「コンサル会社が主導、ラクに稼ぎたい弁護士が便乗しているのが実情だ」…実は危険?「国が認めた借金救済措置」広告の“真相”
近年「国が認めた借金救済措置」や「借金減額シミュレーター」といった触れ込みで、任意整理に誘導する弁護士事務所のインターネット広告をよく見かけるようになった。借金の減額を期待し、SNS上のこうした広告から任意整理を始める人は実際に少なくない。
一方で有志の法律専門家による被害対策全国会議が結成され、「詐欺的な広告による貧困ビジネスだ」と問題視する動きもあるという。
「なりすまし広告」や「美容医療広告」など、その無法ぶりがたびたび指摘されるネット広告。このような多重債務者をターゲットとした広告を巡るトラブル増加の背景を、グラディアトル法律事務所新潟オフィスの清水祐太郎弁護士に聞いた(以下、「」内は清水氏のコメント)。
■「債務整理」の主な種類と流れ
まず、借金の減額や免除の手続きである「債務整理」には、主に「任意整理」と「自己破産」の2種類ある。
「自己破産」は「破産法」という法律に基づいて、裁判所に申し立てを行い、裁判所から選任された破産管財人が、破産したい人の財産を換金して債権者に分配する手続き。破産手続き後は裁判所の許可によって、たいてい残りの借金は免責される。
債務者にとって自己破産の最大のメリットは、この免責によって借金を帳消しにできる点だが、高価な財産は処分され、当然ながら信用情報にも傷がつく。管財事件の場合、引っ越しが制限されたり、ローンなどで保証人を立てている場合は保証人が借金を肩代わりすることになったりもする。
「免責と合わせて『破産手続き』と言われることが一般的で、自己破産の手続き中は税理士や会計士など一部の職業に従事できなくなります。また、自己破産すると法令や公示事項を掲載する国の機関紙『官報』に名前が載ってしまい、知人などに自己破産が知られてしまう可能性があることも、デメリットのひとつとして挙げられます」
裁判所を通す「破産手続き」とは異なり、「任意整理」は消費者金融やクレジットカード会社と直接交渉によって、利息や遅延損害金を免除してもらう仕組みだ。実質的に借金を減らせたり、返済期間を延ばしてもらえたりするが、利息などを除いた元金部分の借金は分割で返済していくことになる。
「任意整理では債権者に元金を返済することで、破産手続きのデメリットを被らないこと自体が一番大きなメリットと言えます。ただ、借金の元金は残り続けて返済しなければなりません。返済期間中、予期せぬ出費などによって、さらに生活苦に陥るリスクもあります」
債務整理の際に突きつけられる「自己破産」と「任意整理」の2択。多重債務者がそのどちらを選ぶべきかは、相談者一人ひとりの返済能力や自己破産によって被るデメリットを勘案していくことが大切になる。
「任意整理で消費者金融やクレジットカード会社が分割返済の回数として認めるのは、基本的に36カ月(3年)。なので、借金の元金を依頼人が36回払いで払いきれる返済能力があるかどうかを見極めることになります」
■SNS広告による任意整理への誘導の背景
債務整理に訪れる相談者の借り入れ金額や年齢層は幅広く、法律事務所によっても変わるそうだが、グラディアトル法律事務所では500万円以上、年齢層は20〜40代がボリュームゾーンだという。
「もちろん、自己破産をしなくても完済できそうな場合は、任意整理を推奨することになります。しかし、現実には36回払いで返済が難しい相談者が我々の事務所では多く、自己破産という選択肢を考えていくことが基本的な方針になっています」
そんな中でTikTok やYouTubeなどのSNSで「借金の減額」などを謳い、任意整理へ誘導するネット広告が増えてきた背景には、どんな要因があるのか?
「実際は弁護士の名義を借りて収益を上げたいコンサルティング会社などが主導するかたちで、ラクに稼ぎたい弁護士がそこに乗っかってしまっているのが実情だと思います。コンサルティング会社が絡んでいる点では任意整理も『過払い金請求』と一緒です。つまり、過払い金請求の需要が一段落し、ターゲットを変えて任意整理へシフトしてきたという流れなのでしょう」
任意整理の相場は債権者1社の交渉につき3万〜5万円ほど。仮に10社弱から借り入れている債務者が任意整理を行う場合は30万円ほどの費用が必要になるそうだ。
そもそも、相談者が多重債務者のため、通常の弁護士の業務の中で任意整理は特段に割のいい“オイシイ稼ぎ口”とは言えない。しかし、一般事務員を大量に雇い、ネットでの集客に注力する一部の法律事務所などでは、こうした案件がそれなりに大きな稼ぎ口になってしまっている面もあるようだ。
「破産手続きは裁判所に申し立てまでに本人の財産を整理し、破産手続きのための費用を貯めてもらうなど、弁護士や司法書士の業務量がとても多い。対して、任意整理の手続きは法的な根拠に基づくものではなく、債権者との直接交渉。消費者金融やカード会社との交渉も複雑な手続きが必要なわけではなく、弁護士の業務負担は比較的少なく済みます」
■安易な任意整理が生活困窮を招くケースも
この結果、TikTokやインスタグラムなど、若者が好むアプリに「国が認めた借金救済措置」や「借金減額シミュレーター」といった触れ込みで広告が垂れ流しにされているのだ。
「任意整理の手続き自体は適法なかたちで行われている場合が基本的には多いと思いますが、中にはコンサルティング会社が弁護士の名義を借りて従業員を雇い、債務整理を行っている違法な事例もあるようです」
実際にSNS広告から弁護士事務所に任意整理を行った人からは、事務的なやり取りはLINE上で行われ、弁護士事務所に足を運ぶことなく手続きが済んだとの証言もある。
「電話やオンラインでの相談自体は不適切ではありません。ただ、債務整理を担当する弁護士には直接会って面談しないといけない義務があり、オンラインや電話のやり取りのみで弁護士が最終的に依頼を引き受けるのは、弁護士の規定違反です」
なお、過払金請求と違い任意整理や自己破産といった債務整理では、基本的にお金が返ってくることはない。また、「平成◯年生まれだけ」など生まれ年を限定して煽る広告も多いが、任意整理に年齢制限があるわけではなく、当事者性を演出する単なる宣伝文句に過ぎない。
「破産手続きは確かに国の制度なので、その点では“国が認めた借金救済制度”というのは嘘ではなく、一概に“誇大広告”とは言えません。ただ、誤解を招く不適切な広告であることは間違いないでしょう。実際には自己破産ではなく任意整理へ誘導するために、そうした広告が打たれているわけです」
また、「借金減額シミュレーター」も正確性に疑問が残るものが多く注意が必要だ。任意整理によって利息分は借金を減額できる可能性は高い。借り入れ金額と利息などを入力するかたちであれば、ある程度正確なシミュレーターを開発できるが、借金の総額だけで減額結果がわかることを謳うものも多く見受けられるためだ。
「本来は自己破産手続きをして生活再建を図ることが適切な債務者に、決して安くない弁護士費用を払わせ、任意整理を行わせる。その結果、かえってより深刻な生活苦に陥るケースも少なくありません。
弁護士の間でも『本来は破産するべきだったのに任意整理を行い、結局、返済が滞ってしまった人の破産手続きを受けました』といった話を聞いています」
SNSなどプラットフォーム側の不適切な広告の取り締まりだけでなく、広告の自由化などによって競争が激化しているとも言われる、弁護士業界側から対策が図られることが重要だ。
東洋経済オンライン
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最終更新:6/24(火) 8:02