金沢市内で賃貸需要が逼迫か、能登半島地震被災地で何が起きているのか《楽待新聞》

4/30 19:00 配信

不動産投資の楽待

2024年元日に起きた、令和6年能登半島地震。石川県の発表によると、地震による死者数は現時点で245名、被害があった住宅は11万8000戸にのぼる。懸命に復旧工事を続ける地元建設会社が見た、被災地の現状とは。

被災地の不動産オーナーらも、依然として厳しい状況にあるようだ。保有物件が被害を受けたオーナー2人に取材し、現状と再起に向けた取り組みを聞いた。

また、被害の少なかった金沢市では賃貸需要が逼迫し、地元管理会社では入居率が98.6%まで高まった事例も。しかし同時に入居者の短期退去リスクが増大しているといい、支援制度の課題も見えてきた。

地震から4カ月が経とうとしているいま、被災地はどのような状況なのか。不動産に関わる人々が、それぞれの目線から語ってくれた。

■「想像を絶する被害」、珠洲市の復旧工事現場から

100年以上の歴史を持つ、石川県小松市の建設会社「江口組」。小松市内の被害対応と並行して、珠洲市で道路や堤防の復旧工事にあたっている。

代表取締役社長の江口充さんは、積極的に復興支援活動の様子をSNSで発信している。

江口組が主に担ってきたのは、道路の一時的な復旧を目指す「道路啓開作業」だ。土砂崩れで塞がった道路を開通させたり、ひび割れた道路に砂利をつめたりして、緊急車両をいち早く通す手助けをしている。

復旧工事は急を要するため、情報が十分に入ってこないうちから現地に入る必要があった。ライフラインもないため、水、食料、ガソリンや重機の軽油など、すべてを自分たちで持って行ったという。

「災害に備えて会社に資材を備蓄してはいましたが、今回は想像を絶するような被害がありました。寝袋や食べ物を慌てて買いに行き、現地に向かいました。泊まる場所もないので、最初に行ったときは車中泊でした」(江口さん)

被災地での作業は過酷を極める。特に震災直後は真冬だったため、雪や寒さが厳しかったという。長期間の現場作業は困難なため、地元建設事業者らは数日ずつ交代で作業を進めている。

江口組でも、1月11日から現在に至るまで、およそ2週間に1度のペースで現場入りを続けている。

地元建設業者の努力の甲斐あって、被災地の状況は改善しつつある。震災直後は小松市から珠洲市まで片道6時間かかったが、現在は3時間半で行けるようになったそうだ。

江口さんらが担当してきた道路啓開作業も4月末で終わり、今後は本格的な復旧工事が始まる予定だ。

「4月に入り、建物の解体も始まってきました。壊れた建物が道路にかかって通れなくなっている箇所もあるので、解体をしながらでないとインフラの整備をし直せない面もあります。いろいろな仕事と並行しながら進めていかなければいけないな、と感じています。復興には相当な時間がかかると思いますね」(江口さん)

今回の震災では、建物の倒壊も相次いだ。発生する災害廃棄物は、石川県全体で約244万トンと推計されている。

江口組は、こうした災害廃棄物の仮置き場をつくるため、珠洲市でおよそ9万平方メートルの土地の造成工事も行っている。

「災害があったときに一番に動くのは地元建設会社だ、ということは長年教えられてきています。その使命感で、大変な状況下でも『沢山の人の生活を支えているんだ』という気持ちで一生懸命頑張っています」(江口さん)

復興への道程は遠いが、江口さんは粉骨砕身の思いで作業を続けている。

■被害物件オーナーは資金問題に直面

能登半島の中央に位置する、七尾市。中心の七尾駅から数分歩いたところに、旧市街がある。地震によって激しく損壊した建物が、いまも数多く残っている。

この近くにアパートを3棟所有しているのが、不動産投資家の「埼玉swallows」さんだ。築およそ40年の木造アパートを見せてもらうと、外壁や基礎に亀裂ができる、クロスの浮きが出るなどの被害が出ていた。

2月末ごろに地震保険の保険金請求をしたところ、被害程度は「一部損」の認定だったという。

「小半損が認められるかと思っていましたが、一部損でしたね。ただ逆に、被害が認められないのではと考えていた物件で一部損が出たりもしています。修繕費用にあてるには保険金は全然足りないと思いますが、『そんなものかな』と割り切って考えています」(埼玉swallowsさん)

埼玉swallowsさんはこれまで、給水管の破裂対応など、緊急性の高い修繕から優先的に進めてきた。しかし、外壁のヒビなど、大きなコストがかかる修繕はいまだ残っている。

加えて昨今は建築資材が高騰しており、修繕費用の工面に苦労している。

そこで、日本政策金融公庫の「能登半島地震特別貸付枠」への申し込みを考えているそうだ。被災した中小企業・事業者を支援するための融資枠となっている。

「資金面は不安ですね。他に融資のアテがないので、公庫さん頼みです。今後、申請に必要な罹災証明を取得する予定です。リフォーム会社に見積もりをもらって融資の依頼をし、融資を受けてから施工を進められればと思っています」(埼玉swallowsさん)

街にも、修繕が必要な建築物がいまだ多く残る。住むことが難しい物件から退去した住民は、他の物件に移り住むことになる。賃貸需要にも大きな変化が起こっているとみられる。

「七尾市内の貸家は、1月中にはほぼすべて埋まっていました。能登半島にはもう、空き部屋がほとんどないのではないでしょうか。金沢方面まで行かないと、なかなか見つからないと思います」(埼玉swallowsさん)

■賃貸需要増の金沢市、地元管理会社が語る実情

石川県の中心地、金沢市はどのような状況なのか。金沢市を中心におよそ1300戸の物件を管理する有限会社高山不動産の代表取締役で、CPMの高山修一さんに話を聞いた。

「金沢の入居率はとても高い状況になっていると思います。4月1日現在という瞬間的な数字になりますが、当社管理物件の入居率は98.6%です。未成約で入居が決まっていない物件は1300件中10件あるかないか。過去にないくらいの状態です」(高山さん)

賃貸需要が急増する一因となったのは、賃貸型応急住宅制度だ。「甚大な被害により自宅に住めないと判断された被災者は、一時的に別の賃貸物件に住める」という制度で、「みなし仮設住宅制度」とも呼ばれている。

もともとこの制度は、自宅が半壊以上の損傷を受けた人を対象とするものだった。しかし、2月から条件が緩和され、ライフラインの寸断によって自宅での生活が困難になった人も対象となった。

みなし仮設住宅制度により、輪島市・珠洲市などと比べて被害が少なかった地域での賃貸需要は高まった。例年の繁忙期とも重なり、類を見ない状況になっているといえそうだ。

しかし高山さんによれば、デメリットもある。

「あくまで『みなし仮設』住宅ですから、復興が進めば被災者は退去してしまいます。4月末には水道の開通工事があらかた済むそうです。実際にどうなるかはわかりませんが、5月以降に解約が一気に増える可能性もあります」(高山さん)

賃貸業の繁忙期は一般的に1~3月だ。退去の可能性が高まる5~6月は閑散期となるため、次の入居が決まりづらくなるリスクもある。

「ローンを組んでいる大家さんにとっては、空室期間は短いほうがよいので、繁忙期は長期入居のお客さんを狙いたいというお気持ちの方も多いです。制度を使った入居希望があった場合、短期解約のリスクをきちんと説明し、それでも被災者を受け入れてよいかを確認するのが管理会社の仕事だと思っています」(高山さん)

さらに、みなし仮設住宅の対象となる物件は、1980年以降に建てられた新耐震基準の建築物に限られる。

築浅物件の大家の多くはローン返済を抱えているため、被災者が短期間で退去することを考えると、貸したくても貸しにくいのが現状だ。

高山不動産と付き合いのあるオーナーの中でも、「ローンを払っているからみなし仮設住宅にはできない」という選択をする人も多かったそうだ。

「私は別に悪くない判断だと思います」と高山さんはいう。制度に協力したら返済について何かしら考える、などの政策が先回りで提示されていないことから、不安を抱えるオーナーがいると分析した。

■液状化した土地、進まぬ擁壁工事

地震被害が残っているのは能登半島ばかりではない。2023年末、富山県に新築アパート用地を購入した水谷さん(仮名)は、「あの土地にはもう期待しない」と語る。

土地は擁壁上にあり、擁壁の土が液状化するなどして周辺一帯がダメージを受けた。水谷さんの土地には目に見える異変はないが、周辺の物件が傾く、前面道路が割れるなどしている。建設車両も入りづらい状況にあるため、アパートの建築どころではないという。

擁壁の一部区画では、土のうの設置など、市による応急的な工事が始まっている。しかし、水谷さんの土地の周りは工事の対象ではなかったようだ。

「2月に市役所に行き、危険だから擁壁全体の補強工事をしたほうがいいのではないか、と意見してはみたのですが…。なかなか手が回らないようで、進展はありません。おそらく固定資産税の減免措置もないと思います」(水谷さん)

購入時に融資を受けた金融機関は、幸いにも地震被害に理解を示してくれたそうだ。資金計画について話し合い、再起に向けて歩みを進めているという。



地震発生からもうすぐ4カ月が経過する。着実に復興が進む一方、一筋縄では行かない問題もいまだ立ちはだかっているようだ。楽待新聞では今後も、被災地の現状をお伝えする。

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最終更新:4/30(火) 19:00

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