人気急上昇の日本プロバスケットボール、NBAに次ぐ世界2位目指す

4/22 12:34 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): ファンで埋め尽くされた東京の体育館で、バスケットボールの試合が行われた。ホームチームの「サンロッカーズ渋谷」は、前半終了までに12点差をつけられていた。試合を支配していたのは相手チームの選手で、勝ち目は薄いように思われた。しかし、後半にまさかの逆転劇が起きた。

サンロッカーズのコーチは、米国出身のフォワード、ジェフ・ギブス選手を投入。同選手は相手チームのシュートを次々と阻止し、リバウンドを奪い、すきのない完璧なディフェンスを見せ始めた。逆転の勢いが強まると、スリーポイントシュートのチャンスを獲得し、それを見事に決めた。観客はどよめいた。サンロッカーズは10点差で勝利し、この試合の最優秀選手賞は途中交代で出場したギブス選手に贈られた。

ギブス選手は「プレーしていてよかった。特にこの年齢になるとそう思う」と特大の小切手のパネルを受け取りながら語った。

ギブス選手は43歳で、マイケル・ジョーダンが3度目の引退をした時の年齢を3歳上回る。プロバスケ選手として20年間のキャリアを持つ同選手は、息の長さではコービー・ブライアントや、往年の名選手ロバート・パリッシュに肩を並べる。

しかし、ギブス選手は母国プロバスケットボールNBAでスター選手になったことは一度もない。好きなスポーツで生計を立てるために国から国へと渡り歩く熟練職人のような選手の一人だ。

米オハイオ州出身で、ドイツ経由で来日したギブス選手は「スタートしたころはパスポートも持っていなかった」とした上で、「いろいろな国を渡り歩き、子どもたちに世界を見せて回ることができた。今はどこでもバスケがプレーされている」と話す。

NBAが依然として不動の最高峰である一方、プロバスケリーグがある国は今や100カ国余りとなり、全世界の収入は120億ドル(約1兆8600億円)を超える。

国際バスケットボール連盟(FIBA)のデータによると、昨シーズンの海外移籍選手の数は初めて1万1000人を突破した。スペイン、フランス、ドイツといった欧州の名門リーグでは、外国人選手の割合が50%を超え、その中でも最大を占めるのが米国出身の選手だ。NBAでも、過去3シーズンにMVPを獲得したのは、カメルーン、セルビア、ギリシャ出身の選手だ。

日本の野心

日本はバスケットボールの世界拡大において後発組で、その将来には極めて高い期待が寄せられている。渋谷サンロッカーズが所属する日本のプロバスケットボールリーグ「Bリーグ」は、2016年にスタートしたばかりだが、NBAに次ぐ世界2位のリーグになるという目標を掲げている。

Bリーグの島田慎二チェアマンは東京の本部でインタビューに応じ、この目標について「全てにおいてNBAに続く2番目のリーグになるということだ」と説明。「リーグのビジネスとしてのスケール」「全国にあるクラブチームのビジネスのサイズ」「競技力」を例に挙げた。

日本でバスケ人気は急速に高まっている。スタジアムは満員で、ファンは米国の観客のように熱狂的な声援を送るようになっている。また、収入も観客動員数も増加している。日本人選手の実力は十分に向上し、日本代表チームは男女ともパリ五輪の出場権を獲得した。

日本で選手はNBA並みの報酬を稼ぐことはできないが、給与には競争力がある。Bリーグの平均的な選手の年俸は約15万ドル。トヨタ自動車のようなオーナー企業が優勝のために積極的に投資する用意があるため、スター選手は100万ドル稼ぐことも可能だ。

「今や選手やコーチの移籍先として、日本を上回るのは極めて難しい」と、ギブス選手を日本にスカウトし、欧州や米国、アジアでそれぞれ10年余りコーチ経験があるドン・ベック氏は話す。

世界を渡り歩く

ギブス選手は身長188cmとNBAのフォワードとしては小柄で、NBAから声が掛かることはなかった。同選手は1年間普通の仕事をした後、ドイツでプレーを始め、ウルム市のチームに加わった。そこでは1年目にチームの2部リーグから1部リーグへの昇格に貢献し、4年連続でリバウンド数でリーグトップとなった。

大学時代にチームメートだったケビン・シェイさんは08年、イラクでの兵役の合間を縫ってドイツにギブス選手を訪ねた。シェイさんは皆が2人を見つめているのを見て驚いたが、その理由に気づいた。「中央広場に入ると、ジェフ(ギブス選手)が描かれた巨大な看板があった。彼は『ミスター・インクレディブル』と呼ばれていたんだ」と話した。

10年にベック氏がトヨタ自動車のチームの後任ヘッドコーチに就任した時、最初に電話をかけた選手の1人がギブス選手だった。同チーム、アルバルク東京はリーグ6位に終わっていたが、この結果はオーナーのトヨタにとっては十分ではなかった。「トヨタは負けず嫌いだ」とベック氏は語る。

Bリーグの首脳陣の目はしっかりと成長を見据えている。26-27年シーズンに、欧州のようにクラブが2部リーグに降格される可能性がある現在のモデルではなく、NBAのようにクラブが永続的にリーグに所属する構造に移行する。また、各チームの金銭的な要件を引き上げ、より大規模なスタジアムと観客動員数の増加を義務付けるほか、より多くの外国人選手を受け入れる。

同リーグの島田チェアマンは、こうした措置によって、トップクラブが収入を30億円以上に増加させることができるとの見通しを示した。これは中国バスケットボール協会(CBA)を上回り、欧州のユーロリーグの上位5クラブに並ぶ水準だ。

同氏は、10年後ぐらいに世界中のバスケットボール関係者が集まり、NBAの次に大きいリーグはどこかという話になった時、「大半の人たちにBリーグだろうと言ってもらえるような状況になるイメージを持っている」と説明。「ビジネスサイドはもう世界で2位になったと言ってもいいんじゃないか」とする一方で、競技力の点では「2030年ぐらいをゴールにしたい」と述べた。

今後の課題

Bリーグは、より自由に出費を行う組織と競争して優秀な選手を獲得するのに苦戦するかもしれない。日本のチームが収支トントンか小幅赤字で運営される傾向があるのに対し、海外のクラブはスター選手に年間200万-400万ドルを支払うため、大幅な赤字を出すことも珍しくない。

ギブス選手は日本滞在中に日本のバスケの進歩に感銘を受けたが、そんな同選手でさえ、Bリーグがその野心的な目標を達成できるかどうか懐疑的だ。「私見だが、ユーロリーグがNBAに次ぐ2位の存在であることはこれからも変わらないだろう。より競争も激しいし、いいプレーをすればより稼げるし、より良い契約も結べる」。

現役生活が終わりに近づくにつれ、ギブス選手はバスケのグローバル化を身をもって体験できたことに感謝している。NBA選手の平均キャリアが約4年半であるのに対し、同氏はその4倍超の長さのキャリアを歩んできた。

しかし、年齢は大きな打撃も与えている。アルバルク東京がチームの若返りを図った時、ギブス選手は宇都宮ブレックス、長崎ヴェルカとチームを移った。今シーズンにサンロッカーズ渋谷に移籍したのは、長崎ヴェルカでは出場機会が限られると予想されたのが一因だった。

何年も前からユニホームを脱ぐことを話していたギブス選手は、今シーズン限りで現役を引退することを真剣に考えているという。ただ、気持ちが揺れ動いていることも認めている。今シーズンでの引退を99%確信していたのが、数週間後の会話では80%になっていた。

現役引退がいつになろうとも、最後の国際的な移動を視野に入れている。それは米国に戻って、大学のバスケコーチになることだ。そうなった場合、必ず教え子たちの視野を大きく広げるようにするつもりだ。

「ゲームはとても大きく進化している。われわれが子どものころは、テレビでたまたまやっている試合を見るだけで、それほど観戦する機会はなかった。今はテクノロジーのおかげで、あらゆる試合を見ることができるし、最高の選手の動きも学べる」と語った。

原題:Japanese Basketball’s Improbable Bid to Compete With the NBA(抜粋)

--取材協力:Mayumi Negishi、Yuan Gao、森来実.

(c)2024 Bloomberg L.P.

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最終更新:4/22(月) 12:34

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