社員の流出防止に「他社の成功事例」は通用しない、身の丈に合わない施策は「裏目」に出ることも

5/14 4:51 配信

東洋経済オンライン

人材に投資することで企業価値を高める人的資本経営が注目されており、エンゲージメントは人的資本経営において重要な指標の1つとされています。今や転職が当たり前の時代になっており、企業は従業員や求職者から選ばれるためにも、エンゲージメントを高めることは大切です。しかし、エンゲージメントは近年よく聞かれるようになった言葉であり、誤った認識を持っている方も少なくありません。
本稿では、エンゲージメントにまつわる誤解を解消し、その向上のポイントを紹介します。『企業実務』の記事を再構成し、組織人事コンサルタントである、リンクアンドモチベーションの田中允樹さんが解説します。(前編記事はこちらから)

■他社の成功事例は、あくまで他社の事例にすぎない

Planにおける誤解…「他社の成功事例を真似るのがエンゲージメント向上の近道」
 Seeの次は、Plan(施策立案)に進みます。ここで誤解してはいけないのは、他社の成功事例を模倣するのが、エンゲージメント向上の近道ではないということです。

 今の時代、ネットで検索すれば、エンゲージメント向上の施策集や成功事例は簡単に見つけられるでしょう。

 それらを模倣する企業は多いと思いますが、それでエンゲージメントが向上するケースはほとんどありません。それどころか、他社の成功事例が自社では失敗事例になることもあります。

 分かりやすい失敗事例を2つ紹介します。

 ①マッサージチケットの配布…X社は、日頃の労をねぎらおうと、従業員にマッサージの無料チケットを配布しました。その結果、ある部署からは感謝の声が届いた一方で、エンゲージメントが低い別の部署からは「もっと働けということか」というネガティブな反応が返ってきました

 ②ピザパーティーの開催…Y社は、コミュニケーションを活性化させてオープンな組織風土を醸成しようと、ピザパーティーを開催しました。しかし、パーティーでの会話は会社や上司に対する不満ばかりでした。ピザパーティーは意図せず「愚痴大会」のようになり、組織風土の悪化を招いてしまいました。

■大切なのは、自社に合った「最適解」を探ること

Planのポイント…絶対解ではなく、最適解を探る
 そもそも、従業員とどのような関係性を築きたいかは企業によって異なり、また、業界や業態、事業内容などによってエンゲージメントの傾向は様々です。その時のエンゲージメントの高さや組織状態によって最適な施策は変わってきます(図表2)。

 ※外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください

 有名企業で成功した施策がそのまま自社にもマッチする可能性は低いと捉えた方が良いでしょう。他社の成功事例を参考にしつつも、自社に合った「最適解」を探ることがエンゲージメント向上の近道です。

Doにおける誤解…「ここまでエンゲージメントが上がればもう安心」
 エンゲージメントが向上したからといって、まだ終わりではありません。

 Planの次は、Do(施策実行)に進みます。何らかの施策を講じたことでエンゲージメントが向上し、安心して以後の取組みをやめてしまうのはよくあるパターンです。

 しかし、事業環境の変化、顧客との関係性の変化、社内の体制変更、個々の従業員のコンディションの変化など、様々な要因によってエンゲージメントは変動します。エンゲージメントが目標値に達したからといって油断していると、半年後、1年後に急降下してしまうこともあります。

■成長ステージごとに異なる課題が発生する

Doのポイント…常に半歩先を見据えて予防策を打つ
 組織の成長ステージは大きく「拡大期」「多角期」「再生期」の3つに分けることができます。そして、ステージごとに発生しやすい組織課題は異なります(図表3)。

 例えば、スタートアップや新規事業が大きく成長していく拡大期は、組織の複雑性が増大するために「マネジメント不全症」が起こります。マネジャーがマネジメントに時間を割けず、マネジメントが機能しなくなることで、メンバーはストレスを抱えるようになってしまいます。

 安定成長のため事業の複線化を図る多角期は、組織内で上下・左右の距離感が広がっていくために、「既存事業疲弊症」が起こります。

 新規事業への参入を支えているのは既存事業の利益であるのに、経営トップの関心も全社的な注目も新規事業に集中するため、既存事業を支える従業員から不満の声が挙がるようになります。

■エンゲージメントは一度向上させて終わりではない

 市場が成熟し、新たな価値創出を模索していく再生期は、組織に無力感や既決感が蔓延するようになり、「既決感疲弊症」が起こりがちです。

 成功を導いた過去の考え方や制度を変革することへの恐れが生じます。その結果、新たな挑戦や新規事業の模索が妨げられ、組織内に諦めや無力感がはびこり、進取の精神を持った従業員のモチベーションまで下げてしまいます。

 このように、成長ステージごとに異なる課題が発生します。エンゲージメントの維持・向上を図るためには、自社が該当するステージで発生しやすい組織課題を把握し、課題が顕在化する前にアプローチすることが重要です。

 エンゲージメントは一度向上させて終わりではありません。定期的にサーベイを行ない、組織状態をモニタリングしながら、常に先を見据えて予防策を講じていきましょう。

著者プロフィール
田中 允樹(たなか まさき)
株式会社リンクアンドモチベーション 中堅・成長ベンチャー企業向けコンサルティング部門責任者。慶應義塾大学卒業後、モチベーションをテーマにしたコンサルティング会社、リンクアンドモチベーションに入社。大手企業から中堅・ベンチャー企業まで幅広い顧客の組織変革を成功に導く。従業員エンゲージメント向上サービス「モチベーションクラウド」の立ち上げ、拡大を牽引する。

https://www.motivation-cloud.com/

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最終更新:5/14(火) 4:51

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