LinuxからAndroidへ!BMW」車載OSの「劇的変化」のワケ

3/29 14:02 配信

東洋経済オンライン

 ドイツのプレミアムブランドといわれる自動車メーカーのプロダクトで興味深いのは、インフォテインメントシステムの“進化”だ。少なくとも、新しさでいうと日本車は後塵を拝している。

 中でも熱心な取り組みを見せるのはBMWで、最新のOSは「BMWオペレーティング・システム9(OS9)」だ。

 搭載車は、新型「X1/iX1」「X2/iX2」、それに新型「ミニ・カントリーマン」と「ミニクーパー」(ミニの場合「MINI・オペレーティングシステム9」という)。

 BMW X2とミニ・カントリーマンの試乗と同じタイミングで、同社技術者に最新のOSとインフォテインメントシステムのコンセプトを聞いてみた。

■気分を盛り上げるための演出

 どこが、BMWの注目点なのだろう。ごく簡単にいうと、単なるナビゲーションやオーディオの操作にとどまっていないことだ。それが、インフォテイメントシステムの“進化形”たる所以。

 最近では、ホンダが2024年3月に発売した新型アコードに「エクスペリエンスセレクション ダイヤル」なる機構をそなえたインフォテインメントシステムを搭載した。

 ダイヤルを回すことでエアコンの温度調整をしたり、室内照明の調整といったメニューを少ない手順で呼び出せるようにしたもの。BMWに限らず、この分野は重要視されているのだ。

 BMW OSの特徴としてあげられるのは、「MY MODES」。これは、「5シリーズ」や「7シリーズ」などで導入済みなので、ご存じの方もいるだろう。

 従来のドライブモードにサウンドやライティングを加えたもので、車載コンピューターがドライバーの運転などから判断して、ドライバーの気分を盛り立ててくれるモードである。

 7シリーズを例にすると、「リラックスモード」ではリヤシートに内蔵されたマッサージ機構が動くとともに、サンシェードが自動で閉まり、エアコンが設定温度より1℃高く、さらにアンビエントライトなる車内照明が白を基調としたものになる、といった具合。

 
快適性を重視したという「エクスプレッシブモード」は、視覚で楽しむモードで、ガラスルーフのサンシェードが自動で開き、アンビエントライトはブルーとイエローに。初めて経験すると、けっこうびっくりすると思う。

■アプリのローカライゼーション

 私は現行5シリーズ(G60型)が2023年に発表された際、日本導入前のジャーナリスト向け試乗会でポルトガルを訪れ、このモデルに搭載されているBMW OSのためのアプリ開発部門を取材したことがある。

 ポルトガルには2つのアプリ開発スタジオがあり、さらに世界各地でアプリ開発会社と契約しているとのことだった。車内のインフォテイメントが「たいへん重要」だと聞いたのもそのときだ。

 音楽や映像のストリーミング、ニュースの読み上げ、対戦型ゲーム……と、アプリは豊富。ローカライゼーションといって、販売地域に応じたアプリを開発・搭載していくのだそうだ。

 たとえば、日本向けにはテレビ局が配信するプログラムを観るアプリが入っている(テレビにこだわるのは日本だけらしい)。

 このとき取材したのはOS8.5だったが、2023年2月に日本発売が開始された新型「X1/iX1」と、同年10月発表のX2/iX2で最新のOS9に切り替わっている。

 「従来のOS8.5まではLinuxをベースに開発されていましたが、OS9はAndroidベースに変えました。理由は、Androidのほうが裾野が広く、アプリ開発においても協力してくれる企業が多いからです」

 実は、先のホンダ・アコードもAndroidを使用するようになっている。やはり、開発のしやすさとユーザーに評価されやすい利便性が理由で、北米のアコードはAmazon Alexaも使えるそうだ。

 BMWでは、自社のシステムを新世代「BMW iDrive(アイドライブ)」と定義。ユーザーに「エモーショナルなドライビングを愉しませたい」とする。

 OS9の特徴としてあげられたのは、操作方法。OS9では、BMWが2000年代に先陣をきって採用した、iDriveの象徴たるダイヤル式コントローラーが廃止された。

 「よりシンプルで直感的な操作を可能にするため、『Touch & Voice』なる機能を強化しました」と、OS9のデジタルプロダクトオフィサーを務めるハイコ・ギューイン氏は言う。

 「Touch」とは、アプリを呼び出す際、階層を深く潜っていかなくてもすむよう、ウィジェットをモニターに並べておける仕組み。好みのアプリをワンタッチで呼び出せる。また、「Voice」によって音声で呼び出すこともできる。

 「Touchはスマートフォンを使う感覚により近づけ、Voiceは車内で使いやすいよう体系的に再設計し、さらにAlexaなどに慣れているユーザーのことも念頭に置きました」とギューイン氏。

 新型のミニ・カントリーマンも、OS9を搭載。このクルマでは、見た目が従来とまったく違う。インフォテインメントシステム用に円形モニターを引き継いではいるものの、今回は円をフルに使ったデザインになった。

 地図も円全体に表示されるので広い範囲が見られるし、ユニークなのは音楽をかけたとき、円を利用してビニール盤(レコード)が回っているビジュアルを呼び出すこともできる。スクラッチもできるという遊び心も。これを可能にしたのは、OS9だからだそう。

■高まるパーソナライズの重要性

 「ドライバーがピンクのセーターで乗り込んだら、システムが色を認識して室内照明をピンクにするモードもあります。パーソナライズして、自分だけの空間だと思ってもらえることが、このセグメントのクルマには大事なのです」

 ミニでデジタルプロダクト&サービスを担当するクリステン・アウグスブルク氏は、そうマーケティングの狙いを説明する。

 遊び感覚といえば、ナビゲーション画面で自車位置を示すポインター(矢印)を上から長押しすると、ミニのアイコンに変わるのもおもしろい。

 アウグスブルク氏が言う「小さなことが大きな意味を持つこともあります」との考えも、正鵠(せいこく)を射ているかもしれない。

 5シリーズや7シリーズ、あるいはこれまでのミニのオーナーにとってちょっと残念なのは、OS8.5からOS9へのバージョンアップができないこと。“進化”についていくのも、たいへんなのだ。

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:3/29(金) 14:02

東洋経済オンライン

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング