った(「イエレン米財務長官、米企業への中国の「強圧的」動き非難-改革促す」4月5日)
中国国内で外資系企業の経済活動を規制し、不動産バブルの崩壊による内需低迷で過剰生産に陥ったEVやソーラーパネルを安価に海外に輸出する中国は、もはや世界経済にデフレを振りまいていると批判されている。
EVを作りすぎる中国
こうしたアメリカの苛立ちをイエレン長官はストレートに中国に伝えた模様だが、しかし、筆者はこうした外交は、むしろ中国の孤立化を招く方向に向かうのではないかと危惧している。
こうした中で、中国が向かいかねないのが、「軍事ケインズ主義」だが、その説明の前に、過剰生産性に陥った中国の現状を見ていこう。
中国ではあらゆる部門で供給過剰が顕在化している。電気自動車(EV)に次いで太陽光パネル業界も「冬の時代」に突入している。
世界最大の太陽光パネル企業である隆基緑能科技は3月中旬、「従業員を5%解雇する」と発表した。過当競争が災いして太陽光パネルの価格は急落しており、中国の太陽光パネル企業の業績は軒並み悪化している。
人口減少が進む中国では産業用ロボットの導入が急速に進んでいるが、この分野もすでに飽和状態になっている。米国のシンクタンクによれば、製造現場が必要とする12倍以上の産業用ロボットが中国で製造されているという(3月19日付RecordChina)。
中国では5G(第5世代移動通信システム)関連の設備投資が進み、普及率は50%を超えた(3月21日付RecordChina)が、5Gを利用するサービス需要が盛り上がっておらず、「宝の持ち腐れ」となっている。
内需があてにできなければ外需に頼るしかない。中国は新エネルギー分野を中心にハイテク産業の輸出をかけようとしているが、その矢先に米国から「待った」がかかったのだった。
絶好調の「ロシア経済」
こうしてイエレン長官の訪中となったわけだが、彼女の目的は、中国のハイテク製品のデフレ輸出に圧力をかけることだ。イエレン長官は訪中前の3日、「(中国のデフレ輸出から)米国の新エネルギー産業を守るための追加措置を講ずる」との考えを示している。
筆者は「中国はお手本を隣国ロシアに求めるのではないか」と考えている。
足元のロシア経済は絶好調だ。3月のPMIが約18年ぶりの高水準を付けた。
ウクライナ侵攻から2年を超えて長期化しているが、欧米諸国の武器支援が停滞したこともあり、戦況でもロシアは盛り返している。そうしたなか経済も復調し、日本経済新聞は、プーチン大統領が5選目を果たした理由について「兵器工場などで前線で必要な武器のフル稼働を続けている点などが寄与し、ロシアの23年の国内総生産(GDP、速報値)は前の年に比べ3.6%増えた。プラス成長は2年ぶりだ」(3月23日)と伝えている。
また、ブルームバーグは、戦時経済がもたらす好況のおかげで「市民の不満はほぼ皆無」(3月15日付)と報じた。
この戦時経済は、軍事ケインズ主義と読み解いたとき、まさに苦境の中国がのどから手が出るほどに欲している政策ではないかと危惧するのだ。
軍事ケインズ主義の効果や中国が置かれている立場については、後編「習近平の「次の一手」がキナ臭い…! 好調ロシア経済と中国の「戦時経済化」で緊張が走る「東アジア」悪夢のシナリオ」でじっくりとお伝えしていこう。
マネー現代
最終更新:4/10(水) 11:46
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