かつての香港高級リゾート、今は安さと静けさが魅力-Open House

3/8 10:25 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): 香港で最も奇妙な場所の一つ「シーランチ(Sea Ranch)」は、1970年代に富裕層向けに建設された。リゾート施設として破綻してしまった今では、富裕層にとって香港で最も買いやすい不動産を提供している。

例えば、海を見渡せる1250平方フィート(約116平方メートル)のアパートは530万香港ドル(約1億円)で買える。近くの外国人居住区であるディスカバリーベイでの同じ規模の住宅と比べると半値以下だ。

何が問題なのか。ランタオ島の人里離れた場所にあり、香港島に直接向かう交通機関はなく、商店も医療施設もない。ジャングルに囲まれたゴーストタウンという評判も、そう外れてはいないかもしれない。

政府が3年間の低迷に耐えてきた香港住宅市場を復活させよう取り組む中、シーランチのオーナーらは安価な価格設定が、かつて繁栄していたこのコミュニティーへの関心を高めることを期待している。

シーランチはまったく違う形になるはずだった。1975年に初めて売り出されたとき、このビーチサイドの開発は、都会の喧騒(けんそう)から逃れたいエグゼクティブとその家族のための究極の保養地とうたわれた。

ハチソン・ワンポアが建設したこのプロジェクトは当初成功を収めた。1979年の完成前に200戸全てが売約済みとなった。海外旅行が困難で費用もかかり、住宅地にクラブハウスが存在しなかった当時、シーランチは貴重なオアシスを提供した。

クラブハウスの思い出

香港最大のプライベートプールやレストラン、バーを備えた広大なクラブハウス、テニスコート、ヘリポート、専用ビーチ、香港島への定期高速船サービスなどが自慢だった。

今日に至るまで道路網はなく、孤立しているが故に、このリゾートは人であふれかえる香港での特別感を保証していた。

フレイヤ・ジャイルズさんは幼い頃、オープン間もないシーランチに4年間住んでいた。

子供たちは日没までに家に帰ることを条件に、ヘビを追いかけたり、岩から飛び降りたりして、自由に走り回ること許されていた。クラブハウスのきらびやかなミラーボールの下でのディナーも思い出すという。

今は香港で自営業を営むジャイルズさんは、「私たちのようにフルタイムの住民もいたが、週末だけやって来る人も多かった」と振り返る。 「パーティーが絶え間なく続いていて、大人たちも楽しんでいたと思う」と話してくれた。

当初は外国人の間で人気があったにもかかわらず、このプロジェクトはすぐに問題に直面。ハチソンは運営コストを過小評価しており、負債が膨れ上がった。

それに、まだ英国の植民地だった香港の将来を巡る英国と中国の交渉は、資本流出と当時自由に変動していた香港ドルの暴落を引き起こした。

香港がこうした信頼危機を繰り返す中で、ハチソンは香港の富豪、李嘉誠氏に買収された。1984年、開発は中止され、施設を管理する持ち株会社はわずかな金額で一部の住民に売却された。

だが、それはシーランチにとって極めて重要な瞬間だった。その後数年間、所有者グループ間の所有権を巡る争いが訴訟やコスト削減につながった。クラブハウスやテニスコート、プールは閉鎖され、木々が生い茂った。

直行フェリーの運航はなくなり、多くの物件が空き家のままだった。そして、孤独な人や芸術家が住む堕ちた楽園、あるいは香港で最も安い地域の一つだという評判が立つようになった。

シーランチは、ほぼ同じ時期に同じランタオ島で開発が始まったディスカバリーベイとは対照的だ。

ディスカバリーベイは、もともとホテルとリゾートの複合施設として構想された。この高級施設は今も 1 つの会社によって管理されており、約2万人が住む。

ショッピングモールや27ホールのゴルフコース、幾つもの学校などがあり、金融街に向かうフェリーも運航されている。住宅は一般的に香港島よりも安い。

かつてディスカバリーベイのライバルだったシーランチは、今は静かだが、住むには厄介だ。食料品を買うのに最も近い長洲島までフェリーで20分かけて行く必要がある。そこから香港島までフェリーを乗り換え少なくとも30分かかる。

「私の香港」

それでもアンドルー・デカロさんら一部の住民にとっては、その静けさと手頃な物件価格こそがシーランチの魅力だ。

プライベートジェットのパイロットでシーランチに約12年間住んでいるデカロさんは、「誰にでも向くというわけではない」が、「私は他の場所には住むつもりはない。ここはとても平和だ」と語る。

米国人のデカロさんは、海を見下ろす1250平方フィートのアパートを2009年に120万香港ドルで購入。購入代金と同じ費用と2年を費やして改装したが、交通手段がなかったことを考えると簡単な作業ではなかった。

デカロさんは結局、隣接する3ベッドルームのアパートも買い入れ、530万香港ドル、つまり平方フィート当たり4240香港ドルで売りに出した。最近の売買実績に基づくと、ディスカバリーベイでは1平方フィートは平均9886香港ドル、香港島の半山区は1万8704香港ドルだ。

デカロさんは近くに640平方フィートの物件も購入し、ガス暖炉とサウナなどを備えたハイスペックな家に改造。彼が「ツリーハウス」と呼ぶそのアパートは、330万香港ドルで売りに出されている。

以前の不動産ブームにおいてシーランチの安さが関心を集めたため、デカロさんは現在130人余りが住んでいるとみているが、ここに越してきた当時の住人は50人にも満たなかった。

彼の隣人は引退した大学教授や元警察官、個人投資家の家族らだ。多くのユニットは、近くの島に310億香港ドルの焼却場を建設する作業員の拠点だ。

建設後40年以上たった今でも良好な状態が保たれており、幾つかのアパートにはよく手入れされ、装飾品や植物で飾られた立派な庭園が備わっている。

パティオに雑草が生い茂り、放置されてきたという雰囲気が漂うエリアもある。香港の厳しい気候の中でも、建物の構造自体はしっかりしており、劣化の兆候はほとんどない。

管理費は月1800-3200香港ドル。基本的なメンテナンスとセキュリティー、フェリーの代金が含まれている。ごみ収集は週2回。ビーチは公共だが、敷地自体は私有地だ。

常に変化し続ける香港にあって、シーランチは少しも変わらない。ここ数年での最大の変化は、新しい桟橋だ。元々あった桟橋は2017年の台風で壊れてしまった。

ここの永続的な長所は静けさであり、それがデカロさんのお気に入りだ。海を見渡すアパートの白いソファでお茶を飲みながら、「ここは私の香港だ。誰もが自分の香港を持っている。私の香港はここだ」と語った。

原題:Open House: Cheapest Hong Kong Luxury Housing Has a Major Catch(抜粋)

(c)2024 Bloomberg L.P.

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最終更新:3/8(金) 10:25

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