「重要事項調査報告書19万8000円って頭おかしい」
こんな一言が添えられたある写真が、SNS上で話題を呼んだ。
重要事項調査報告書の発行などを管理会社に求める「依頼書」には、発行手数料として「1式19万8000円」の文字が見える―。
区分マンションの売買の際に利用される「重要事項調査報告書」。管理費や修繕積立金の状況、滞納の有無などの詳細を確認することができる、買い手となる投資家にとっても非常に重要な書類だ。
発行費用の相場は1、2万円と言われており、今回の手数料はそれと比較すれば10~20倍近い金額となる。
この投稿をした仲介会社社長の男性は「仲介手数料は50万円ちょっとで、利益がないから仲介をやる意味がない。誰も、この管理会社の物件の仲介をしなくなる」と話しつつ、「最終的には結局不利益を被るのは物件オーナーです」と訴える。
しかし、なぜこうした構造が生まれるのか。売買の現場では実質的に「必須」ともいえる書類に、こうした費用を設定することに問題はないのか。実態に迫った。
■高額な費用設定、最終的には「オーナーの損」に
不動産仲介会社を営む「大トロ」さんは先日、西日本地方にあるワンルームマンションの物件売却の媒介契約を結び、重要事項調査報告書の発行をマンション管理会社に依頼しようとしたという。
発行のための「調査依頼書」には、重要事項調査報告書や修繕履歴などの書類1式で19万8000円、パンフレット1部3万8500円、管理規約1部3万8500円、長期修繕計画表1部5万5000円、と手数料の記載があった。
物件売却の仲介を行うために全ての書類を揃える必要があり、合計33万円の出費だ。
宅建業法上、物件に関する調査は仲介会社の義務。そのため、事実上これらの書類は仲介会社が身銭を切る形で取得せざるを得ない。
「今回仲介しようとしていたのは1400万円のマンションです。仲介手数料は50万円ちょっと。33万円も支出するのであれば、正直、仲介をやる意味がなくなります。売れなければまるまる赤字ですし」
これまでの経験上、書類発行の費用相場は1万~2万円程度と大トロさんはいう。だが最近、特にワンルームの売買市場では高騰が激しいと話す。
「最近は4、5万円という手数料も増えてきました。それでも高いと思っていたけど、取引には必要になりますから、飲まざるを得ないんです」
背景にあるのは、実質的な「囲い込み」だと大トロさんは指摘する。
「そんなに高いなら、他社の仲介が入りづらい…というか入らなくなる。結果的に自社やグループ会社で囲い込む構図です。でも、違法ではないから何をしてもいいという空気はおかしい」
もし数十万円などの前例が広がれば、さらに高額な設定が横行する可能性もあると大トロさんは懸念する。
「仮に100万円に設定しても、ルール上は止められない。そうなれば、もはや誰も仲介をやらなくなり、相場も形成されなくなる。最終的に損をするのは、物件を売りたい一般のオーナーです」
■相場は2、3万円…20万弱の金額は「異常」
重要事項調査報告書を発行する側は、こうした金額をどのように見るのか。マンション管理士の澤田亮さんは「この金額は異常」だと語る。
澤田さんは、外部管理者方式(区分所有者ではない第三者が管理者として運営を担う仕組み)で携わるマンションにおいて、管理組合からの委託を受ける形で管理を請け負っており、重要事項調査報告書を発行することがあるという。
「今はフルセット(重要事項調査報告書、管理規約、パンフレット、修繕履歴、総会議事録など一式)で2万~3万円が相場だと思います。大手不動産会社であれば、全国一律でこの金額で対応しているところが多いです」
重要事項調査報告書の作成では、管理費や修繕積立金の総額および月額、その滞納額などを、毎年の管理組合の決算資料をもとに記載する作業が発生する。
澤田さん自身はフルセット1万1000円(税込)で発行している。一度そのマンションの重要事項調査報告書を作成すれば、以後は専有部分の情報以外は使い回せる部分が多いため、それほど手間がかからないと話す。
「手数料はマンションの規模やエリアで変わるものではありません。正直、4万円でも高いと思います。これまで見た高額の事例でも7万円。重要事項調査報告書だけで20万円近いというのは…はっきり言って根拠のない、異常な金額だなと感じました」
高額な手数料設定に違和感は持ちつつも、澤田さんは「是正するためには、管理組合側から声を上げる必要がある」と指摘する。
「区分所有者(管理組合)にとっては、物件が売れにくくなるといった弊害があり『これはおかしい』と言える立場だと思います。管理組合が要望すれば、管理会社も対応せざるを得ません」
管理会社が高額な手数料を設定するのをやめない場合は、管理組合の判断でその業務を管理会社から引き上げることも可能だと澤田さんは言う。反対に、管理組合が声を上げないのであれば、それは「容認している」と見なされるだろう。
「多くの区分所有者は、自分のマンションの重要事項調査報告書がいくらで発行されているのか、知らないと思います。管理会社に一任していて、そこに注意を向けることも少ないのが実情かもしれません」
■手数料に「上限・ルールなし」の実情
不動産取引に詳しい関口郷思弁護士は、重要事項調査報告書の発行手数料について、「法令上の上限や明確なルールはないのが実情だ」と指摘する。
マンション管理業協会が発行するガイドラインには、費用の算定に関する指針が示されている。2025年(令和7年)12月には国交省の「標準管理業務委託契約書」の解説にも、このガイドラインを参考にすることが盛り込まれた。
ガイドラインでは、発行手数料は
〔(担当職員時間当たり賃金単価×報告書作成所要時間 +作成実費)+一般管理費〕+消費税 = 作成手数料
という算式例で示されている。
しかし、これらはあくまで「指針」にとどまり、強制力を持って価格を縛るものではない。業界団体が一律に価格を定めることは独占禁止法上の問題があり、違法と判断される可能性が高いためだ。
「本来、価格は事業者間の自由競争によって決まるべきものです。事業者団体が各事業者に統一価格を強制することは、『カルテル』と同様、市場における自由競争を阻害して、消費者の利益を損なうため禁止されています」(関口弁護士)
そのため、今回のように個別の管理会社が独自に高額な料金を設定すること自体、法で規制することなどは難しい。
前出の澤田さんは、「ガイドラインはあくまで大きく逸脱しないための目安。誰もがこの式に当てはめて手数料を決めているかといえば、そんなことはない」と実情を明かす。
■事務上は「ほぼ必須」な書類だが…
ただし、重要事項調査報告書の法的な位置づけは、実務上きわめて曖昧だ。
「宅建業法上、物件に関する調査義務は仲介会社にあります。ただし、『重要事項調査報告書を取得すること』自体が義務付けられているわけではありません」と関口弁護士は説明する。
一方で、区分マンションの売買では、管理費や修繕積立金の状況、滞納の有無などを把握せずに取引を進めることは、仲介会社にとって大きなリスクを伴う。問題は、その費用負担だ。
調査行為自体は、原則として仲介手数料の上限の範囲内で行うべきものとされている。別途「調査費」として顧客に請求すれば、実質的な報酬の上乗せとみなされ、宅建業法違反となるおそれがある。
その結果、たとえ管理会社から高額な発行手数料を求められても、仲介会社が自ら負担せざるを得ない構造に陥っている。
◇
今回、重要事項調査報告書の発行手数料として19万8000円を請求したとされる管理会社に取材を申し込んだところ、「お断りする」との返答であった。そのため、なぜこうした費用設定となっているのか、その背景にあるものはわからない。
万が一、SNSなどで指摘されるように高額なハードルを設けることで、実質的に他社の取引参加を妨げるような状況が生じているとすれば、買い手が付きにくくなったり、より良い条件の買い主との縁を逃したりする懸念もある。
大トロさんも言及していた通り、最も不利益を被るのは売り主なのだ。
「管理会社は管理組合、ひいては売り主である区分所有者から委託を受けて業務を行っている存在です。もし、こうした高額設定が売買取引の妨げになっているなら、是正できるのは委託元である管理組合(売り主)しかいません。『囲い込み状態になってしまうような価格設定はやめてくれ』と、管理組合側から声を上げ、管理会社に改善を迫るしかないのです」(関口弁護士)
買い主からしても、取引で「重要事項調査報告書を取得できない」事態はリスクしか生まない。健全な取引環境構築のために、こうした状況は改善されるのか。注目が集まる。
楽待新聞編集部
不動産投資の楽待 編集部
最終更新:2/7(土) 11:00