「無意味な新卒採用」に陥る会社に欠けている視点 なんとなく新卒採用をしていてはいけない

4/5 17:02 配信

東洋経済オンライン

これまで1万人超の採用・昇降格面接、管理職・階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席し、アドバイスを行ってきた人事コンサルタント・西尾太氏による連載「社員成長の決め手は、人事が9割」。エンターテインメントコンテンツのポータルサイト「アルファポリス」とのコラボによりお届けする。

■なんとなく新卒採用をしていませんか? 

 会社がある程度の規模になると、「うちもそろそろ新卒採用する?」といった話が出てきます。社員数が50名程度だと難しいかもしれませんが、100名以上になると中小企業の多くが検討するようになります。そこで考えたいのが「新卒採用の意味」です。

 すでに新卒採用を始めている企業の経営者や人事担当者に「なぜ新卒採用をするのですか?」と尋ねても、あまり明確な答えが返ってくることはありません。「えっ、なんでだっけ?」と戸惑われることが多く、返ってくるのは「他社を経験していないので真っ白だから」「新卒のほうが中途より定着しやすいから」といった答えが大半です。

 でも本当にそうでしょうか?  SNS全盛の昨今、Webには真偽不明な情報が溢れています。社会人経験のないZ世代の学生ほど、かえって誤った就業観や会社観に染まっているかもしれません。新卒の3割が3年以内に離職することも定説となっており、最近は入社してからも大手への就職活動を続けている人が増えているといいます。

 私は、「新卒は真っ白」「定着しやすい」という発想は都市伝説に近い根拠のない考え方ではないかと思っています。中途採用であっても、時間をかけて教育し組織に溶け込めるような施策をしていけば、定着率は新卒と変わりません。他社を経験しているからこそ、自社の良さが伝わる場合もあります。

 新卒採用は、莫大な時間とお金と手間がかかります。採用の2年ぐらい前から計画を始め、インターンシップをやって、媒体に告知し、説明会を開き、選考し、内定を出しますが、内定者から辞退されたり、入社しても3年以内に3割が辞めたりします。数年以内に全員が離職することもあるため、時間もお金も手間もすべてが無駄になるかもしれません。

 新卒一括採用は、昭和から続く日本独自の仕組みですが、実はこれほど効率の悪いものはないのです。「なんとなくフレッシュな若いやつが欲しいぞ」というフワッとした感覚で新卒採用を始めてしまうのは、非常にリスクが高いのではないでしょうか? 

■それでも新卒採用をする理由

 なぜ、それでも新卒採用をしている企業が多いのでしょうか。さまざまな会社の現場で働く管理職に「なぜ御社は新卒採用をするのですか?」と質問すると、多くの人がこのように答えます。

 「人事が楽しいからでしょ?」

 そう、新卒採用は楽しいのです。若い人はみんな可愛いです。演技かもしれませんが、みんなキラキラした目でこちらの話を素直に聞いてくれます。内定を出せば(一見)大喜びして感謝の言葉を述べてくれます。優秀な人材を採ろうと思ったら、世界最大級の就職・転職イベント「ボストンキャリアフォーラム」に行かなくてはいけないと言われていますから、わざわざアメリカまで行ったりもします(ただの旅行ではないですよね)。

 人事担当者にとって、これほど楽しいことはありません。私も経験者ですから、その気持ちはよくわかります。しかし、新卒はすぐには戦力化しません。育てるにもパワーがかかります。現場の人間にOJT担当をお願いすると、めちゃくちゃ大変なので疲弊してしまうケースが多くあります。

 楽しい反面、リスクも高いのが新卒採用です。私はそれも身に染みてわかっていましたから、2つの企業で人事部長をしていたときは「なぜ新卒じゃなきゃいけないんだっけ?」とすごく悩みました。経営者とも何度も話し合い、それでも新卒採用を続けたのは、以下のような理由からでした。

・大量の人材を同時に採れる
・同時に教育できる
・人件費が安い
・コア人材を育成するため
 特に重視したのは、コア人材を育てることです。当時、私がいた会社は、成長期から安定成長期の企業ステージに入ろうとしていました。安定期は長続きしないと想定していましたから、10年以内にやってくる変革期に備え、新たなに事業をつくっていく必要がありました。そのため組織を変革し、新たな価値を生み出せる人材を育てていかなくてはいけないと思ったのです。

 コア人材とは、企業経営を行う将来の幹部候補です。いろいろな経験をして、社内のことをよく知っている必要がありますから、育てるのに時間がかかります。年収500万、600万の中途社員を採って育成期間に3年かけたりするのはリスクが高すぎます。

 では、ポテンシャルが高くて、エネルギーもあって、最も人件費が安いのは誰か。そう考えたときに「新卒だ」という結論になりました。育成期間を長く設けるためには、人件費を安く抑えなくてはいけません。いちばんお給料の安い人たちを採って、ある程度時間をかけて、いろいろな経験をさせて育てる。私は、そのために新卒採用を行っていました。

■新卒採用をするための条件とは? 

 新卒採用は、ただなんとなく始めるのはおすすめできませんが、明確な目的があるのならやってみる価値はあります。ただ、そのためには社内の環境をしっかり整えておくことが必要です。新卒採用をするなら、次の条件について確認してみてください。

① 入社後のキャリアステップはできているか
 新卒採用を始めるにあたって重要なのは、「入社後のキャリアステップ」はできているか。キャリアアップのための道筋が明確に示されていないと、優秀な人材ほど「この会社にいても成長できない」と思ってすぐに辞めてしまいます。新卒採用をするのなら、キャリアアップの道筋を示す等級制度のようなものを整えておくことが必要です。

② 研修やOJTなど、育成の仕組みはできているか
 研修やOJTなど、人材育成の仕組みを整えておくことも大事です。OJTは新人を育てることによって中堅が育つメリットもありますが、明確な指針もなく教育担当を任せてしまうと現場の社員が疲弊してしまいます。OJT担当者の業務は軽くする、人材育成を評価項目に加えるなど複眼的に捉えて、人材育成の仕組みを整備しましょう。

③ 中長期的な人員計画はできているか
 コア人材を育てるためには、減耗率も考えておく必要があります。新卒社員は3年以内に3割が辞めるのが定説ですが、5割、6割というケースも少なくありません。優秀な人材を採用すればするほど、彼ら・彼女らはその優秀さゆえ「どこにでも行ける」わけで、離職リスクは高まります。10年後には全員が辞めている場合もあります。「5年後、10年後の社内の人員構成はどうなっているのか」「各部門にはどのような人材が何人必要になるのか」など、中長期的な人員計画を改めて練り直したうえで、採用人数を決めていきましょう。

 時間もお金も手間もかかるのが、新卒採用です。よくよく考えて始めないと、すべてが無駄になってしまいます。すでに始めている企業の人事担当者の皆さんも、「ひょっとしたら自分たちが楽しいからやっているだけなんじゃないだろうか」と振り返ってみてください。

■面接官の選定で気をつけるべきこと

 新卒採用を始めるなら、面接官の選定も重要です。新卒社員に入社理由を聞くと「面接官が良かったから」「会社の雰囲気が良かったから」と多くの人が答えています。採用は仕事内容や待遇だけで決まるわけではありません。結局「人と人との相性」が最後の決め手になるのでしょう。社会人経験のない学生は、特にその傾向があります。

 では、どのような人材が面接官に適しているのでしょうか?  まずは「第一印象がいい人」。清潔感があり、誠実さが感じられ、礼儀正しいことが第一条件となります。

 次に「コミュニケーション能力が高い人」。面接官は相手の話を聞くのがうまい人でなくてはいけません。もちろん自社の魅力について客観的に話せることも重要です。会社や経営者のことをよくわかっていて、なおかつ会社が好きな人が望ましいでしょう。

 そして「感情表現を意識的にできる人」。応募者に対する好き嫌いが表情に出てしまう人や自分の思った答えが返ってこないとイライラする人は絶対にダメです。学歴や容姿などにコンプレックスがなく、誰でもフラットに接することができる人が望ましいでしょう。

 さらに、一定の優秀さやロジカルさも必要となります。面接官のレベルが低いと、レベルの高い人を見抜くことができません。優秀な人材を採用するためには、面接官も優秀な人材であることが求められるのです。優秀な営業マンのような人が、面接官としては理想的でしょう。

 私は、人事も営業職と考えています。社外に対するのが営業職、社内に対するのが人事です。入社を決断させるためには、営業力が必要なのです。新卒採用に踏み切る場合は、このような観点からも人事担当者の選定を見直してみてください。

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最終更新:4/5(金) 17:02

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