北陸新幹線、敦賀延伸開業が生む「直通と分断」 福井県が東京と直結、関西へは乗り換え必須

3/16 6:21 配信

東洋経済オンライン

 北陸地方4県のうち、これまで唯一新幹線が通っていなかった福井県。長野―金沢間延伸開業から9年を経た2024年3月16日、ついに北陸新幹線が日本海に面する同県南部の港町、敦賀まで乗り入れた。東京発敦賀行きの一番列車「かがやき501号」は6時16分、開業記念式典の参加者らに見送られながら東京駅の22番ホームを出発した。

 1964年の東海道新幹線開業から数えて「新幹線誕生60周年」となる年に走り出した北陸新幹線・金沢―敦賀間。福井県は「100年に1度のチャンス」として、その経済効果や観光活性化に期待する。

 ただ、今回の新幹線延伸は、1年半前の2022年9月に開業した「離れ小島の新幹線」西九州新幹線と同様、従来は在来線特急で直通だった区間の乗り換えを長期間強いることにもなる。2つの新しい新幹線に共通するのは、線路幅の違う新幹線と在来線を直通できる「フリーゲージトレイン(FGT)」開発断念の影だ。

■開業はなぜ1年遅れたか

 今回開業したのは、金沢から敦賀までの約125km。全区間の34%がトンネルで、最長の新北陸トンネルは全長約19.8kmと、北陸新幹線の中でも飯山トンネル(飯山―上越妙高間、約22.2km)に次ぐ長さだ。

 駅は小松、加賀温泉、芦原温泉、福井、越前たけふ、敦賀の6駅を新たに設置した。越前たけふは新幹線だけの単独駅、ほかは在来線と併設の駅だ。東京―福井間の所要時間は最も速い列車で2時間51分と3時間を切り、金沢駅で在来線特急乗り換えが必要だった従来と比べ36分短縮。敦賀までは3時間8分で、50分の短縮となる。一方、これまで特急「サンダーバード」や「しらさぎ」が直結していた金沢や福井から大阪・名古屋方面へは、敦賀での乗り継ぎが必須となった。

 北陸新幹線は、今から約半世紀前の1973年に「整備計画」が決定された、いわゆる「整備新幹線」の1つ。東京都と大阪市の間約600kmを北陸地方を経由して結ぶ路線とされ、まず1997年10月に高崎―長野間が開業し、「長野新幹線」の名称で運転を開始。次いで長野―金沢間が2015年3月に開業した。

 金沢―敦賀間は2012年に工事実施計画の認可を受け、工事に着手。当初は2025年度末の開業を掲げていたが、2015年1月に政府・与党の申し合わせにより時期が3年前倒しされ、2022年度末とされた。

 だが、2020年秋になって大幅な工事の遅れと建設費の増加が避けられない事態が表面化。国土交通省は急きょ検証委員会を立ち上げ、原因の究明や工程短縮策の検討を進めることになった。

 工期が逼迫する原因となったのは、1つは2019年に貫通した石川・福井県境にある加賀トンネル(全長約5.5km)で、翌2020年3月に底部の地盤が膨張する「盤ぶくれ」による亀裂が見つかり対策が必要となったこと、そしてもう1つの大きな要因は、敦賀駅での新幹線と在来線の乗り継ぎ対策として、駅施設の大幅な設計変更を行ったことだ。

■「フリーゲージ」断念が落とす影

 北陸新幹線の開業後も、北陸地方と関西方面の直通運転を維持する方法として導入が考えられていたのがFGTだ。JR西日本は2012年、敦賀延伸時の導入を検討する方針を示した。

 FGTは国が1990年代から開発を進め、2004年の整備新幹線に関する政府・与党合意で西九州新幹線(九州新幹線西九州ルート)に導入を目指すとされた。その後試験車両による技術開発が進み、2014年には「基本的な耐久性能の確保にメドがついたと考えられる」との評価を得ていた。

 JR西日本は2014年10月、雪や寒さに対応した「北陸仕様」のFGT導入に向けて「模擬台車」による試験の開始と、試験車についても同年度中に設計・製造に着手すると発表した。だが、同年に九州で耐久走行試験を開始したFGTは車軸の摩耗などの問題が発生。その後もトラブルは続き、コスト面での問題も浮上した。2017年夏、JR九州はFGTによる西九州ルートの運営は困難と表明し、翌2018年夏に与党の西九州ルートに関する検討委も導入を断念。北陸新幹線についても同年、国交省はFGTの導入を断念する方針を示した。

 FGTの雲行きが怪しくなる中、2017年10月に北陸新幹線の敦賀駅は1階に在来線特急ホームを設ける形に設計を大幅変更。長い跨線橋を渡らずに、3階の新幹線ホームと1階の在来線特急ホームを縦移動だけで乗り換えができる構造に改めた。

 だが、この変更によって敦賀駅工区の工期は逼迫。加賀トンネルの亀裂発生もあり、それまで掲げていた2022年度末の開業予定を約1年遅らせることとなった。

 新幹線の開業に合わせ、これまで金沢や福井と大阪・名古屋方面を乗り換えなしで結んでいた在来線特急はすべて敦賀止まりとなり、新幹線との乗り換えが必要になる。敦賀駅での3階新幹線ホームから1階の在来線特急ホームへの乗り換え所要時間は最短8分としているものの、JR西日本が1月に社員らを動員して実施したシミュレーションでは10分以上を要した。混雑時の乗り換えには課題がありそうだ。

 北陸地方は関西との結びつきが強く、新幹線開業による乗り継ぎの不便さを懸念する声は少なくない。越前市内を走るタクシードライバーの男性は「首都圏から便利になるのはいいが、観光客は関西からの人が多く、乗り換えで敬遠されないかが心配。せめて敦賀より先に(新幹線が)延びるまでは在来線特急を残してほしかった」。開業前の越前たけふ駅を見物に来ていた市内の60代女性も、新幹線への関心は高いものの「やっぱり特急がなくなるのが残念。関西のほうがつながりは強いから」と、関西方面との「分断」を不安視する。

■「敦賀から先」はいつになるのか

 だが、敦賀から大阪方面への延伸はまだ先が見えない。2016年、与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチームは延伸ルートについて、福井県小浜市付近と京都駅を経由する「小浜・京都ルート」の採用を決定した。だが、環境影響評価(アセスメント)の遅れで、着工時期は見通せない。同ルートは大半がトンネルとなることから、京都府内では環境への影響などを懸念する声も強い。かつて候補となっていた、米原経由のルートを求める意見も浮上している。

 今回の敦賀延伸開業で、新潟・富山・石川・福井の北陸4県がついに新幹線でつながった。冬の降雪にも強い新幹線は、首都圏と北陸地方を短時間で結びつけるだけでなく、域内の移動を改善する効果も期待される。新幹線延伸開業によって北陸地方が注目を集めることで、能登半島地震の復興支援にも貢献しそうだ。

 一方で、これまで直結していた関西方面とは最低1回の乗り換えが必要となり、現時点ではいつまで続くかも見通せない。北陸新幹線の延伸区間は必ずしも「快走」とは言い切れないスタートを切った。

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最終更新:3/16(土) 8:47

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