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トークバラエティがこんなに多い今、個人の努力で防ぐのは限界がある? かまいたち濱家「薬剤師蔑視で炎上」も“同情”すべき理由

3/11 16:32 配信

東洋経済オンライン

 薬局での説明は「要らない時間」で、薬剤師には「医者憧れ」がある――。

 人気お笑いコンビ・かまいたちがテレビ番組で行った発言に、「薬剤師を軽視している」との非難が集まり、SNSでは炎上が続いている。

 これまでネットメディア編集者として、数々の炎上をながめてきた筆者の感覚からすると、「薬局での説明」にフォーカスした着眼点そのものは、ある程度ネットユーザーに受け入れられやすい印象がある。

 では、なぜ炎上に至ったのか。その理由を考察すると、さまざまな「変数」がかけ合わさった結果が見えてくる。筆者は決して、発言そのものを擁護する立場ではないのだが、背景を考えるほどに、出演者である、かまいたちだけの問題ではない気がしてしまうのだ。

■薬剤師から症状を聞かれるのは「全然いらん時間」

 話題の発言が行われたのは、ABC(朝日放送)テレビで2024年2月28日に放送された「これ余談なんですけど・・・」。この日は、生活における「イライラ」を題材に、街頭インタビューによるアンケート紹介とともに、出演者それぞれがエピソードを披露する構成となっていた。

 そして、かまいたち・山内健司さんが「イライラする時間」として挙げたのが、薬局での体験談だった。病院で問診を受けて、処方箋を出されたのにもかかわらず、改めて薬剤師から症状を聞かれるのは「全然いらん時間」と発言。

 そこへ馬場園梓さんが「言ったって薬変わらへんから」と同調し、かまいたち・濱家隆一さんは「薬剤師さんも医療に携わっているから、『医者憧れ』みたいなのがある」と反応した。

 薬剤師法では、調剤した薬剤について、患者らに必要な情報の提供や、薬学的知見に基づく指導を行わなければならないと、薬剤師に義務づけている(第25条の2)。また第24条では、処方箋に疑わしい点があった場合には、医師らに問い合わせて、その部分を確認した後でないと、調剤してはならないと定めている。違反者には罰則も設けられている。

 こうした前提もあって、SNS上では「薬剤師という職業を軽視しているのでは」など、一連の発言に対しての非難が相次いだ。

 炎上を受けて、濱家さんは「処方箋の件、考えなしに失礼な事言ってしまいました」と反省。馬場園さんも、友人の薬剤師から「我々の仕事は医師が処方した薬を最終チェックする役目があるんやで!」と言われたというエピソードを明かしつつ謝罪した。

 加えて、番組公式サイトにも「窓口で薬剤師が症状等の確認をすることは、法律(薬剤師法)に基づいた適正な業務であることなど、薬剤師に関する番組側の認識が不足していました」との謝罪文が掲載された。

■「絶対に良くない発言でした」と謝罪

 濱家さんは後日、改めて「全ての職業をリスペクトしています。ただ、メディアに出る人間として、この発言を誰がどんな気持ちで受け取るか考えが至っていない時点で絶対に良くない発言でした」と投稿。

 薬剤師をテーマにした漫画『アンサングシンデレラ』を読み、「自分が想像している以上に大変なお仕事だと分かりました」とコメントし、「誠実な謝罪だ」といった反応が出ている。

 なお3月10日現在、山内さんから本件に関するSNS投稿はない。

 一連の炎上を見ていて、まず感じたのは「同じ着眼点でも、異なる着地にできなかったのか」という点だ。なぜ病院と同じ質問が、調剤薬局でも繰り返されるのか……といった疑問そのものは、生活の中で感じたことがある人も多いだろう。

 また、長年ネットメディアに関わってきた経験から言うと、ネット空間では、こうした手続きや「お約束」への批判が盛り上がりがちな印象がある。今回の件でも、SNS上では「たしかに体調が悪い時、会話するのはツラい」と、一定の理解を示す声は珍しくない。

 問題なのは、番組内では「なぜ聞き直すのか」の理由が示されないまま、個人のイライラエピソードとして消費されたことだろう。「いらん時間」という前提のまま、理屈ではなく感情ベースで話が進み、とくに出演者から反論がないまま話題が変わった結果、一方的な職業蔑視との印象が強くなったのではないか。

■出演者だけが悪いのか

 ここで浮かぶのが、「出演者だけが悪いのか」という問いだ。

 このまま放送すれば、どんな印象を視聴者に残すのか、制作陣の認識が不足していたのではないか。そのくだりがないと番組が成立しないのであれば別だが、そうでなければ、いくらでも編集できるはずだ。実際、動画配信サービスでは現在、該当部分がカットされた状態で公開されているが、とくに違和感はない。

 仮に必要なシーンだとしても、他の出演者からフォローがなければ、「※薬剤師さんには処方箋の内容確認が義務づけられています」といったテロップを入れる余地はあっただろう。それを出して、なおバラエティー番組として成立するかは別の話だが、少なくともここまでの炎上にはならなかったはずだ。

 ただでさえ、ここ最近は相次ぐ不祥事によって、アンチテレビの風潮が加速している。ドラマ「セクシー田中さん」(日本テレビ系)の改変問題に加え、先日は「逃走中」(フジテレビ系)のロケスタッフが、近隣住民を軽視するような、強引な撮影を行った件も話題になった。

 テレビ局の一挙手一投足が「失点ありき」で注目されているなかで、あのトークを無編集で流すとどうなるか……という想像力が欠けていた責任は否定できないだろう。

 加えて、近年では芸能人がテーブルを囲んだり、ひな壇に並んだりするトークバラエティーが増えている。出演者のエピソードトークに頼れば、制作陣はコンテンツづくりを「丸投げ」できるわけだが、そのぶんコンプライアンス意識やリスク回避には、これまで以上に目を光らせる必要があるのではないか。

 いざという時、今回のように、矢面に立つのは出演者だ。「責任の負担を含めてのギャラ(出演料)設定だ」と言えば、たしかにビジネスとしては一理あるのだが、SNSなどでの芸能人への誹謗中傷が社会問題化される昨今、視聴者感情としては受け入れにくい。また、この構図が透けることで、ネットユーザーは「上から目線」の業界体質に反発を覚え、より「マスゴミ」への悪印象を強めてしまう。

■ローカル番組も、全国で視聴できる時代

 テレビ番組の視聴形態が変わったことも、炎上の性質が変化してきた一因に思える。ちょっと前までは、リアルタイムもしくは録画で見るしか手段がなかったが、いまやTVerで「見逃し配信」を楽しめる。テレビ局にとっては収益化の手段が増えた一方、不適切発言があれば、その出典元に直接アクセスできるようにもなった。

 そもそも、これだけの炎上を巻き起こした「これ余談なんですけど・・・」だが、実は東京では放送されていない。キー局であるテレビ朝日は、その時間帯に別番組を流しており、日を改めての放送もない。しかしTVerの誕生によって、関西ローカルの番組でも、全国で視聴できるようになったのだ。

 そのため、より多くの視聴者から見られているという意識を持たなければ、思わぬ場所で足を踏み外してしまいかねない。ローカル番組が持つ「独特のノリ」が、そのまま日本中に展開されたことによって、温度差が生じている可能性もある。

 制作陣の想像力不足、アンチテレビの加速、トークバラエティーへの依存、TVerの出現……。こうした数々の「変数」がかけ合わされることで、今回の発言が炎上に至ったと考えると、かまいたちほどの売れっ子であっても、出演者一人ひとりの配慮で、どうにかなるレベルを超えている印象を受ける。

 だからこそ、番組制作者たちの的確な編集判断が必要となるわけだが、こちらはこちらで人材不足が叫ばれている。かつてのような徒弟関係が時代錯誤と指摘され、若い映像クリエイターがYouTubeに活路を見いだす昨今、テレビ復調に向けた道はあるのだろうか。

東洋経済オンライン

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最終更新:3/11(月) 16:32

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