首都圏の受験者数が9年連続で増加するなど、収まる気配のない中学受験の過熱ぶりですが、現役塾講師であり教育系インフルエンサーの東田高志(東京高校受験主義)さんは、その理由の1つとして「高校受験の情報が少なすぎる」と指摘します。親世代の時代と比べて大きく様変わりしている大学附属高校受験の現状とは、いったいどんなものなのでしょうか?
東田さんの著書『「中学受験」をするか迷ったら最初に知ってほしいこと: 4万人が支持する塾講師が伝えたい 「戦略的高校受験」のすすめ』より一部抜粋・再編集してご紹介します。
■大学附属校は実は中学受験よりもハードルが低い
高校受験の魅力として、中学受験と比べた大学附属校の入りやすさがよく挙げられます。
首都圏には、早稲田大学、慶應義塾大学、明治大学、中央大学などの有名私立大学の附属校・系列校がいくつもあります。そして中学受験よりも高校受験のほうが入学のハードルは低く、狙い目であるといわれています。その理由は以下の通りです。
1 教科数が少ない
中学受験は、理科と社会を含む4科目入試です。理科、社会は小学生に求める知識量としては膨大で、大きな学習負担となります。これに対して高校受験の大学附属校は3科目入試です。英語、数学、国語の3科目に比重を置いた勉強で大学附属校を狙えます。
2 受験に熱心な家庭が中学受験で抜ける
東京では、小学1年生から受験勉強を開始するような教育熱の高い家庭は中学受験で抜けてくれます。莫大な教育費を投じる家庭が中学受験で勝負するおかげで、高校受験は普通の経済力の家庭が不利にならなくて済む構造です。
3 高校単独の附属校が多い
法政大国際高校、中央大高校、中央大杉並高校、慶應義塾志木高校、早稲田大学本庄高等学院のように、高校からしか入学できない大学附属校がたくさんあります。
4 入学手段が多様である
学力検査一発勝負の一般入試のほかに、推薦入試や書類選考と呼ばれる学力検査だけに頼らない入学手段があり、学力や特性に応じた入学チャンスがあります。
■募集定員を大幅に上回る附属校の合格者数
中学受験と比べた高校受験の大学附属校の優位性は、募集定員だけでは判断できません。次の表は、3校の入試結果です。募集定員と合格者の差に注目してみてください。
※外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください
中学募集が定員に近い合格数しか出さないのに対して、高校募集は定員を大幅に超過した合格数を出します。これは高校募集に辞退者が多いためで、募集定員以上に合格が出ます。
高校募集で辞退者が多い理由の1つが、日程の分散です。たとえば、高校受験で早稲田大学高等学院を志望する受験生は、慶應義塾高校を併願できます。さらに、慶應志木の一次試験や早稲田大学本庄も受けることができます。併願できる数が多い分、ダブル合格が多く、辞退者が増えるのです。
また、大学附属校が首都圏の公立・都立難関校の併願校として機能していることも、辞退者が増える要因です。
これは、中学受験ではあまり見られない、高校受験特有の傾向です。中学受験では、進学校と大学附属校を併願する人はあまり多くありません。ところが、高校受験では、第一志望を進学校に据え、不合格になったら大学附属校を選ぶという受験パターンがたいへん多いのです。
たとえば、2番手系都立の立川高校の併願先は、中央大学附属高校や明治大学付属明治高校といったMARCHの附属校がラインナップに入ります。首都圏には日大、駒澤大、専修大、東洋大、工学院大、東京電機大、東海大、日本女子大など、中堅私立大学の附属校もあります。
進学校を志望しながらも、これらの大学附属校を第2志望として受験することは、高校受験では珍しいことではありません。
■学習ルートによって異なる附属校の「到達可能範囲」
高校受験には「実力養成ルート(入試の得点力強化や、将来の難関大学受験に向けた実力養成に全振りした学習ルート)」と公立中学校のカリキュラムに準拠して学習をしていく「中学準拠ルート」の2つがありますが、これらのルートによって、大学附属校の到達可能範囲が異なるというのは重要な視点です。
つまり、どちらの学習ルートを取るかによって、受験校のレベルの天井が決まっているのです。
都立高校はどちらのルートを選んでもトップ校まで到達が可能です。これが大学附属校になると、早慶附属校のレベルでは、中学校の学習内容を大きく超えたハイレベルな入試問題が出題されます。その問題に対応するためには、「実力養成ルート」での学習が不可欠です。
「中学準拠ルート」で対応可能な範囲は、基本的にはMARCH附属校のレベルまでになります(立教新座と明大明治は難易度的に早慶附属に近い)。
ただし、ここまでは一般入試に向けた「学力」の到達可能範囲の話です。MARCHの附属校や中堅私大附属校は、推薦入試や書類選考と呼ばれる、中学校の内申点を考慮する入試の割合が増します。
また、一般入試においても、中央大杉並のように内申点を考慮する学校や、明大八王子のように内申基準のある推薦入試の出願者には、一般入試で加点措置を行う学校があります。そうなると、「実力養成ルート」の優位性は減り、「中学準拠ルート」が盛り返します。
3科目入試の大学附属校は「2勝1分」が合格の目安です。これは、3科目のうち2科目で高得点を狙い、残り1科目で少なくとも「引き分け」の成績を保つという意味です。
英語と数学を得意科目とすることが王道の戦略です。第1章で示したように、小学生の段階から本格的な英語学習を開始し、小学校算数を「図形」や「割合・比」まで丁寧に仕上げてあると下地作りとして十分でしょう。
たとえば、帰国生で英語が得意なら、英語で「1勝」が確定しているので、あとは数学か国語のどちらかを勝てる科目に仕上げ、残りの1科目で負けない状態にすることを目標にしましょう。
早慶附属校のレベルになると、英語はどの受験生も高いレベルで仕上がっていて当たり前で、数学の出来が合否を分けています。
3科目入試とはいえ、早いうちから理科や社会を捨てるのは得策ではありません。
■早慶附属は「駿台テスト」の偏差値が指標になる
早慶附属校に向けた学習の指標となるものが、駿台教育センターが主催する「駿台中学生テスト」です。「実力養成ルート」の受験生が主体の難度の高い模試で、早慶附属校ほか、開成や渋谷幕張、日比谷の合格者の過半数が受けています。
VもぎやWもぎといった一般的な模試よりも母集団の学力が高く、偏差値は低く出る傾向にあります。VもぎやWもぎで偏差値70を超えていても、駿台では50しか取れないこともあります。
駿台の偏差値表で合格可能性80%ラインは、男子で早慶附属は65ぐらいに設定されています。しかし、実際の合格者はというと、50台後半ぐらいあれば、合格を勝ち取れる可能性が出てきます。
女子についてはもう少しハードルが高く、60を超えてくると合格は現実味を増します(女子のハードルが高いのは中学受験でも同様の傾向です。高校受験特有の問題ではありません)。
中学1年生から中学3年生の秋ごろまでは、駿台中学生テストで学力を測り、それ以降は、大手進学塾主催の冠模試や過去問演習で各校の合格可能性を探っていくのが早慶附属の王道の目指し方になります。
■「塾なし組」も狙える早大学院の自己推薦入試
実力養成ルートが王道の早慶附属校ですが、男子校の早稲田大学高等学院の自己推薦入試は、中学準拠ルートや塾に通わない受験生にも合格可能性があります。この入試では学力検査は行わず、1人当たり30分間の面接でのアピールが合否を分けます。
次のような生徒が対象とされています。
1.学問・勉学を大切に思い、日々の勉学において自己の進歩や新たな発見に喜びを見い出せる生徒。
2.自ら興味の対象を持ち、それに打ち込み、学業との両立に積極的に取り組むことのできる生徒。
3.グループ活動に進んで参加してリーダーシップを発揮できる生徒。
過去にこの入試で合格しているのは、学校が求める生徒像に合致した受験生です。
合格者は、これらの特性に合致し、自分が熱中する分野について深く語ることができる生徒です。そしてそれが「なぜ他校ではなく早稲田大学高等学院を選んだのか」につながっている必要があります。
9教科評定40以上の男子が応募資格を持ちますが、面接では深掘りした質問をされるため、過去にはその厳しさに耐えられず涙を流した受験生もいました。
募集人数が100人と多く、自分の強みや情熱を饒舌にアピールできる生徒には、受験する価値があります。ただし、安易な受験はおすすめしません。自己分析と周到な準備をして臨むべき試験です。
東洋経済オンライン
最終更新:5/24(金) 4:51
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