「不適切にも」とブラッシュアップライフの共通点 命を守るために、過去を変える物語になるか?

2/28 10:02 配信

東洋経済オンライン

 冬ドラマNo.1の話題を集めている、TBS金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』が、第5話で大きな転換点を迎えた。

第4話までは昭和と令和それぞれの社会を相対的に風刺しつつ、クドカン節全開のコミカルな昭和小ネタで勢いよく突っ走ってきたが(過去記事:「不適切にもほどがある!」世代で生じる“温度差”)、第5話では一転。そのタイトルにつながらないシリアスなストーリー展開となった。

 ※以下、1~5話のネタバレがあります。ご注意ください。

■タイトルを地で行った第1話~第4話

 これまではまさに、タイトルを地で行くストーリーだった。

 第1話では、令和にタイムリープした昭和のおじさん・小川市郎(阿部サダヲ)が、職場での男性から後輩女性への「がんばれ」などの声がけをパワハラ、セクハラと捉える会社の過剰なコンプライアンスに、昭和人の熱い仕事意識をぶつけた。

 第2話も舞台は令和社会。テレビ局で働くシングルマザーの犬島渚(仲里依紗)が育児も仕事も1人で抱えて奔走するなか、働き方改革を唱える職場で、市郎は同調圧力により自分で働き方を決められない矛盾をつきつける。

 第3話は昭和と令和のテレビ局のバラエティ収録現場を舞台に、昭和のお色気バラエティの自由奔放なセクハラぶりと、令和の情報番組の過度なコンプラに発言が縛られる不自由さが対照的に描かれた。

 この第3話で市郎は、昭和のお色気バラエティのセクシー路線に「女性はみんな自分の娘だと思え。娘に言えないことは言うな。できないことはするな」と唱え、それは令和のセクハラに対しても向けられていた。

 第4話では、令和でスマホを持った市郎がSNSにハマる姿から、SNS依存の滑稽さと、おじさんが陥りがちな勘違いを客観的に見せた。

 そんな第4話のラストで投げかけられたのが、第5話への不穏なフリだ。

 渚は市郎に会わせたい人がいると話し、父・犬島ゆずる(古田新太)を紹介するが、ゆずるは市郎を「おとうさん」と呼ぶ。

 渚は以前、母は阪神・淡路大震災の年に亡くなったと話していた。もしゆずるの義理の父が市郎であれば、市郎の娘・純子(河合優実)はすでに亡くなっていることを示しているため、SNSを騒然とさせた。

■物語のトーンが変わった第5話

 そして2月23日に放送された第5話では、その予想どおりの展開となった。ただ、純子だけでなく、市郎も一緒に亡くなっていたのだ(詳細についてはっきりとは語られていない)。

 第5話で物語のトーンがこれまでと一気に変わった。市郎と顔を合わせた渚とゆずるは当初、2人が亡くなっていることを隠そうとするが、市郎は渚の話を思い出して、純子が亡くなっていることを察する。

 しかし、動揺することも悲嘆に暮れることもなく、純子と渚のビデオを温かい目で見たり、子どものころの渚を抱いてやれたことに喜び、温かい笑顔を浮かべる。令和社会に物申す、これまでの暑苦しい昭和のおじさんの姿はなかった。

 そうなると、第4話までのミュージカルシーンもない。これまでは、昭和の名曲をモチーフにアレンジした歌で、市郎が踊りながら声高に令和社会への昭和人のメッセージを伝えていたが、第5話はミュージカルの形だけは残ったものの、市郎はほぼ参加していなかった。

 そしてなにより、タイトルに絡まない内容のまま、第5話は終わった(昭和社会にいる令和人のサカエ(吉田羊)による、昭和の進学指導の適当さやPTA費のずさんな管理へのツッコミはあったが、ラストのミュージカルはメッセージには絡んでいない)。

 後半に差し掛かる第6話からのストーリーがどちらに向くのかは、まだわからない。

 気になるのは、タイムリープものの王道である、命を守るために過去の出来事を変える物語になるのではないか、ということだ。

 昨年1月期に話題になったバカリズム脚本の『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)は、事故で死んだ主人公が自分の人生を生き直すコミカルな物語であり、主人公がタイムリープするという点では『不適切にもほどがある!』との共通点がある。

 だが、『ブラッシュアップライフ』は後半から、同級生を乗せた飛行機の墜落を防ぐために何度も生き直すサスペンスストーリーへと一転した。

 それまで楽しく見ていた視聴者を驚かせるとともに、突然のシリアスな展開がより物語へと引き込み、登場人物たちに共感を抱かせた。同時にコミカルな要素は損なわないところが、バカリズムのうまさだった。

 一方、昨年10月期の深夜枠で人気を得たタイムリープドラマ『時をかけるな、恋人たち』(関西テレビ・フジテレビ系)では、過去を変えてはいけないために、起こった出来事は変えずに、そこに関わった人たちの心が少しでも救われるように駆け巡るタイムパトロール隊員たちの奮闘が描かれた。

 そこでのエピソードで、突然亡くなった妻の死は変えられないけれど、過去に戻って、亡くなる前に思いのたけを伝える夫の話があった。悲しい事実は変わらないが、そのあとを生きる人の心には小さな救いが残る。未来を知っていても事実(死)を変えられない切なさ、つらさに胸が締めつけられるが、その思いはいまの生き方を考えさせることにつながっていた。

■『不適切~』は、王道を踏襲するのか? 

 『不適切にもほどがある!』は、タイムリープの法則や過去の事実の可変に対するルールがはっきりしていない。しかし、あれだけ人気になった『ブラッシュアップライフ』がやったばかりの王道を踏襲することはないと思われる。

 変化球的だったが切なさと温かさを内包した『時をかけるな、恋人たち』ともまた異なる、新たなタイムリープの定番となるような展開が生み出されることが期待できるかもしれない。

 また、クドカンはこれまでにもNHK朝ドラ『あまちゃん』で東日本大震災、NHK大河ドラマ『いだてん』で関東大震災に触れており、震災を伝えることを意識している。本作での純子と市郎の死に阪神・淡路大震災がどう関わったかも、これから描かれるかもしれない。

 第5話はタイトル通りの内容の物語ではなかった。昨今では、ワンクールのなかで1部と2部に分かれ、ストーリーが変わるドラマも少なくない。本作も、第6話からが2部としてストーリーの軸がシリアスメインに移り、コミカルが脇になることも考えられるが、それではクドカンらしくない。

■純子と市郎の死にどう向き合うか

 また、第6話の予告では、令和のテレビ局でカウンセラーを務める市郎のもとにドラマ制作の悩みが持ち込まれる、となっている。まだまだ令和と昭和を対比する風刺は続いていくことを思わせる。

 一方、明らかになった「純子と市郎の死の背景」と市郎はどう向き合い、なにをするのか。第6話からは、接点の難しい2つの大きな軸をどう重なり合わせてラストに向かわせるかが注目される。

 そこに着地させるのか、と誰をも納得させるタイトル通りの最終話となれば間違いなく、ドラマ史に名を残す名作になるだろう。

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最終更新:2/28(水) 10:02

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