日経平均株価が今後も最高値を更新するための「2つの条件」とは何か

3/31 6:32 配信

東洋経済オンライン

 3月19日の日本銀行によるマイナス金利解除が、株価上昇を阻害することはなかった。一般論として「金利上昇→株価下落」という認識があるとはいえ、わずか0.1%ポイントの利上げでは誤差にすぎないということだろう。株式市場では、金利上昇に脆弱であるはずの不動産株やREIT(不動産投資信託)がむしろ買われるといった反応が見られた。

 もっとも、日銀の金融政策決定会合を通過して、筆者は日本の政策金利見通しを上方修正することを検討している。以前から筆者は「マイナス金利解除をもって金融引き締め方向への政策修正を終了する」との予想を示してきたが、今や追加利上げが現実味を帯びていることは明白だ。その背景として最も衝撃的だったのは、金融政策決定会合の数日前に発表された、驚くほど強い春闘賃上げ率である。

■「想定超の賃上げ」で日銀の金融政策はどうなるのか

 ここで、あらためて春闘の数値を整理してみよう。メディアなどで取り上げられている賃上げ率(3月22日に連合が公表した2次集計値。1次集計値は3月15日に発表)は5.25%と、2023年春闘の3.58%をはるかに上回る数値であった。これはエコノミスト予想も大幅に超過しており、日銀にとっても驚きであったと推察される。

 日本経済研究センターが集計したエコノミスト予想(2月調査、調査期間は1月30日~2月6日)によれば、春闘賃上げ率は3.88%、そのうち「定期昇給分」が1.66%、「ベア」(=ベースアップを縮めた言葉≒純粋な賃上げ率)相当部分が2.22%であったから、かなりの上振れである。

 ここで1つ注意することは、この5.25%という数値には上記のように、定期昇給分とベアの双方が含まれているということだ。前者の定期昇給分は勤続年数などに応じて賃金が上昇する部分が含まれており、これは純粋な賃上げではない。では、それを除いた後者のベア(純粋な賃上げ率)ではどれくらいかというと、3.64%(賃上げ分が明確にわかる組合の集計)であった。

 2023年春闘ではベアが2.1%程度であったことを踏まえると、2024年は飛躍的な伸びであり、多くのエコノミスト(おそらく日銀も)が夢のような数値であると認識していた、3%超の賃上げ率が示された形だ。仮に3.6%の賃上げが日本全体で実現した場合、日銀は今後、かなり高い確率で政策金利を連続的に引き上げる公算が大きい。

 しかしながら、春闘賃上げ率はあくまで個別の労働組合と会社の賃金交渉であることをあらためて認識する必要がある。というのも、労働組合のない小さな企業や新興企業ではそもそも春闘がないため、春闘の結果が必ずしも日本全体の賃金動向を映じているとはいえない側面がある。換言すれば、春闘の結果は一部の業績が好調な大企業の賃上げによって全体の強さが誇張されている可能性があるということだ。

 では、日本全体の賃金動向を把握するためには、どの経済指標が重要になるかといえば、それは厚生労働省が発表する毎月勤労統計である。これは日本で最も代表的な1人当たりの賃金を捕捉する指標で、基調的な賃金上昇率を把握する際に最も重視されている。

 ここで、毎月勤労統計の数値を確認すると、2023年度入り後は基本給に相当する概念である所定内給与の伸びが1%台後半~2%付近で推移している。約30年ぶりの伸び率とはいえ、2023年春闘賃上げ率(ベア相当部分の2.1%)よりもやや低い数値となっている。

■なぜ日銀は緩和的な金融政策を続けると言えるのか

 また、残業代や賞与・一時金を含めた現金給与総額で見ると、2023年度入り後の平均値は1%台前半と加速感に乏しいが続いている。ここからは(1)労働組合のない中小企業の賃上げは控えめである、(2)春闘で高い賃上げを約束した企業も、実際は総人件費を抑制するために残業代や賞与・一時金を減らした可能性が浮かび上がる。

 理由はともかく、実際の給与は春闘の賃上げ率ほど上昇していない可能性が高い。したがって、2024年度入り後の(毎月勤労統計で示される)賃上げ率は春闘の結果ほど強くならないと想定され、日銀の利上げは控えめになると考えられる。

 これらを踏まえ、筆者は日銀が10月に政策金利(無担保コール翌日物)を0.25%に引き上げるのではないかと予想している。この見方が正しければ、株式市場では日銀の緩和的な金融政策は続くとの安心感が広がるだろう。今後の日経平均株価の中心的なレンジは3万8000~4万1000円になるのではないか。

 今後、株価がこの予想よりも上振れるとしたら、どんな要因があるだろうか。現時点で金融市場が織り込んでいなそうなものといえば、以下の2つがある。

 まずはFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の利下げである。インフレ率が緩慢ながらも低下基調にある現状、「年内利下げ開始」という緩い条件ならば、かなりの確度で織り込まれている。だが、次回(4月30日~5月1日)後の「6月(11~12日)実施」となると、市場参加者は半信半疑である。

 その点、ジェローム・パウエル議長が「1月のインフレ指標はかなり高かったが、季節的な影響があったと考えられる」「1月と2月分のインフレ指標を併せて考えても(インフレ率が低下していくという)全体像は変わらない」(括弧内は筆者)として、足元のインフレ再加速の兆候を大きく取り扱わない姿勢を示したことは、重要な意味を持つかもしれない。

■アメリカの利下げと日本企業の変革が今後のカギ

 このパウエル議長の発言には、インフレ率が2%付近まで低下していくことを最後まで見届ける必要はない、という含意があるように思える。そうであれば、6月に利下げ開始があってもさほど不思議ではない。仮に6月以降、四半期に一度のペースで利下げが進むことになれば、アメリカでは金利低下と株高の展開が想起される。

 その場合の日本株はどうか。円安は一服するものの、世界的な株高の中でやはり上値を追う展開になるのではないか。

 ここでのもう1つのポイントは日本企業の変革だろう。2023年の本決算発表時に、企業が東京証券取引所の資本効率改善要請に応える形で株主還元策を強化したのは記憶に新しいところだが、中にはじっくり対応を協議していた企業も多いと考えられ、企業が2024年の本決算発表時に大規模な株主還元策(自己株買い・増配)を実施する可能性もある。

 もちろん、手元流動性が潤沢だからといって、その資金を自己株買いに回す対応策をめぐっては「その場しのぎ」との批判もある。だが、それでも株主から見れば、資本をため込むよりもはるかによい動きと言えるだろう。

 今年も資本効率改善策が、投資家を満足させる可能性は相応に高いとみている。もっとも、これらが「逆」に出れば、株価は3万8000円を下抜ける可能性がある。FRBの利下げが遅れたり、日本企業の変革が停滞したりすれば、投資家の失望を誘うおそれがある。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

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最終更新:3/31(日) 6:32

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