名経営者が「利益に直結しない」話をしたがる事情 起業界隈にあふれるポジショントークを疑え

4/16 15:02 配信

東洋経済オンライン

起業をテーマにした本や記事は無数に存在しますが、なかでも「ビジョンの重要性」を説くものは少なくありません。
でも、起業当初からビジョンを掲げる必要はあるのでしょうか。ビジョンに限らず、起業界隈には「これが大切」というメッセージをたくさん見つけることができますが、それらは一体、誰が言っているのでしょうか。
ネットや本にあふれる膨大な知識を学ばなくても、起業で成功を収めることができる。地道に稼ぐ経営者のノウハウを体系化した書籍『どんなビジネスを選べばいいかわからない君へ』(村上学・著)より、一部を紹介します(全3回中の第2回)。

■最初の目標は「地道に稼ぐ」

 起業当初はお金もなければ人も足りないなかで、数えきれないほどたくさんの工程が存在します。起業は準備を万全にしてスタートできるものではないので、優先順位を決めて取り組んでいきます。

 おそらく「何から手をつければいいのだろう」と迷うかもしれませんが、最初の目標は「地道に稼ぐ」です。

 とはいうものの、そう簡単にはいかないのが起業です。

 起業界隈では、人によって「これが大事だよ」というメッセージが変わります。そう、ポジショントーク(自分に都合がいい発言をすること)です。このせいで目標がブレてしまい、何を信じればいいのか、何をすればいいのか混乱してしまうのです。

 その典型例が「ビジョン」です。

 ビジョンは、「こんな会社になります」「こんな社会を実現します」といった、将来のありたい姿や実現したい社会を表し、従業員や取引先、顧客といった利害関係者に発信するためのものです。したがって、ビジョンの策定が大事だといわれれば、そのとおりだと納得するでしょう。

 ところが、もし最初にビジョンを決めようと力を注いでいるとしたら、失敗への第1歩を踏み出したといっても過言ではありません。

■ビジョンでは飯が食えない

 ビジョンといえば、ベストセラー『ビジョナリーカンパニー』(ジム・コリンズ)が有名です。多くの人に読まれたこの本ではビジョンの重要性が語られています。

 あまりに名著とあがめられているためか、その権威を利用してビジョンの重要性を説く人が多いように思います。でも、稼ぐというゴールを見据えたとき、ビジョンの策定ははたして優先的に取り組まなければならないものでしょうか。

 質問を変えましょう。ビジョンでメシは食えるでしょうか。

 起業志望者は、何か聞こえのよい(けどフワッとしている)メッセージやアドバイスに注意を払わなければなりません。お金を稼ぐことに直結しない行動をしてしまいます。

 イエローハットの創業者の鍵山秀三郎さんは、社内のトイレを自身で洗うことで有名で、きっかけや効果などをメディアで語っています。事実、同社の躍進を支える重要な要素であるのは疑いようがありません。

 ところが、起業志望者がそれに感化されて同じ行動をしてしまったら、遅かれ早かれつぶれていくでしょう。いくらトイレを掃除しても、売り上げは上がりません。

 イエローハットと、起業したばかりの小さい会社では立っているステージがまったく違うので、取るべき行動が異なるのは当然です。

 ビジョンや経営理念は稼いで(しっかりと地に足を付けて)からの話で、最初はドライに徹して稼ぐ。そこが見えていないと、泥沼にはまってしまいます。

 経営者の多くがビジョンやミッション、バリュー、想いなどの(売上に直結しない)抽象的なメッセージを語るのはなぜでしょうか。

 その理由はシンプルです。

 成功した経営者は綺麗事を語るのが仕事なのです。会社が大きくなればなるほど、従業員や利害関係者に伝わりやすい、わかりやすいメッセージが必要となります。そのため「ありがとうが大事」と言ったりするのです。

 少し話がそれますが、経営者は古典も好きです。世間で名を馳せるリーダーたちは、『菜根譚』『孫子』『論語』といった古典をよく読みます。特に『孫子』はビル・ゲイツやイーロン・マスクの愛読書として有名です。

 昔から人間の本質は変わらないことや、戦争の戦略はビジネスと似通ったところがあるので、好まれるのでしょう。

 名経営者が「影響を受けた」と言って紹介したりするので、当然「読んでおこう」という気持ちになるのはよく理解できます。だからといって、時間を割いてわざわざ読む必要はありません。古典を読んでも売上に直結しないので、時間と努力のムダに終わります。

 「戦わずに勝つべき」という孫子の兵法はもっともだとしても、真に受けて「どうやったら戦わずに勝てるだろうか?」と考えこんでしまってはいつまでたっても売り上げは上がりません。

■ビジョンを「メシの種」にする人

 話を戻しましょう。

 経営者とは異なる理由からビジョンを語る人たちもいます。経営コンサルタントです。

 ひと口に経営コンサルタントといっても、専門はさまざまですが、なかでもビジョンを語るのは参入障壁が低く、マーケットが広いのでビジネスとして成り立ちやすい。彼らはビジョンでメシが食えるので、ビジョンの重要性を語るのです。

 経営コンサルタントの存在も「ビジョン重視」の状況に拍車をかけているといえます。コンサルはビジョンを語るとお金になりますし、それを聞く起業志望者は、資金計画は不要で、こむずかしいマーケティングを考えず、精神的にキツい営業もせず、ビジョンをしっかり決めたら成功すると思い込むことができます。

 安易に夢を見られるという点では、宝くじと一緒です。よく考えたら期待値は低いのですが、コンサルと起業志望者にとっては一見、ウィン-ウィンなのです。

 起業志望者が振り回される一例としてビジョンを中心に見てきましたが、専門家はみなポジショントークをし、その内容は人によって変わります。

 会計士なら「会計の知識がすべて」と言いますし、行政書士や社労士なら「補助金を使え」と言います。そうして、自分たちのビジネスに集客しているのです。

■とりあえず稼ぐことにフォーカスする

 補助金は必ずしも必要なわけではありませんが、メッセージにつられた起業志望者の顧客リストを集めて、補助金申請の手数料で稼いだりしています。

 それは決して起業志望者のためを思った発言ではありませんが、世の中にはそんなポジショントークがあふれています。「税金の知識がないから起業できない!」「リーダーシップが足りないから起業できない!」と思わせて本業に呼び込んでいるのです。

 飲食に関する起業本には、「売り上げアップには、箸の置き方が大事」と言うものもあります。もちろん、そのとおりだと思います。実際、超一流の店を出すならば、細部までこだわり抜いたほうがいいでしょう。

 でも、そうでない場合は、とりあえず稼ぐことにフォーカスし、稼いだあとに成長戦略として超一流を目指せばいいだけです。

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最終更新:4/16(火) 15:02

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