NTT西日本「トップ辞任後」に試される改革の真価 新規事業の育成託された「異色社長」は引責辞任

3/26 6:32 配信

東洋経済オンライン

 前途多難の「トップ交代」だ。

 NTT西日本は3月1日までに、森林正彰社長が3月末をもって辞任し、NTT東日本の北村亮太副社長が後任に就く人事を発表した。

 NTTグループでは、NTT西を含めた主要会社の取締役任期を1期2年と定めている。前社長の小林充佳氏が2期4年、前々社長の村尾和俊氏が3期6年務めたように、NTT西の社長の在任期間は近年、2期以上が通例だった。

2022年6月に就任した森林氏は、1期2年の任期すら満了せず、代表取締役社長の座を退くこととなる。3月19日、東洋経済の取材に応じた森林氏は辞任後の予定について「まだ何も決まっていない」と話しており、NTTグループを離れることとなりそうだ(森林氏のインタビュー全文はこちら)。

■情報流出が辞任の引き金に

 辞任の引き金となったのは、昨年発覚した子会社の不祥事だ。

 昨年10月、NTT西の100%子会社であり、コールセンターシステムの運用・保守を手がけるNTTビジネスソリューションズにおいて、取引先の顧客情報928万件が外部に流出していたことが発表された。2023年2月ごろまでの約10年間にわたり、同社に在籍していた元派遣社員が顧客情報を不正に持ち出しており、森林氏はその監督責任を問われたわけだ。

 不正が行われていた10年間のうち、森林氏が社長だった期間は半年強にとどまる。だが、監督官庁である総務省からは2024年2月に行政指導を受けるなど、社会的責任の大きさを問う声が社内外からあがっていた。「最高経営責任者である私が責任をとる(べきであるという)ことになった」(森林氏)。

 今回問題となったセキュリティ対策については、監視・点検体制の強化や専門の対策チームの新設などにより、今後3年で約100億円規模を投じて強化していく方針だ。森林氏はこうした対応策の方向性にメドがついた段階で、辞任する運びになったとみられる。

 「情報流出は10年近く続いていて、森林さんが関係していた期間はごくわずか。彼が責任をとることになったのは不憫だ」。通信業界やNTT関係者からは、そうした同情の声も多く聞かれる。

 子会社の不祥事はもとより、2年足らずでの森林氏の辞任は、NTTグループにとっても当然想定外だったはずだ。というのも、森林氏の社長登用は当時としては異例の抜擢人事であり、その経営手腕に多大な期待がかけられていたからだ。

 NTT西の歴代社長は、NTT西またはNTT東で勤務経験の長い人物が登用されるケースが多かった。それに対して森林氏はNTT西を含めた国内地域通信事業における勤務経験が少なく、海外向けにデータセンターやITサービスなどの事業を手がけるNTTリミテッド(現在はNTTデータの子会社)やNTTヨーロッパのトップを歴任するなど、40年におよぶNTTの社歴の大半で海外畑を歩んできた。

 森林氏を登用した背景には、NTT西が直面している苦しい経営環境がある。

 NTT西はNTT分割によって、1999年7月に発足した。中部以西のエリアを対象とした、固定電話や光回線などの地域通信を中核事業とする。

 ただ、電話の収益は携帯電話の普及に伴い減少が続き、光回線も飽和状態にあって大幅な伸びは見込めない状況だ。分割直後は一時、2.5兆円を超えるほどだった売上高は、直近では1.5兆円前後で推移している。

■新規事業育成が使命と語っていたが…

 固定電話の落ち込みは、NTT西にとって営業利益ベースで毎年200億円以上の下押し圧力となっている。NTT西と、東日本エリアで同様の事業を展開するNTT東は、NTTグループの主要会社を規制する「NTT法」の定めによって固定電話など通信回線の提供義務を課せられているため、赤字事業でも撤退が許されない。

 NTT東と比べても、NTT西の切迫度はより高い。成長を期待できる自治体DXなど新規事業の売り上げ比率はNTT東のほうが高いとみられる(2021年度実績では、NTT東が4割に対してNTT西が約3割)。実際、2022年度の売上高営業利益率で比較してみても、NTT東の16.8%に対してNTT西は9%と、大きな開きがある。

 そこでNTTグループが森林氏に期待したのが、海外経験などで培った知見を生かした新たな収益柱の育成だった。実際、森林氏は2022年7月に実施した東洋経済の取材に対して「新規事業を伸ばすのが私の使命」と語っていた。

 森林氏は就任して早々、2022年度に「増収」「増益」の決算を達成することに加え、「2025年度までに新規事業の売上高比率5割超(2021年度実績は約3割)」という目標を掲げた。

 しかし就任から2年近くが経った今、目に見えた成果は出ていないどころか、業績はさらに厳しさを増している。

 就任初年度となる2022年度決算は減収減益に沈み、2023年度も第3四半期までの累計決算は減収減益となっている。とくに営業利益では、両期間とも前期比で1~2割の大幅な減益だ。固定電話の落ち込みに加え、電気料金高騰などコスト面の影響が大きかった。

 新規事業の売り上げ比率についても、2023年度通期には4割弱となる見込みではあるものの、「2025年度に向けては成長分野の伸びが期待できるようになってきたが、(同年度に5割達成というのは)依然として厳しい目標」(森林氏)という。

 森林氏は経営改革の進捗について、「まだ道半ば。(退任することになって)個人的には本当に残念」と悔やむ。一方で、「2023年度はまだまだ(数字として)上がり切っていないが、今後2~3年かけて伸びていく下地ができてきている」と強調し、社長として在籍した間に種まきはできたとの認識を示す。

 具体的に成長を見込んでいるのは、自治体や学校向けのDXのほか、高速光回線の「フレッツ 光クロス」や、子会社のNTTソルマーレが展開する電子漫画などだ。

 とくに自治体向けのサービスでは、2023年5月からマイクロソフトと提携し、同社のサービスを共同で提案していく体制を整えていた。2025年度末までにすべての自治体が業務システムの一部について、行政向けITプラットフォーム「ガバメントクラウド」への対応を義務づけられていることなども追い風になるとみられ、「2024~2025年にかけてかなりの伸びが期待できる」(森林氏)。

■後任社長はNTTらしい“守り”の人事? 

 これらの事業を“収益柱”に伸ばす工程は、4月から新社長に就く北村亮太氏の手に委ねられる。

 1988年に分割前のNTTに入社した北村氏は、森林氏よりも入社年が4つ下。NTT東と持ち株会社であるNTTでの勤務経験が長く、NTT西には2018年から4年間、取締役として勤めたこともある。

 まさに、これまでのNTTグループらしい順当な人事ともいえる。海外畑という異色の経歴を持ち、当初から“攻め”の姿勢を強く打ち出していた森林氏と対比すると、まずはセキュリティ対策などの“守り”を優先したという見方もできるだろう。

 折しもNTT西が本社を置く大阪では、2025年に「大阪・関西万博」も控えている。NTTグループにとっては、社運をかけて開発・社会実装に取り組む新たな通信技術「IOWN構想」を、国内外に向けて披露する場となる。NTT西は万博会場の通信環境構築などの重大な役割を担うこととなり、NTTグループの顔に泥を塗るようなミスは決して許されない。

 セキュリティの強化や万博対応、そして森林氏が遂げられなかった新規事業の育成を着実に実行し、NTT西の変革を導くことができるか。新社長が背負う任務は大きい。

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最終更新:3/26(火) 6:32

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