振り払えぬ「不安」の霧、中国経済は「底なし沼」にはまってしまったのか《楽待新聞》

4/12 19:00 配信

不動産投資の楽待

中国経済の不調が続いている。

ゼロコロナ政策後の経済回復が思わしくない―と騒がれたのは2023年の春だが、2021年の秋には不動産危機が表面化し、黄信号が灯っていた。つまり、かれこれ2年半以上も「中国経済、異常あり」が話題となり続けているのだ。しかし、いまだにトレンド反転のめどはたっていない。

■不景気の気配、街に見当たらず

低迷が続いている中国経済だが、数値上は潰滅的なまでに悪化している、というわけではない。2023年の経済成長率は前年比で5.2%と、政府目標である5%前後はクリアしている。

2022年は新型コロナウイルスの流行により、ロックダウン連発で経済は停滞した。その反動で大きく伸びるとの期待が空振りに終わった、というのが実態に近い表現ではないか。

ところでこの1年、何度か中国を訪問しているが、街中を歩いている限り、さほど不景気を感じることはない。

知人の編集者からは「仕事を失って手持ちぶさたになった若者たちが、街中をたむろしている写真とか撮ってこられないですか」と頼まれたのだが、少なくとも大都市ではそうした光景を見ることはなかった。

どちらかというと、レストランが満席で入れないとか、繁華街の人だかりで往生したとか、不景気とはほど遠いエピソードのほうが多い。日本を訪れる外国人観光客も、中国人がかなり増えつつある。先日、東京・銀座を歩いていると、バスで乗り付ける中国人団体旅行客の姿を見かけた。

そうした光景を見ると、中国経済の不調は過大に騒がれすぎなのではないかと頭によぎるが、「いやいや、バカなことを言うな。中国経済は厳しい、大変だ。不況は長く続く」と、中国の知人から説教された。それも1人や2人ではない。多くの中国人が口をそろえて、今回の危機は深刻だと考えている。

この強い不安、悲観が中国経済をさらに悪化させる要因になるのではないか。

■「3000兆円の銀行預金」が示すもの

今、中国人の銀行預金が猛烈に増えている。

中央銀行の統計によると、2024年2月時点で142兆7000億元、約3000兆円である。コロナ前の2019年2月には77兆6000億元だったので、銀行預金はこの4年で2倍近くにまで増えたことになる。

不景気でお金がなくて困っているどころか、預金が増えまくっているなら安心……という話になればいいのだが、そうではない。めぼしい投資先がないため仕方なく、というのが正しい理解だろう。

最大の問題は「不動産」だ。不動産は中国の人々にとって住居であると同時に、確実安全な投資先でもあった。だが、不動産はいまだに下落トレンドが続いており、手を出すタイミングではない。

そもそも1990年代末の不動産取引自由化以来、上げ相場が続いてきたから頼れる投資先だったのであり、市況が底を打ったとしても安全資産としての神話はもう戻ってこないだろう。

株など他の投資先も不安だ。規制により、一般市民には海外投資は難しい。黄金を買ってみたり、規制をかいくぐって海外の不動産や株、暗号資産を購入したりという動きはあるものの、投資先を見つけられないケースも多い。

物価上昇率が高い時には投資しなければ資産価値が目減りするというあせりがあるが、足元のCPI(消費者物価指数)は低いのでその不安もない。その結果が、銀行預金の増加という形となった。

余剰資金の用途について聞いた中国中央銀行のアンケート調査によると、「より多く貯蓄する」との回答は61%、「消費」が23%、そして「投資」はわずか15.6%にとどまった。投資意欲は減少トレンドを示している。

家計のマネーが消費や投資に向かわなければ、経済成長につながらない。防衛意識を高めた家計のマインドを変える必要がある。

■根深い不動産の問題

そのためにも、最大の投資先である不動産の状況をいち早く改善しなければならないのだが、短期的な改善は難しそうだ。

先日、中国不動産大手・恒大集団が2019年、2020年の決算を粉飾していたことが明らかとなった。

発表を見て、改めて同社の業績を過去にさかのぼって調べたところ、2019年から売上が急落していた。これまでは2020年夏の不動産規制によって経営がおかしくなったと言われていたが、実はその前から異常事態が起きていたのである。

中国、特に地方都市の不動産ビジネスは2015年から一気に拡大した。旧市街地の再開発が急ピッチで進められた結果、立ち退き補償金をもらった人々による、別の場所での住宅購入が増えたためである。

ところが旧市街地の開発は2018年以降に急減速する。地方政府がこの政策を悪用して乱開発を進め、債務を増やしていたため、中央政府が警戒したとされる。

中国地方政府の官僚は経済成長という“業績”をあげて出世を目指すという強いモチベーションを持っているが、それが浪費的な財政につながらないように中央政府は強く警戒している。そのため、地方政府はさまざまな裏口を使って経済成長の元手となる資金を確保しようとしてきた。

よく知られているのが「地方融資平台」と呼ばれる、第三セクターに債権を発行させるが、その際に返済は地方政府が保証するという暗黙の約束をすることで、実質的な地方債を発行するという方式である。旧市街地改造も中央からにらまれない、金融機関から金を借りて開発する立派な口実として利用されたとみられる。

当時から旧市街地再開発の減速が不動産デベロッパーに与える影響は懸念されていたものの、その不安を吹き飛ばすような好決算が続いていた。だが、少なくとも恒大集団の好決算は粉飾によって作り上げたものであることが明らかとなった。

他の不動産デベロッパーも同様に粉飾していたかは断言できないが、地方都市では2018年時点で売り上げ不振が始まり、それにもかかわらず売れない不動産を作り続けていた可能性が高い。その負の蓄積は大きく、1~2年で解決できるようなものではない。

こうした不動産産業の不振や新型コロナウイルスの流行に伴う民間企業の経営悪化によって、雇用が不安定化している。

特に若者の就職難は深刻だ。2023年6月時点で若年層(16~24歳)の失業率は20%を超えていた。その後、「郎党力調査統計のさらなる改善と最適化」を理由に、世代別失業率は7~11月にかけて公表されず、12月になって再開された。

学生を失業者としてカウントしないなど算出方法が改訂されたため、以前よりも失業率は低くでるようになったはずだが、それでも14.9%とかなりの高水準にある。全体では5%あたりで安定しているのだが、若者の雇用は不安定だ。

■「シャーハイ」から「シャンアン」へ

一度就職してしまえば安心というわけでもない。中国では俗に「35歳危機」と言われるが、この年齢を超えるとリストラの対象となる確率が上がり、しかも再就職も難しくなると言われている。

中国では若さと勢いで難題を乗り越えていくことを良しとする文化が根づいてしまったためだ。

それでも景気が良い時は他の仕事を見つけることもできたが、若さばかりを重視してきた歪な企業人事が、社会問題として浮上してくる。

苦労して民間企業に就職しても、ちょっと年を取ればリストラされて放り出されるかもしれない。

だったら民間企業より給料は少ないが定年まで食いっぱぐれることがない公務員になろう……という発想で、この数年、公務員試験の受験者数が爆発的に増加している。

2023年の国家公務員受験者は303万人。2021年に200万人突破が話題になっていたのに、それから2年でさらに100万人も増加した。

公務員試験浪人が増えているのが最大の要因だろう。試験に落ちてもあきらめきれず、親と同居しながら予備校通いを続ける人、会社で働きながらも公務員試験の勉強を続けている人が多数いる。

公務員や国有企業職員の身分を捨てて起業することを中国語で「下海」(シャーハイ)という。

1980年代から90年代にかけては一大ブームとなったのだが、今では「下海」なんてとんでもない、どうにかして公務員になる「上岸」(シャンアン)がブームとなっている。

リスクをとってでも市場経済でチャレンジしてやろう、という活気が中国経済の魅力だったのだが、完全に逆転してしまった。

■マネーは国に持ち帰らない、中国企業の選択

このように中国の家計は強烈な「不安」によって、投資や消費に対する積極性を失ってしまった。経済統計では家計、企業、政府が経済主体として分類されるが、企業も今、積極性を失っている。

2023年の固定資産投資は2.8%増だったが、民間企業に限定すると0.4%減とマイナストレンドに落ち込んでいる。

中国民間企業だが、共同富裕やIT企業規制といった政府の強い介入によって、株価の下落やビジネスの萎縮が起きた。さらに新型コロナウイルスの流行による経済への打撃、前述したような不動産不況が積み重なるなか、中国経済の先行きへの危機感を高めている。

どれだけクレイジーに投資のアクセルを踏めるかを競いあう、チキンレース的な世界だった中国民間企業の世界。それが、成長よりはまずは企業の存続、という防衛意識が優先される世界に変わってしまったのだ。

中国経済の不振を示す数字として注目されたのが、2023年の国際収支統計(ある国の対外経済取引を記録した統計)だ。

これによれば、外資企業による中国への直接投資は、前年比81.7%減の330億ドルに急減していた。

これは、各国企業の対中国投資が減少したためではないかと報じられていたが、それだけでは十分な説明とは言えない。

実はこの数字には、中国企業の海外子会社からの資金移動、米国など海外株式市場での資金調達も含まれている。つまり、中国企業が海外での利益や調達した資金を中国国内に還流させていないことが、直接投資が減少した大きな要因なのである。

中国企業も、今はマネーを中国国内に置いておくべきではない、と判断しているわけだ。

■「中国企業」であることが重石に

さらに、かつては多くの中国ベンチャー企業は米国でのIPOを目指していたが、それも難しくなってしまった。米国の対中姿勢が厳しくなっただけではなく、中国政府も海外でのIPOを厳しく審査するようになったためだ。

「中国企業」というレッテルは、今や世界でビジネスを展開するには大きな重石だ。

もし世界でのビジネスを目指すのであれば、中国市場ではないほうがいい。わかりやすい事例は、動画アプリの「TikTok」だ。米下院で禁止法案が可決されるなど、厳しい逆風にさらされているTikTokだが、もし米企業という立て付けにしていればこんな問題は起きなかっただろう。

好対照なのがビデオ会議サービスの「ZOOM」だ。元中国人が創業し、中国の開発拠点を中心に作られているソフトウェアだが、米中対立の余波をさほど受けることなくビジネスを続けている。

目端の利く中国人起業家ならば、今有望なビジネスを立ち上げるのならば、中国企業としては設立しないだろう。これもまた、中国の停滞感を招いている。



ここまでの話をまとめよう。

主要統計を見る限り、中国経済は良くはないが、そこまで悪いわけではない。

しかし、中国人や中国企業の悲観は統計以上に強く、すでに投資意欲は大きく減退している。このネガティブな悲観、将来予測が経済に悪影響を与え、悪化した経済がさらなる悲観論を招く……。こうした負の循環ができあがってしまうと、中国経済は泥沼に沈むことになる。

その悪夢を止めることはできるのだろうか。

高口康太/楽待新聞編集部

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最終更新:4/12(金) 19:00

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