日銀がYCCを再修正 物価見通しの大幅上方修正は利上げにつながるか?

11/1 11:41 配信

THE PAGE

 日銀が金融緩和政策を再び修正しました。物価見通しも引き上げられましたが、インフレ抑制のための利上げは想定されるのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主席エコノミストに寄稿してもらいました。

長期金利を厳格に抑えることの副作用に言及

 10月31日の金融政策決定会合で日銀はイールドカーブコントロール(YCC)のさらなる柔軟化を決定しました。7月28日の金融政策決定会合で定めた長期金利の上限値1%について、「(1%以上の金利上昇を)厳格に抑制する」としていたものを、1%は「目途」であるとして上限値の解釈に幅を持たせました。今後、長期金利が1.0%に届いたとしても、それを無制限の国債買入れ(指値オペ)で抑制することは考えにくくなりました。長期金利の上限は撤廃されたと言っても良いでしょう

 長期金利の上限を1.0%へ引き上げてからわずか3カ月で再度修正を実施した理由については声明文で以下のように素直に認識変更が認められていました(【】は筆者)。物価上昇が続く下で、金融市場でマイナス金利解除やYCC終了が織り込まれつつある中、政策変更の際に生じ得る(金利の)断層を予めならす意図が明確に伝わってきます。

「内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、今後の情勢変化に応じて、金融市場で円滑な長期金利形成が行われるよう、長短金利操作の運用において、柔軟性を高めておくことが適当である。この点、現在の状況において、原則として毎営業日1.0%の利回りで連続指値オペを実施し、【長期金利の上限を厳格に抑えることは、強力な効果の反面、副作用も大きくなりうる】と判断し、大規模な国債買入れと機動的なオペ運営を中心に金利操作を行うこととした。」

2024年度の物価見通しは0.9%pt引き上げ

今回、注目すべきは物価見通しの大幅な上方修正です。2023年度が+2.8%へと引き上げられたことは実勢から判断して想定の範囲内でしたが、2024年度が+2.8%へと0.9%ptも引き上げられたことは驚きでした。展望レポートの説明では、原油価格上昇と政府によるエネルギー価格の負担緩和策の反動が2024年に発現するとありました。

 しかしながら、そうした影響を直接受けない生鮮食品とエネルギーを除いた、いわゆる日銀型コア物価も+1.9%へと0.2%pt引き上げられていたことに鑑みると、日銀は基調的な物価の上振れを予測に反映したと解釈するのが妥当でしょう。2025年度も+1.7%と2%に近づきました。

賃金高騰はなく欧米と質が違うインフレ

 こうした度重なる物価見通しの上方修正は「インフレは一時的」と判断していた2021年頃の米FRB(連邦準備制度理事会)を彷彿とさせます。最近では日銀の政策が後手に回っている可能性、いわゆるビハインド・ザ・カーブに陥っているとの懸念も一部にあります。

 ただし、日本経済は良くも悪くも欧米のような賃金インフレが発生しておらず、その点においてインフレの質が決定的に異なります。日本企業の賃金・価格設定行動がデフレ期と明確に異なってきたのは事実ですが、例えば毎月勤労統計の所定内給与(基本給に相当する尺度)が3%を上抜ける中で、個人消費が堅調に推移し、その結果として消費者物価が2%以上で高止まりするデマンドプル型のインフレが定着する姿はなお想像にしいくい状況にあります。

 賃金・物価が明確なプラス圏に浮上し、為替の円安が進行する中、マイナス金利という極端な金融緩和政策はいつ解除されても不思議ではない状況になっていますが、インフレを抑制するための連続的な利上げは現時点で想定されません。

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※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

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最終更新:11/1(水) 11:41

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