開発予定地が遺跡に!? 文化財保存と開発計画で揺れる「門司港駅」周辺《楽待新聞》

5/21 19:00 配信

不動産投資の楽待

レトロな街並みが観光客に人気の、福岡県北九州市門司(もじ)区。かつて日本を代表する貿易港だった門司港を抱え、その時代の栄華を思わせるような近代建築も多く残っている。

現在、JR門司港駅前の一等地で、複合公共施設の整備が進められている。ところが、建設予定地で「旧門司駅」の遺構が見つかったことで、開発計画が大きく揺れることに。

市は老朽化が進む8つの公共施設を集約し、複合公共施設の建設を予定通りに進めたい一方で、鉄道史や建築史の専門家らは遺構を現地保存すべきと主張している。

JR門司港駅周辺では、駅のすぐ近くにある旧JR九州本社ビルをホテルに改装する計画が白紙になったばかり。

今回は、現在の北九州市門司区の現状と、複合公共施設整備をとりまく動向について見ていこう。

■門司港レトロで人気の観光地

JR門司港駅があるのは、北九州市門司区。門司港を中心に栄えた港湾都市だ。

大陸に近いことから、明治から昭和初期にかけ栄華を誇り、国際貿易港として発展。現在も、その当時建設された歴史ある建物が街中に点在しており、ノスタルジックな雰囲気が魅力的な「門司港レトロ」として人気の観光スポットとなっている。

一方で、門司区の人口は1959年の約16万5000人をピークに減少の一途をたどり、2022年には約9万1100人にまで減っている。少子高齢化や流入人口の減少も進み、商店街では空き店舗の増加、住宅地では老朽化した空き家の増加が問題となっている。

これらは地価にも少なからず影響を及ぼし、商業地ではわずかに上昇しているものの、住宅地では下落傾向となっている。

門司区のある北九州市は政令指定都市であるが、ほかの政令指定都市と比較すると産業、地価など経済面で伸び悩んでいる。

状況を打開しようと、市は市内総生産額4兆円達成の目標を掲げ、企業誘致などに積極的に取り組んでいる。コロナ禍により落ち込んだ観光産業も徐々に回復の兆しを見せているが、人口減少や少子高齢化の流れを逆転させるまでには至っていないと言える。

■築90年以上の建物も…公共施設を再整備

このような状況も踏まえて計画されたのが、「門司港地域複合公共施設整備事業」だ。全国の自治体が少子高齢化社会を見据えて行う、いわゆるコンパクトシティー化の取り組みだ。

門司区にある公共施設は、老朽化が大きな問題となっている。とりわけ門司区役所は、1930年に建築された建物であり、建築からすでに90年以上が経過している。国の登録有形文化財に指定されているものの、施設の老朽化が進み、手狭でバリアフリーも十分ではない。

他の施設でも、老朽化、耐震基準を満たしていないこと、施設の設備が現状のニーズにそぐわないなど、さまざまな課題を抱えている。

そこで北九州市は、区役所、市民会館、生涯学習センター、図書館などの8つの施設について、それぞれ整備するのではなく門司港駅付近に集約する計画を進めてきた。

アクセスのよい場所に複合公共施設を整備することで、利便性の向上、サービスの効率化を図る。そして、共用部分やエレベーターなどの数を減らすことで、建築費用や維持費用を抑えることも狙いの1つだ。

地上5階の複合公共施設は、門司区役所を中心に、図書館、多目的ホール、港湾空港局庁舎、会議室などさまざまな機能を併せ持つ予定だ。総事業費は約103億8800万円、2027年度の供用開始を予定している。施設の移転により空いた土地は、地域に応じて利用転換される計画だ。

■建設予定地から初代門司駅遺構が

ところが、この複合公共施設の整備を進める中で、建設予定地であるJR門司港駅付近から「旧門司駅」の遺構が見つかったのである。

発掘されたのは、1891年に九州鉄道の起点駅として開業した門司駅(現在のJR門司港駅)の駅舎外郭や機関車庫跡など。北九州市の武内和久市長は一部を移築して保存する方針を示していたが、専門家から現地保存を訴える声が相次いでいる。

報道によれば、ユネスコの諮問機関であるイコモスの日本支部「日本イコモス国内委員会」が、旧門司駅の関連遺構について全体の現地保存を求める要望書を市に提出。「国史跡指定に値する価値を有している」との見解を示し、保存と現地での公開を求めた。

もし遺構をすべて現地で保存し公開するとなれば、複合公共施設の整備計画は大幅な変更をせざるを得ない状況となるだろう。

建設予定地での扱いをどうするのか、難しい判断を迫られる中、遺構をめぐる市の方針は揺れている。

市は、遺構の一部を移築するための費用を予算案に組み込んだものの、市議会では移築費を削除して記録保存を求める修正案が可決。北九州市による移築計画は、市議会に待ったをかけられた形となった。

鉄道遺構の出土といえば、東京都港区の「高輪築堤」が記憶に新しい。羽田空港と東京都心を直結する新路線「羽田空港アクセス線」の工事において発掘された鉄道遺構で、国史跡に指定されている。

JR東日本はこの遺構の保存のために、計画を大きく修正することとなった。この事例においても、開発と保存の両立が大きな課題となった。

門司港の事例とは内容が異なるが、遺構の保存と開発についてはあちらを立てればこちらが立たずという面があり、高度な検討を要すると言えるだろう。

■鉄道関連の観光資源が豊富

港が注目されがちな門司区だが、鉄道に関しても注目すべき観光資源をすでに持っている。まずは門司港駅そのものだ。レトロな駅舎は重要文化財に指定されている。

ちなみに、現役の駅舎で重要文化財指定を受けているのは門司港駅と東京駅(東京都千代田区)丸の内駅舎のみだ。

また、門司港駅から東へ3分ほど歩くと、九州鉄道記念館(旧九州鉄道本社)がある。蒸気機関車の常設展示や運転シュミレーターの体験コーナー、外には駅ホームを思わせる車両展示があり、かつて活躍した世界初の寝台特急「月光」などの車両が展示されている。

また、敷地内には、九州鉄道の歴史の始まりである「旧0哩標」が再現され、往時をしのばせるものがある。門司区は九州の鉄道発展の歴史にとって、とても重要な場所なのだ。

今回発掘された鉄道遺構が、記録保存、移築保存、はたまた現地保存となるのかはまだわからないが、門司港レトロの一角として、門司区の歴史を物語る存在になるのかもしれない。

複合公共施設については早急な整備が必要とされる中で、遺構の保存と開発の両立が求められている。

■公共施設の集約進む、暮らしやすさ向上なるか

門司港駅周辺では、駅そばにある「旧JR九州本社ビル」をホテルに改装する計画が白紙になったばかりだ。

旧JR九州本社ビルは、1937年に三井物産門司支店として建てられ、2001年までJR九州北九州本社として使用された。一時、取り壊しも検討されたが、歴史的価値が高いとして市が取得。北九州市の公募型プロポーザルを通じて、香港の投資会社が約100室規模のホテルとして再生する計画だった。

しかし、物価高騰などにより事業費が大幅に増加し、事業資金の調達の見込みが立たないとして撤退。旧JR九州本社ビルの活用事業は振り出しに戻った。2024年5月に事業者の再公募を開始、11月に審査会と事業者選定を行う予定だ。

一方で、開発が進み徐々にかたちをあらわしつつあるエリアもある。駅から徒歩10分ほどの門司区大里地域では、点在する老朽化したスポーツ施設などの公共施設を集約し、複合化・多機能化する事業が進行中だ。

旧門司競輪場跡地を活用し、大里公園の拡張、商業施設の誘致、民間事業によるマンションや戸建てを建設した居住ゾーンを設けるなどの施策を行っている。スポーツ施設の集約、複合公共施設の完成は2028年度を予定している。

1960~70年代に大量に作られた公共施設は古くなり、近い将来大規模改修や更新の時期を一斉に迎えることになる。これを見据え、人口に見合わない公共施設の保有量を縮減しつつ、余剰地は民間へ売却・賃貸しようという取り組みが行われている。

門司港駅前の本庁機能などを持つ複合公共施設と、大里地域のスポーツ施設・多目的施設の双方が完成すれば、公共施設がコンパクトにまとまり、門司港駅周辺の暮らしやすさが向上しそうだ。

歴史的資源と共存しながら、人口減少社会を見据え、より適した街の形に変容しようとする門司港駅周辺の開発。その行方は、今後の地方都市の行く末を占う意味でも目が離せない。

福本真紀/楽待新聞編集部

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最終更新:5/21(火) 19:00

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