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「リッチモンドホテル」でロイホやシズラーが食べられる理由とは? 人気ビジホが誇る「確かな美味しさ」と「個性あふれるメニュー」のルーツを探る

4/16 9:41 配信

東洋経済オンライン

男性はもちろん、昨今は女性や外国人観光客など、多くの人が利用しているビジネスホテル。各ホテルはそれぞれに、代名詞とも言えるサービスや設備を持っている。けれど昨今のホテル選びでは価格ばかりが注目され、提供側がこだわっているポイントにはスポットライトが当たっていないこともしばしばだ。
この連載、「ビジネスホテル、言われてみればよく知らない話」では、各ビジネスホテルの代名詞的なサービス・設備を紹介し、さらに、その奥にある経営哲学や歴史、ホスピタリティまでを紐解いていく。第8回は、リッチモンドホテルの知られざる朝食へのこだわりと、顧客満足度1位に選ばれるサービスについて、前後編でお届けする。

■全国に4店舗しかない朝食ビュッフェ

 オーセンティックで落ち着いた雰囲気の内装に、肉厚なステーキ、ドミグラスソースがたっぷりかかったオムライス……。『ロイヤルホスト』は日本人の大半が知っている、“ワンランク上の”ファミリーレストランだ。

 だがご存じだろうか?  そのわずか6店舗で、朝食ビュッフェが提供されていることを。なぜか。朝食ビュッフェは、ホテル併設の店舗でのみ提供しているからだ。

 そのうち3店舗はリッチモンドホテル(以下、リッチモンド)の朝食会場になっており、提供時間内なら宿泊者以外もオーダーできるため、コアなファンに喜ばれている。

 ロイヤルホストで朝食ビュッフェが味わえるリッチモンドは、横浜駅前、仙台、天神西通の3ホテル。定番のスクランブルエッグやソーセージのほかに、ロイヤルホストならではのカレーなど40~50種類の和洋メニューが並ぶ。人気は、小さめサイズで提供されるロイヤルホスト名物のパンケーキだ。

 さらに、中華街が近い横浜駅前では点心や上海風焼きそば、仙台なら牛タンカレーと、ご当地メニューも4~5種スタンバイ。これらはもちろん、ロイヤルホストのグランドメニューにはない。リッチモンドの朝食ビュッフェでしか食べられないメニューだ。

■デリやタコスも朝から食べ放題! 

 実はリッチモンドの朝食会場になっているレストランがもう1つある。『シズラー』だ。ロイヤルホストより希少性が高く、全国43軒のリッチモンド中、押上と東京武蔵野の2軒のみ。シズラーはアメリカ発祥で、ロイヤルホストよりやや“高級路線”のブランド。新鮮でバラエティ豊かなサラダバーが特長だ。

 宿泊者に提供される朝食の内容は、サラダバーとチーズトースト。そして、このサラダバーがひと味違う。生野菜、デリサラダ、日替りの肉料理1品を含むホットフード、フルーツ、デザート、スープ、ドリンクバーと、約70種類にも及ぶのだ。

 「特にご好評いただいているのはデリサラダで、コールスローやシーフードサラダに加え、『チュニジア風人参サラダ』など、海外発祥らしいメニューも登場します」と企画開発部部長 兼 新領域開発課課長の宗像興一氏は説明する。

 昨年筆者も出張で押上に宿泊したのだが、サラダバーに、タコスやナチョスがあって驚いた。これらもアメリカ発祥ならではだろう。だがその一方で、味噌汁、焼き魚など和食も並んでいる。

 「通常のシズラーにはないのでは?」と思って尋ねたところ、宿泊したゲストからの要望を受け、追加されたとのことだった。(※通常店舗では和食の提供はありません)

 一方のチーズトーストは、ロイヤルホストのパンケーキと並ぶシズラーの名物だ。パルメザンチーズのスプレッドが焼き固められた表面はザクザク、裏はふわふわ。食感のコントラストが絶妙で、チーズの風味と香ばしい味わいがあとを引くひと品だ。押上店ではサラダバーのパンコーナーに陳列しており、好きなだけ味わうことができる。

 通常のシズラーのサラダビュッフェは、朝2145円、昼2574円、夜3223円。そう考えるとこの朝食は、かなり高コスパではないだろうか。

 「日本人のお客様に喜んでいただいているのはもちろんですが、シズラーはアメリカ、オーストラリア、東南アジアでも認知されており、インバウンドの集客にもひと役買ってくれています」と宗像氏。一方でロイヤルホストは海外ではまだ認知が少ないそうで、「今後ラーメン、カレーに続いて日本の洋食も受け入れられていくのでは」と期待を込める。

 (※シズラーのモーニングサラダバーは、土日祝日・一部店舗限定にて実施)

■ロイヤルホストやシズラーが朝食会場になったワケ

 そもそも、なぜロイヤルホストやシズラーがリッチモンドの朝食会場なのか。実はリッチモンドは、ロイヤルホストとシズラーを経営するロイヤルホールディングスのグループホテルなのだ。

 1996年、ホテル事業2軒目として創業した『ロイネットホテル武蔵野』(現・リッチモンドホテル東京武蔵野)からシズラーで、2000年の『ロイネットホテル仙台』(現・リッチモンドホテル仙台)の創業から、ロイヤルホストでの朝食提供を開始している。

 そのきっかけについて宗像氏は、「元々はホテルを建てる際にテナントを探していて、グループということで優先的にお声がけしたと聞いています。結果テナントに決まり、ならば朝食を提供していただき、グループでシナジーを発揮していこう、という話になったのです」と説明する。

 つまり、偶発的だったのだ。ちなみに、同じくテナントに入っているという理由から、ライバル的存在であるガストや、居酒屋で朝食を提供しているリッチモンドもあるそうだ。

■どて煮から日本酒まで。19ホテル全部違う

 ロイヤルホストやシズラーでの朝食もすごいが、リッチモンドは直営レストランで提供する朝食ビュッフェにも、並々ならぬこだわりがある。しかも、ホテルごとに半分はご当地メニューを取り入れているため、提供する19軒それぞれに内容が異なる。

 「ぜひ自慢の朝食を体感してほしい」との勧めで『リッチモンドホテルプレミア京都四条』に宿泊したところ、想像を越えた“ご当地の味”に圧倒された。

 「にしんと茄子のたいたん」などのおばんざいはもちろん、ライブキッチンで作りたてを提供する京風だし巻きに焼き鯖寿司、聖護院大根や西京味噌のドレッシング。朝食のテーマを「京イタリアン」に設定しており、ゆばのオリーブオイルがけといった創作系メニューも目を引く。他方、鉄板で焼き上げるローストポーク、ミネストローネなど洋食も充実していた。

 また各料理は陶芸作家が制作した小皿に盛り分けられており、ゲストが京格子のすかし箱に取り分ける演出も旅情を誘う。なかでも目が釘付けになったのは、3種の「モーニング日本酒」だ。

 朝食に日本酒とは、いったい誰が考えたのか。尋ねると、「ご当地メニューは、各ホテルの社員とアルバイトのアイデアを取り入れて、スーパーバイザーを中心に本部のチーフコックが考案しています」との答え。なるほど、現場の声が個性を生んでいるのだ。

 そのほかにも、なんば大国町のリッチモンドではたこ焼き、串カツ、どて煮、肉吸い。浅草では、生オレンジにストローを刺して提供する搾りたてジュースにローストビーフと、各ホテルの個性が際立つ。

 これらのメニューのうち、ベーシックで共通する料理はセントラルキッチンで製造するが、ご当地メニューは各ホテル内のキッチンで調理している。

 ただ、そこで提供する食材や調理工程には、安心安全とおいしさの観点から、厳格なルールが何十も整えられているため、準備にはかなりの労力と手間暇がかかっているそうだ。

 宗像氏は、「正直大変ですが、『お客さまに美味しく食べていただくためにはこれが必要なんだ』という想いが企業文化としてあり、当然だと思っています」と笑顔を見せた。

 その言葉を裏付けるのが、2023年に6ホテルで行われたレストランの改装だ。キッチンを中央に設置、鉄板を入れるなど、ライブキッチン仕様に変更が行われた。早速、広島・福山はお好み焼き、宇都宮は餃子など、鉄板で焼き上げるメニューを増やしている。リッチモンドの朝食は、さらなる進化を続けているのだ。

■なぜ、そこまで朝食にこだわるのか

 筆者は15年以上ホテルを取材しているが、グループで半分以上のメニューが異なるほど、朝食にこだわるビジネスホテルは記憶にない。なにがリッチモンドをそこまで駆り立てるのだろう。

 「ひとえに差別化のためです。宿泊特化型ホテルは、客室やサービスにほとんど差がありません。リッチモンドの客室フォーマットはシングルで18㎡、140cm幅のベッド、広々としたデスク周りです。開業当初はそんなビジネスホテルはありませんでした。

 ですが、いつしかそれが業界標準になり、ハード面の優位性がなくなったのです。だからこそ私たちは、朝食の重要性が高いと認識しています」

 客室に差がないならば、何で優位性を持つか。飲食にルーツがあるホテルだからこそ、食とサービスで差別化を図ろう、と考えたのだ。宗像氏は、自身も言葉を噛みしめるように、「リッチモンドにとって、食は切っても切り離せない命綱のようなもの。私たちは、食と人の価値をどう提供していくかで勝負しています」とその決意を語った。

 リッチモンドの昨年度の稼働は、全国平均75.2%と非常に高い。この結果が、戦略の結果を物語っているのではないか。

 だがそうは言っても、海外の大手ラグジュアリーブランドの「宿泊特化型ホテル」が相次いでオープンするなど、ホテル業界はますます戦国時代だ。さきほど登場した『リッチモンドホテルプレミア京都四条』は2022年3月、そんなさなかに実験的なブランドとして立ち上げられたホテルだ。

■現在のリッチモンドと未来を結ぶ新ブランド

 以下は筆者が『リッチモンドホテルプレミア京都四条』で体験したことを綴る。同ホテルでは、チェックイン時に勧められてソファに座ると、宇治の玉露か日本酒どちらかのウェルカムドリンクが提供される。

 朝食会場でもある、開放的で広々とした「プレミアムラウンジ」では、13~21時にソフトドリンク、デザートを。15~17時には、それに加えてケーキやスイーツを。17~20時には地元の日本酒、ワイン、クラフトビールなどのアルコールと、生ハム、おつまみなどを提供している。そして、これらすべてが無料だ。

 客室はほとんどがツインで、その広さは、一般的なツインの倍はある。インテリアもスタイリッシュで、スーツケースが収納できる大型クローゼット、独立洗面台、オーバーヘッドシャワーが付いたバスルーム、さらにはレコードプレーヤーの設置など、ラグジュアリーホテルに負けず劣らぬ仕様になっている。すべてが、「ビジネスホテル」という枠を越えていた。

 宗像氏は同ホテルについて、「コロナ禍とその後の資材高騰でグループの出店計画が一旦白紙になった後に、初めて建てたホテルです。海外ブランドの宿泊特化型ホテルが激増する中、他と一線を画さねばならないと“リッチモンドらしいラグジュアリー”を体現しました。いわば、現在のリッチモンドと未来を結ぶ存在です」と胸を張る。

 続けて、「ロイヤルホストが海外の食文化を日本に広めてきたのと同様、海外ブランドホテルのプレミアムフロアでしか体験できなかった優雅な過ごし方を、全ゲストに提案したいと思っています」と展望を語った。

 同グループでは2023年から、支配人が海外ブランドホテルを視察する研修も実施。京都四条の反響を鑑みながら、次なる出店戦略を熟考中だ。

 朝食、そして今後への布石から、半世紀以上続く飲食業にルーツを持つホテルブランドならではの理念と生き残り戦術が見えてきた。後編では、「目指していない」のになぜか顧客満足度1位に選ばれるサービスから、リッチモンドの強さを分析する。

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最終更新:4/16(火) 9:41

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