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今年度は期間・エリアを拡大 採算確保の取り組みも 大阪・泉北ニュータウンの「AIオンデマンドバス」実証事業

10/19 11:31 配信

THE PAGE

 大阪府堺市の泉北ニュータウンで10月1日から、予約を受けてAIで効率配車を行う「AIオンデマンドバス」の実証事業が始まりました。昨年度に続いて2回目となる今年度は運賃の妥当性などを検証する他、採算面などの課題解決につながる取り組みを進めて本格運行の実現をめざします。

移動しやすさの向上を目指して

 起伏のある地形に立地する泉北ニュータウンでは近年、人口減少と高齢化が進んでいます。高齢者を含む住民の移動を支援する新しい交通サービスの創出を目指して、23年1月10日から約2か月間、22年度の「AIオンデマンドバス」実証事業が行われました。

 今年度の実証事業は、23年10月1日から24年1月31日までの約4か月間実施の予定。停留所は前回の29か所から、要望の高かった泉北2号線沿いの商業施設付近を含む50か所に増やしました。運賃について、前回は原則200円で泉北高速鉄道の泉ケ丘駅発着時のみ300円としていましたが、今回は運行エリアの拡大にともない一律300円としています。

 AIオンデマンドバスのシステムは、前回採用した自動車部品メーカーのアイシンが提供する「チョイソコ」から、JCOMのシステムに変更しました。同社は、社内営業員向けライドシェアサービス「J:COM MaaS」を堺市を含む全国21拠点で展開中。同サービスで蓄積したデータや運用ノウハウを、当事業に活用します。システム変更の理由について、実証事業に取り組む南海電気鉄道まち共創本部の今中未余子課長は「『チョイソコ』の満足度は非常に高く、あえて変える必然性はなかったのですが、泉北ニュータウンという土地柄に適したシステムも見ていきたい、ということもあって変更しました」と語ります。

 10月1日の運行初日セレモニーで、堺市の加勢英哉・泉北ニューデザイン推進監は「AIオンデマンドバスは、移動支援という大きな課題の解決に必ずや寄与するものと確信しています」と期待を込めてあいさつ。南海電鉄の二栢(にかや)義典・常務執行役員は、「路線バスにとって、AIオンデマンドバスはライバルでもある」と悩ましさを口にしつつも、「それでも、新しい交通サービスの提供が泉北ニュータウンの発展には必要と確信しております」と実証事業への意欲を示しました。

採算性と認知度向上が課題

 実証事業から本格運行への移行を目指す上での大きな課題は、採算をどう確保するか。前回の利用者数は合計861人、1日平均で14.4人でした。これで採算が取れていたのかどうか、南海電鉄の今中課長に尋ねると「全然取れていません。今回は6千名の利用が目標ですが、この人数に300円を掛けても180万円、運賃だけのスキームでは破綻するのが見えています」と率直に語ります。

 自治体のコミュニティーバスでは、赤字分を自治体が補うケースもありますが、堺市の石﨑典和・スマートシティ担当課長は「社会実装(本格運行)の際に補助金を、という話は今の段階ではしていません」と答えました。補助金がなくなると交通サービスもなくなりかねない、という持続性への懸念が背景にあるようです。

 南海電鉄の今中課長は「社会実装すればいきなり広告費が入るほど甘い世界ではないと思っています。今回はスーパーや薬局といった地域の事業者の方々に、この事業に目を向けていただけるような取り組みを進めて、社会実装時にご協賛いただけるようにしていきたい」と話します。

 AIオンデマンドバスの認知度をどう高めるかも課題の1つです。堺市の石﨑担当課長は「前回は、AIオンデマンドバスを知らなかったとの意見も多かった」と振り返ります。南海電鉄の今中課長は「JCOMは自社のメディアの番組を配信しており、(配車アプリがインストールされた)スマホの操作に慣れていない人にもリーチできる強みがあります。広報面で足りない部分を補ってもらえれば」と期待。本格運行に向けては「いつまでも実証事業を続けられないので、ここ2~3年の間には何とか目鼻をつけたい」と語りました。

 AIオンデマンドバスの運行赤字を、乗降場所の有償設置や乗降場所のネーミングライツ販売などの関連サービスで補う試みは、大阪市内でAIオンデマンドバスの社会実験を実施している大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)も行っています。自治体の補助に頼らずにAIオンデマンドバス事業を行う場合は、赤字が見込まれる場合にどういう手段でどう補うかが1つの課題になりそうです。こうした課題を克服して、泉北ニュータウンでAIオンデマンドバスが持続的な交通サービスになれるかどうか今後も注目したいと思います。
(取材・文:具志堅浩二)

THE PAGE

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最終更新:10/19(木) 11:31

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