《那須焼損2遺体事件》「4人の逮捕はトカゲのしっぽ切り」本当の“黒幕の正体”とは

5/2 7:31 配信

ダイヤモンド・オンライン

 那須町で起きた衝撃の事件。宝島龍太郎さんと妻の幸子さんを殺害し、遺体を河原で焼損させるなど、犯行を隠す様子が感じられない不可解な犯行が耳目を集めている。5月1日時点で容疑者4人が逮捕され、徐々に捜査が進展しているものの、未だ全容の解明には至っていない。この記事では、元公安警察の松丸俊彦さんが経験と取材に基づいて、この事件の全容に迫る。犯行の背後には何があるのか。事件について不可解な点と組織的な関与の可能性について考察した。(構成/ダイヤモンド・ライフ編集部)

● 事件についてわかっていること

 宝島龍太郎さんと妻の幸子さんが殺害された後、遺体が那須町の河原でガソリンをかけられて燃やされたという事件です。

 遺体損壊の容疑で逮捕された平山綾拳容疑者は、「アニキから頼まれた」と供述していることから、平山容疑者に犯行を指示した者が別にいる可能性があると見て警察も捜査しています。

 今回は、元公安警察の立場から、過去の経験と取材に基づいて、今回の事件について不審に思う点を解説していきます。

 4月29日には、指示役の佐々木光容疑者が逮捕され、5月1日未明に実行役2名が逮捕されるなど、事件の全容解明に向けて捜査が徐々に進んでいるところです。

 宝島龍太郎さんは上野・御徒町エリアで14店舗の飲食店を経営しており、近隣店舗とのトラブルが続いたと言います(4月22日 FNNプライムオンライン)。現役の警察官に聞き取りをしたところ、宝島龍太郎さんと近隣店舗の客引きをめぐるトラブルは何度も110番通報が入っていたようで、報道の内容を裏付ける証言を得ました。また、警察関係者の間でも今回の事件の特異性を指摘する声が多数挙がっています。

 まずは、元公安警察の立場から、那須町で起きた遺体焼損事件における不可解な点について解説します。

● 今回の遺体の処理方法が不自然

 この事件には特異な点が2つあります。1つ目は、遺体を河原で燃やしたことです。

 通常、人里離れたところに遺体を隠す場合、「土に埋める」か「水に沈める」という手段が使われることが多いです。意図的に掘り起こしたり、地表の土砂が運搬されたり、すくい上げたりしない限り、見つかる可能性が低いからです。

 しかし、今回はわざわざガソリンをかけて燃やしています。燃やすことで、臭いや煙が発生しますから、非常に目立ちます。犯行を隠したい人間の行動とは思えません。

 したがって、今回の事件は何者かが「見せしめ」のために行ったと考えるのが道理にかなっていると考えます。また、「見せしめ」として殺人を行うのは、組織がメンツを保つためと考えるのが自然です。このケースも個人的な怨恨で殺害したというよりは、何らかの組織が殺害に関与していると考えられます。

 加えて、遺体を焼損させる犯行は日本ではあまり起こりません。暴力団をはじめとする日本の犯罪組織は、もっと見つかりづらい方法で遺体を処理しようとします。したがって、今回の事件を主導した人物は、海外勢力の可能性があるのではないかと考えています。

 特にアジア系の犯罪グループの関与も疑われています。「遺体はいずれも手を結束バンドで縛られ、顔に粘着テープが巻かれていた」(4月16日 読売新聞)という手法は、アジア系の犯罪グループもよく使う手段だからです。一部報道でも流れているように、近隣店舗との口論の様子として宝島さんが中国語で口論をする動画がありました。

 河原で遺体を焼損させたという事実から、暴力団のような日本の犯罪組織ではない組織やグループが大元にいる可能性が高いと考えます。誰かに向けて、「組織に不都合なことがすればこうなるぞ」という脅迫のメッセージを発したのではないかということです。そして、犯行手口やトラブル内容からアジア系の犯罪組織の関与も考慮して捜査を進めるべきと考えます。

● 供述の「アニキ」から推察される犯罪の全容

 2つ目の特異な点は、「アニキ」の存在です。

 遺体損壊の容疑で逮捕された平山綾拳容疑者は、「名前は言えないが、アニキに頼まれ車や凶器を準備しただけ」(4月23日 FNNプライムオンライン)と供述している点もさまざまな憶測を読んでいます。

 「アニキから頼まれただけ」という趣旨の供述をするということは、主犯は自分ではなく他にいることを示唆する発言です。

 通常、組織的な犯罪で末端の構成員が主犯の身代わりとなって出頭する際に、「自分がやった」と主張するものです。

 しかし、今回のケースでは、取り調べの早い段階から「アニキの指示」について供述しています。もし、暴力団やマフィアのような犯罪組織に所属している者ならば、出所後の報復が恐ろしくて「アニキ」の存在を匂わせることすらできないはずです。

 つまり、アニキに言及している時点で、組織の掟のようなものが通用していないことがわかります。私は平山容疑者は組織の人間ではない可能性が高いと見ています。

 末端の人間が指示は受けているけれども、組織に所属しているわけではないということは、匿名・流動型犯罪グループ、通称トクリュウが絡んでいる可能性も想定しなければなりません。平山容疑者は、いわゆる「闇バイト」の募集を通じて遺体の処理を引き受けたかもしれないということです。

 前述の通り、遺体を焼損させる行為は目立つので、それを実行した人間はほぼ確実に捕まります。「トカゲの尻尾切り」に使うなら組織の人間ではなく、闇バイトで募集すればいいということでしょう。闇バイトに応募してきた者であれば、組織まで辿りづらくすることができます。

 闇バイトで集められる人は、おそらく大元の依頼主である組織や人の名前を知らせずに動員することができます。中途半端に知り合いや子分などを動員してしまうと、警察の厳しい追及で口を割ってしまう恐れがありますから、匿名性の高い闇バイトを使うほうがむしろリスクが少ないと言うことができます。

 「そこまでリスクが高い依頼を引き受ける人間などいるのか」と疑問に思われる方もいるかもしれません。しかし、トクリュウの象徴的な「ルフィ事件」でも、実行役は逮捕されるリスクを追ってでも強盗の依頼を引き受け、殺人まで犯していました。

 こうした過去の事例を考慮しても、逮捕されるリスクが極めて高い依頼でも人が集まってしまうことが証明されているのです。今回の平山容疑者が、同じような思考を持っていても不思議ではありません。

● 中国マフィアの行動論理

 断定はできませんが、アジア系の犯罪グループが関与している可能性を指摘しました。では、彼らはどのような論理で行動しているのでしょうか。一般の方もいつどこで、彼らとのトラブルに巻き込まれるかわかりませんから、知っておいて損はないでしょう。

 日本にいるアジア系の犯罪組織の中でも、中国マフィアは基本的には周囲と共存しようとし、争いを避けようとする傾向があります。ただし、彼らのビジネスを邪魔されない限りにおいては、という条件付きです。妨害されていると判断すれば、相手が暴力団であろうと容赦なく襲撃します。

 2002年に歌舞伎町の喫茶店で住吉会系の幹部が中国マフィアのメンバーに拳銃で襲撃された「パリジェンヌ事件」、2014年に赤羽で起きた山口組系組員と中国マフィアのメンバーの乱闘事件など、多くの抗争が発生しています。

 中国マフィアの「しのぎ」は密航ビジネスです。最近では、詐欺などにも手を染めているようですが、元々は中国から日本に人を連れてきて、住む場所や仕事を斡旋することで資金を稼いでいます。

 中華系飲食店は、それ自体がしのぎになっているだけではなく、密航者をかくまうために重要な役割を果たす場所としても機能しています。密航者は就労ビザが取れませんから、日本企業で働く場所を探すことはほぼ不可能です。同胞が経営している中華系飲食店の厨房などは、受け入れ態勢も整っていますし、何より職質の手も及びませんから、比較的安全と言えます。

 もし、飲食店の営業を妨害されて経営が立ち行かなくなれば、飲食店からの密航ビジネスに影響することになります。こうなると、中国マフィアのビジネスを妨害することになりますから、彼らも容赦なく抵抗してくることが想定されます。

 すべての中華系飲食店がマフィアに加担しているという差別や偏見に繋げることはあってはなならないことは言うまでもありません。

 事件は、実行役に車を提供した平山容疑者と指示役の佐々木容疑者の2人が逮捕されたところです。今後は、実行役の逮捕、そして事件の背後に組織的関与がないのかについて真相が究明されることが急がれます。

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最終更新:5/9(木) 21:02

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