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近鉄一の「ザ・ターミナル」大阪阿部野橋駅の実力 乗降人員最多は「あべのハルカス」の足元、狭軌の南大阪線の駅

4/4 4:32 配信

東洋経済オンライン

 近畿日本鉄道は営業キロ501.1kmと私鉄で日本一の長さの路線網を誇る。駅数は286駅で、こちらも日本の私鉄で一番多い。そのなかでもっとも利用客が多いのが大阪市阿倍野区に位置する南大阪線の大阪阿部野橋駅だ。

 JR・大阪メトロの天王寺駅との乗り換え需要を背景に、1日乗降人員(2022年11月8日調査)は14万475人を数える。伊勢志摩方面の豪華特急「しまかぜ」や名古屋と大阪を結ぶフラッグシップ特急「ひのとり」が発着する大阪線の鶴橋(13万5330人)、難波線の大阪難波(10万8368人)を上回る。

■通勤通学に加え観光利用も

 南大阪線は大阪阿部野橋と奈良県橿原市の橿原神宮前を結ぶ39.7kmの路線。レールの幅が1067mmの狭軌で、大阪線や名古屋線の標準軌(1435mm)とは異なる。途中、道明寺から道明寺線、古市から長野線、尺土から御所線が延びていて、通勤通学など生活路線の性格が強い。橿原神宮前には標準軌の橿原線も乗り入れる。

 大阪阿部野橋は橿原神宮前で吉野線に直通する有料特急や急行も走る。代表的な車両は特急「さくらライナー」や観光特急「青の交響曲(シンフォニー)」だ。吉野線は、古代の史跡が点在する明日香村の飛鳥駅などを経て、桜の名所として知られる吉野に至る。

 沿線には西国三十三所の札所でもある葛井寺、岡寺、南法華寺(壺阪寺)のほか、吉野神宮、金峯山寺などの寺社を多数抱える。吉野山の桜のシーズンには臨時の特急や快速急行が運行されており、大阪阿部野橋は吉野方面への観光の玄関口としての役割も大きい。

 大阪阿部野橋の駅名は、現在のJR線が通る堀切にかかる阿倍野橋に由来する。所在地は大阪市阿倍野区阿倍野筋で、「あべの」の漢字の表記は駅名と地名で異なっている。1923年に南大阪線の前身、大阪鉄道が開業した当初は「大阪天王寺」だったが、間もなく現在の駅名に改称した。

 近年、「あべの」の知名度を全国的に上げたのが超高層ビル「あべのハルカス」だ。「あべのハルカス近鉄本店」「大阪マリオット都ホテル」といった近鉄グループ運営の百貨店・ホテルが入る複合施設で高さは300m。東京に「麻布台ヒルズ森JPタワー」(330m)が誕生して日本一の座は譲ったが、大阪のランドマークとしての地位はゆるぎない。あべのハルカスは2024年3月に開業10周年を迎えた。

■「遅延や乗客のトラブルは少ない」

 大阪阿部野橋駅の新澤数巳駅長は「天王寺の地名が有名なので、いまでも『阿部野橋駅はどこ?』とここで聞かれることはあります」と明かす。新澤駅長は吉野線沿線の出身。高校時代は南大阪線に乗って映画や買い物に出かけていたという。1984年に入社して最初に配属された駅も大阪阿部野橋。車掌や運転士、駅の助役、列車区長として南大阪線系統の経験が豊富だ。ほかに西大寺の教習所で330人ほどの運転士の養成に携わった。

 新澤駅長は「乗降人員は近鉄で1番だが案外、遅延や乗客のトラブルは少ない」という。南大阪線は待避駅がいくつも設けられているほか、他線の遅れの影響も受けにくい。また、夜は郊外へ向かう利用が中心になるため早い時間帯に乗車する人が多い。谷口英志副駅長も「終着駅でよくあるように寝過ごして『何やここ、どこやねん』となってしまうケースはあまりない」と語る。

 大阪阿部野橋駅は6面5線の頭端式ホーム。いかにも私鉄のターミナルという雰囲気がある。1・2番のりばは主に普通列車が使用していて日中も10分間隔で発着する。

 準急も10分間隔、急行または区間急行は30分間隔で走る。3・4番のりばには同社線で初めてとなる昇降ロープ式ホームドアを設置した。

 6番のりばは特急専用。吉野方面への観光利用のほか、通勤・帰宅時間帯の着席需要も旺盛だ。2023年からは、さくらライナーで運んできた奈良県大淀町の「朝採れ野菜」を、百貨店で収穫当日に販売する貨客混載輸送を本格運用している。

■ずらりと並ぶ改札機

 地上のホームをそのまま西に進むと西改札口。反対側の東改札口は地下にある。どちらの改札も利用者の多さを反映して改札機が横一列にずらりと並ぶ。朝はJRや地下鉄との乗り換えに便利な東改札口の利用が比較的多いという。地下には中改札口もある。中改札口と西改札口は百貨店の入り口に面している。

 東改札口には鉄道向け自動改札システムがアメリカに本部を置く電気電子学会(IEEE)から歴史的業績を表彰する「IEEEマイルストーン」に認定されたことを示す銘板がある。

 2007年の受賞当時の発表資料によると、1964年に大阪大学と近鉄によって乗車券の通用区間判定のための計算方法を開発。翌年、近鉄とオムロンが自動改札機の試作機を製作、実証実験を実施した。その研究開発をオムロンと阪急電鉄が引き継ぎ、1967年に北千里駅で自動改札システムの営業運用を始めた。1971年には近鉄が大阪阿部野橋駅を含む19駅に磁気カード式自動改札機を設置、関西の私鉄・地下鉄で導入が広まったとしている。

 現在、天王寺・阿倍野エリアの中心になるのが白い屋根の歩道橋がぐるりと囲む「近鉄前」の交差点だ。南北方向の道路である谷町筋は、交差点から南であべの筋と名称を変える。地下には大阪メトロ谷町線、地上には阪堺電気軌道上町線の路面電車が走る。東西方向の道路はあびこ筋で地下に大阪メトロ御堂筋線が通っている。

 交差点南東の大阪阿部野橋駅から時計回りに見ていくと、南西には大型商業施設の「あべのキューズモール」。近鉄グループのきんえいが運営するアポロビル・ルシアスビルの4階には映画館の「あべのアポロシネマ」が入る。きんえいは1937年創業の「大鉄映画劇場」をルーツとする。アポロビル前には空港リムジンバスが発着する「あべの橋駅(天王寺駅)」のバス停があり、大阪(伊丹)空港と所要時間約30分で結んでいる。

 交差点の北西は大阪市立美術館や動物園がある天王寺公園。公園の入り口に位置する芝生広場「てんしば」は大阪市との協定により近鉄不動産が管理運営する。その奥に通天閣がそびえている。また、大坂冬の陣で徳川家康の本陣、夏の陣で真田信繁(幸村)の本陣となったことで有名な茶臼山は、大阪市内最大級の前方後円墳だ。

■「人が集まる地域に」

 そして近鉄前交差点の北東に位置するのがJRの天王寺駅。大阪阿部野橋駅から見ると、あびこ筋を北側に渡っただけだが、所在地は天王寺区に変わる。乗り入れ路線は関西本線(大和路線)・大阪環状線・阪和線。かつては南海電気鉄道の天王寺支線が天下茶屋と結んでいた。構内で営業中の「南海そば」の店舗がその名残という。

 天王寺には関西国際空港方面の特急「はるか」や和歌山方面の特急「くろしお」が発着する。大和路線の大和路快速と阪和線の関空・紀州路快速は、天王寺始発の普通列車として鶴橋、京橋、大阪と大阪環状線を左回りに1周してから奈良方面や関空・和歌山方面に向かうので、慣れない人はとまどうかもしれない。駅ビルの「天王寺ミオ」にはファッション・雑貨の店舗やレストランが多数入っている。

 大阪阿部野橋駅の新澤駅長は「昔はキタやミナミへ向かう乗換駅としての性格が強かったが、ハルカスなどの商業施設ができて人が集まる地域になった」と指摘する。ショッピングやレジャーのスポットがそろうエリアの玄関口として、同駅の役割も増していると言えそうだ。

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最終更新:4/4(木) 9:42

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