ジープの代名詞「ラングラー」新型発売。予想外のプライスダウンはZ世代へのアピールとシェア拡大が狙い

5/22 9:51 配信

東洋経済オンライン

 80年以上の歴史を誇るアメリカの自動車ブランドがジープ(JEEP)。そのアイコンともいえる本格オフロードSUV「ラングラー(Wrangler)」に、フェイスデザインなどを刷新した新型モデルが国内導入され、2024年5月10日より発売を開始した。

■Z世代を強く意識した新型ラングラーのアンヴェール

 アウトドア・ブームやSUV人気などの後押しもあり、近年、日本でも徐々に存在感を増している輸入SUVがラングラー。その新型では、独自のフロントグリル「7スロットグリル」のデザインを変更したほか、ホイールやアンテナ位置の変更などで、よりスタイリッシュなフォルムとなっていることが特徴だ。

 また、国内ラインナップにエントリーグレードの「アンリミテッド スポーツ(Unlimited Sport)」を追加。従来の「アンリミテッド サハラ(Unlimited Sahara)」や「アンリミテッド ルビコン(Unlimited Rubicon)」も価格を下げるなど、増加傾向にあるZ世代などの若いユーザー層への訴求も狙うという。

 そんな新型ラングラーを、国内の輸入販売元であるステランティス ジャパンが開催したプレス向け発表会で取材。主な特徴や変更点などを紹介しよう。

【写真】ジープ新型「ラングラー」の内外装をチェック。限定10台「アンリミテッド ルビコン ハイ ベロシティ」、限定300台「アンリミテッド サハラ ローンチエディション」の特別限定車など(60枚以上)

 ラングラーは、1941年に生まれたアメリカ陸軍向け4輪駆動車「ウィリスMB(Willys MB)」のスタイルを継承する本格オフロードSUVだ。

 初代モデルのYJ型は、1987年に登場。軍用だったウィリスMBを、一般ユーザー向けに改造した「CJ」シリーズの後継車として開発されたモデルだ。角度を付けたグリルや角形ヘッドライトなどの無骨な外観と、上質な室内デザインなどの採用で、当時としては非常にモダンな4輪駆動車として大ヒット。現在も続くシリーズの礎(いしずえ)となった。

■都会的なスタイルとなった先代モデル

 2018年には、4代目となる先代モデルのJL型が登場。11年ぶりとなるフルモデルチェンジを受けたこのモデルは、ウィリスMBから脈々と続くフロントグリルのデザイン、独自の7スロットグリルを継承。長年続く伝統を守りつつも、より洗練された外観スタイルに変更したほか、インテリアのクオリティなども向上。ラングラー史上最強といわれるオフロード走破性を持ちつつも、都会にもマッチするスタイリッシュさも両立した。前述のとおり、近年の日本でも、アウトドアなどの郊外だけでなく、街中でも見かける頻度が増えるなどで、徐々に存在感を増している輸入SUVの1台となっている。

 ちなみに昭和の日本では、オープンタイプの4輪駆動車のことを、すべて「ジープ」と呼んだ時代もあった。幼いときに耳にしたのか、1960年代生まれの筆者も、うっすらと記憶がある。その背景には、1952年に当時の新三菱重工業(現在の三菱重工業)がアメリカ・ウィリス社と契約し、ジープのノックダウン生産を開始。ラングラーの元祖といえるCJ3B型をベースとした国産ジープ(CJ3B-J3型)が、国内を走っていたことも大きい。ラングラーのワイルドなスタイルが、昔を知る日本人にとって、どこか懐かしさなどを感じることも、このモデルが根強い支持を受けている証しではないだろうか。

 そんなラングラーの新型は、先代と同じパワートレインや車体を採用し、3BA-JL20Lという型式も同様。つまり、外観デザインなど、細部を改良したマイナーチェンジモデルという位置付けだ。

 6年ぶりに変更を受けた新型モデルでは、ラインナップに、従来も設定のあったスタンダード仕様のアンリミテッド サハラと、オフロードでの走破性を高めた上級グレードのアンリミテッド ルビコンを継続設定。加えて、エントリーグレードのアンリミテッド スポーツを追加し、全3タイプを用意する。

 いずれも4ドア+リアゲートのロングボディタイプで、エンジンに最高出力272PS、最大トルク40.8kgf-mを発揮する2.0L・4気筒ターボを搭載。電子制御式8速AT(オートマチック・トランスミッション)や、駆動方式に後2輪と4輪の駆動を選択可能なオンデマンド方式4輪駆動を採用する点も変更はない。ちなみに本家のアメリカには、2ドア+リアゲートのショートボディ仕様や、3.6L・V型6気筒エンジン車、6.4L・V型8気筒エンジン車もあるが、日本には設定がない。

■新型ラングラーの変更点

 新型ラングラーの主な特徴は、まず、全体のフォルムは先代モデルのイメージを継承しつつ、フロントフェイスを変更。縦に7つの穴があいた独自の7スロットグリルを小型化し、より洗練された印象のデザインとなった。各穴の縁部分となるグリルサラウンドのカラーには、アンリミテッド スポーツとアンリミテッド ルビコンにニュートラルグレーメタリックを配色し、アグレッシブな雰囲気を演出。アンリミテッド サハラにはプラチナシルバーを採用することで、高級感を醸し出す。

 また、従来は運転席側ドアの前方ボディ部にあったポール状のマストアンテナを廃し、フロントウインドウの上部へ統合。外観をよりすっきりとさせるとともに、オフロード走行時に、アンテナに小枝などが引っかかることを防ぐ効果も生み出している。なお、従来のアンテナ位置には「トレイル レイテッド(Trail Rated)バッジ」を装着。これは、世界最高峰の4WD性能を開発するために、同ブランドが定めた独自規格を持つ証しだ。世界一過酷と呼ばれる性能試験にパスしたモデルだけに与えられる称号で、卓越したオフロード走破性をもつことを意味するという。

 装着するタイヤやホイールにも、各グレードの個性が表れている。アンリミテッド スポーツでは、グレーアクセント入りの17インチ・アルミホイールに、舗装路と悪路の両方に対応するオールテレインタイヤを採用。アンリミテッド サハラでは、18インチ・アルミホイールにオールシーズンタイヤを装着し、オンロードでの快適性にも配慮する。そして、最もオフロード性能を高めたアンリミテッド ルビコンには、専用の17インチ・アルミホイールにマッド&テレインタイヤを装備。このタイヤは、大型のブロックパターンを採用することで、悪路での高い走破性を実現するタイプだ。しかも、足元によりワイルドな印象を与えることで、さらにアウトドアのテイストを加味することができることも魅力といえる。

 ちなみにアンリミテッド ルビコンでは、後輪の駆動軸に新しく「フル・フロート・リアアクスル」も採用。セミフロート構造を採用する従来の機構と比べ、より強固で堅牢な構造を実現。トレーラーなどを牽引する際の最大牽引能力も向上している。

■ボディサイズや車重について

 新型モデルでは、ボディサイズも若干ながら変更している。アンリミテッド スポーツとアンリミテッド サハラが全長4870mm×全幅1895mm×全高1845mm、ホイールベース3010mm。アンリミテッド ルビコンは、全長やホイールベースはほかのグレードと同じだが全幅は1930mm、全高は1855mm。アンリミテッド ルビコンのみ、全幅が先代モデル比で35mmワイド化されており、そのぶん、より迫力あるフォルムを生み出しているといえるだろう。

 なお、車両総重量は、アンリミテッド スポーツで2265kg、アンリミテッド サハラは2275kg、アンリミテッド ルビコンが2385kg。先代モデルでは、アンリミテッド サハラ2235kg、アンリミテッド ルビコン2305kgだから、いずれも先代比でやや重い車体となっている。そのぶん、燃費性能も少し落ちているようで、WLTCモード値で先代モデルは9.4~10.0km/L、新型モデルは9.2~9.8km/Lとなっている。

■新型ラングラーの内装・ナビについて

 室内では、新型のフロントシートに、ラングラーでは初搭載となる12ウェイ・パワーシートを全車に標準装備する。運転席と助手席それぞれで、快適なシート位置を電動で簡単に調整できる機能だ。また、シート素材には、アンリミテッド スポーツがファブリック、アンリミテッド サハラが、フロントシートに「Jeep」ロゴの刺繍を入れたプレミアムマッキンリー(合成皮革)を採用する。最上級のアンリミテッド ルビコンは、本革のナッパレザーシートで、フロントシートには「Rubicon」ロゴの刺繍も施している。

 安全性能の面でも、新型はより進化している。これもラングラー初となるサイドカーテンエアバッグをフロントおよびリアに採用。従来のデュアルエアバッグとサイドエアバッグと連携することで、事故など万一の際に、フロントからリアシートまで広範囲をカバー。可能な限り乗員を保護する工夫が施されている。さらに、ウインドウには、コーニングゴリラガラスも新採用する。これは、スマートフォンにも採用されるという強化ガラスだ。オフロード走行も重視するモデルだけに、新型ではウインドウの強度なども考慮した改良が施されている。

 加えて、センターモニターには、12.3インチ タッチスクリーンも全グレードに標準装備。従来モデルが8.4インチタイプだったから、かなり大型化された印象だ。さらに、モニターには、独自のインフォテイメントシステム、最新の第5世代「Uconnect5」システムも搭載。アップルカープレイやアンドロイドオートに対応することで、スマートフォンとセンターモニターを連携することが可能で、音楽や地図など、さまざまなアプリを大型画面に表示し、使用することができる。

■価格を下げた理由とは? 

 新型ラングラーは、比較的リーズナブルなエントリーモデルを追加し、従来あるグレードの価格を下げたこともトピック。新型モデル各グレードの価格(税込み)は、以下のとおりだ。

・アンリミテッド スポーツ:799万円
・アンリミテッド サハラ:839万円
・アンリミテッド ルビコン:889万円
 従来、エントリーモデルの位置付けだったアンリミテッド サハラの先代モデルは、価格(税込み)870万円。新設定のアンリミテッド スポーツは71万円も安い設定だ。また、新型のアンリミテッド サハラも先代比で31万円下がっている。また、アンリミテッド ルビコンも、先代モデルの価格(税込み)は905万円だったから、新型は16万円ほど安くなった。

 しかも、ステランティス ジャパンによれば、アンリミテッド サハラやアンリミテッド ルビコンの新型モデルは、サイドカーテンエアバッグや新型の12.3インチモニターなど、より充実した装備の価値と値下げぶんを合計すれば、それぞれ約70万円もリーズナブルな価格設定にしているという。円安が続く昨今、輸入車であるにもかかわらず、価格を下げたというのは驚きだ。ステランティス ジャパンのこうした価格戦略は、近年、国内で需要が伸びるラングラーの新車販売台数を、さらに引き上げることが目的のようだ。

 同社によれば、近年は、輸入車でもSUVの人気は高く、新車販売台数は全体の約50%を占めるという。なかでも、2018年に日本へ導入した4代目ラングラーの国内累計販売台数は、2023年末時点で2万5000台以上。これまでのシリーズで最多の新車販売台数を記録するほど需要が伸びているという。とくに、ここ数年はかなり好調。JAIA(日本自動車輸入組合)のデータによれば、ラングラーの新車販売台数は、2020年に5756台、2021年には6930台を記録。2022年では3814台とやや落ち込んだが、2023年には4078台まで回復し、順調な伸びをみせているという。

 こうした背景からステランティス ジャパンでは、新型モデルをリリースするタイミングで、前述のように、ラングラーのシェア拡充を目指しているのだ。とくに価格を下げることで、これも先述のとおり、同モデルの購入層で増えているZ世代などにアピールしたいと考えているという。従来モデルでも、購入者の平均年齢は43歳と比較的若いことも、こうした戦略を後押しする。同社の値下げ戦略に対し、市場がどのような反応を示すかが今後注目だ。

 なお、ステランティス ジャパンでは、新型ラングラーの発表を記念した2タイプの特別限定車も用意。アンリミテッド ルビコンをベースに、ビビッドな黄色のボディカラーを採用した「アンリミテッド ルビコン ハイ ベロシティ(Unlimited Rubicon High Velocity)」を限定10台、税込み899万円で発売。また、アンリミテッド サハラをベースに、ジープの誕生年である「1941」のロゴ入りテールゲートデカールなどの特別装備を施した「アンリミテッド サハラ ローンチエディション」も用意。こちらは、300台限定で、価格(税込み)は849万円だ。

■ガソリン車は最後か? 

 ちなみに、ガソリン車のラングラーを新車で購入できるのは、このモデルが最後になるかもしれない。それは、ジープ・ブランドを手掛ける本家のステランティスが、「2025年末までに、北米におけるジープ・ブランドの全ラインナップを電動化する予定」と発表したからだ。また、「2030年までに米国のジープ・ブランド販売の50%、欧州では100%をBEV(バッテリーEV)にする」といった計画も公表。そうなると国内販売されるラングラーも、近い将来、BEVやPHEVなど電動化モデルしか選べなくなる可能性はある。

 ただし、最近、欧米などではBEVモデルの販売低迷などにより、EVシフトの見直しなどの動きもある。そのため、実際にラングラーが、ステランティスの発表どおり、次期モデルでBEVなどになるのかはわからない。ラングラーには、すでにPHEVモデルの「ルビコン 4xe」もあり、国内にも導入されている。こちらのモデルは、今回施されたようなマイナーチェンジはないが、ひょっとすると、次の完全フルモデルチェンジのタイミングで、主力モデル、またはBEVモデルと併売となる可能性はありそうだ。ともあれ、混迷するEVシフトのなか、こうした輸入SUVにも、今後どのようなモデルが出てくるのかも注目だ。

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最終更新:5/22(水) 10:17

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