失われた30年からインフレ社会へ、日経平均最高値を手放しで喜べない訳《楽待新聞》

3/7 19:00 配信

不動産投資の楽待

金融市場の関心は日本株に集中している。

2月22日の東京株式市場で日経平均株価が1989年末につけた最高値(3万8915円)を約34年ぶりに更新し、3月4日には史上初の4万円台に突入した。

1ドル150円近傍で張り付くドル/円相場の値動きよりも、新高値更新がどこまで続くのかについて市場参加者の関心はすっかり移ってしまっている。

筆者は株式市場の専門家ではないので、日経平均株価指数の割高・割安について言及することは避ける。だが、「なぜ株高になっているのか」と問われれば「インフレの賜物」と答えることにしている。本稿ではさまざまな切り口からそのことを裏付けてみたい。

■日本はデフレからインフレへ

議論の大前提として、日本におけるインフレ圧力が高まっているという事実から確認しておこう。

自国通貨が安くなるのも、株や不動産、その他実物資産(外車や高級時計など)が高くなるのも、インフレ圧力の高まりと整合的な現象である。全て最近の日本で話題になっている論点だろう。

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日経平均が34年ぶりの最高値を更新した22日、植田日銀総裁も衆議院予算委員会で2024年以降の物価見通しに関し「23年までと同じような右上がりの動きが続くと予想している」と述べ、「(日本経済は)デフレではなくインフレの状態にある」と踏み込んだ発言をしている。

デフレがインフレに切り替われば実物資産を筆頭に名目価値が増加するのは必然ではある。

後述するように、理論的な想定に反して歴史的安値で張り付いている円の実質実効為替レート(REER)も、結局インフレになることで調整できると考えれば、相応に納得感はある。

■通貨安のトルコやアルゼンチンも株高

日本と同様に通貨安になっている国の状況はどうなっているか。

「インフレで通貨安になっているから株価が上がっている」という例は海外にもしっかり確認できる。

これまでも言及してきた事実だが、過去2年間の為替市場においては「対ドル変化率で見た場合、円よりも慢性的に下落幅が大きいのはアルゼンチンペソとトルコリラくらい」という状況が定着していた。

下記は34年ぶりの高値を更新した22日時点における過去1年の主要株価指数の上昇率トップ10を並べたものだ。

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<世界の主要株価指数(上昇率トップ10)>
1位 アルゼンチンメルバル指数 339.70%
2位 ナイジェリア全株指数 86.39%
3位 イスタンブール100種指数 84.31%
4位 イスタンブールBIST30指数 76.87%
5位 EGX 30 INDEX 74.70%
6位 Lusaka Stock Exchange AI 60.93%
7位 カラチKSE100指数 50.44%
8位 ブダペスト証取指数 46.87%
9位 日経平均株価 44.25%
10位 カザフスタン証券取引所指数 40.21%
30位 NYダウ工業株30種 18.23%
(資料:Bloomberg、23年2月22日~24年2月22日)
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アルゼンチン(メルバル指数)やトルコ(イスタンブール100種指数やイスタンブールBIST30指数)が上位を占めている。同じく史上最高値更新が期待されるNYダウ工業株30種は22日時点で30位だった。

結局、(1)通貨安になっていることで日本企業の海外利益が嵩上げされている、(2)円安発・輸入物価経由の外生的なインフレ圧力に加え、未曽有の人手不足も相まって内生的なインフレ圧力も高まっていることで、株式を含めたあらゆる名目価値が膨らみ始めていると整理するのが日本経済の実情に最も近いと筆者は理解している。

■GDPの不調と株高は矛盾するのか

メディアを中心に「日本のGDPが不調なのに、株高は矛盾するのではないか」という疑問が取りざたされている。

残念ながら、GDPの不調と株価の続伸の間に矛盾はない。かねて国際収支構造の分析と共に論じているように、日本企業が稼いだ収益は国内に還流せず海外に滞留している。これは第一次所得収支黒字の構造からも確認できる。

筆者試算によれば、その円転率(※第一次所得収支黒字のうち円買いに繋がっていると思われる比率)は年によって異なるが25~30%程度と目される。仮に30兆円の黒字を稼いでも、日本経済に還流してくるのは10兆円程度と考えておいた方が良い。

ちなみに、日本企業の稼ぎが海外に滞留する傾向は、国際収支よりもさらにミクロなデータからも確認可能だ。

■円安でかさ上げされる内部留保残高

国内経済情勢はさておき、企業部門の現状が株価に反映されてくれば株価水準は当然、押し上げられてくる。その1つが内部留保残高だ。

下の表は経済産業省「海外事業活動基本調査」から遡及可能な2003年度以降について、日本企業が海外に保有する内部留保残高の推移を見たものだ。

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2021年度調査(2021年4月初頭~2022年3月末)は約48兆円と過去最大を記録している。円安が始まったのがちょうど2022年3月末なので、その影響は2021年度調査から既に織り込まれつつあるだろう。

言うまでもなく、2022年度や2023 年度の調査ではより円安の影響が色濃く反映されるため、内部留保残高はさらに嵩上げされてくるはずである。

企業部門の収益が国内に還流されない以上、家計部門の所得環境も改善が遅れてしまう。結果、国内の消費・投資は振るわない。内需総崩れの様相と共にGDPが全く冴えない状況になっている現状は決して不思議ではない。

■労働力の奪い合いで名目賃金が上昇

人口減少に伴う賃金の上昇がインフレを定着させ、株価を押し上げるというサイクルを生み出しつつある。

大企業を中心として連日のように賃上げ報道がなされている背景にはそうしなければ労働力が確保できない状況がいよいよ顕現化しているからである。あと10年もすれば、生産年齢人口が現在の就業者人口を割り込む展開が予見される。

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そこで起きることは労働者の奪い合いであり、名目賃金は必然的に上がらざるを得ない。原資のある企業から賃上げは始まっていくし、それがインフレ経済を定着させるし、株価も為替も新しい水準を目指す。

■インフレを織り込んだ「円安」

円安が株高の要因とする見方もあるが、そもそも今の円安自体が来たるべきインフレを織り込んだ結果という考え方もできる。

四半世紀以上、デフレが日本の経済・金融情勢を議論する大前提だったのだから、それが変われば、名目水準は一気に変わっても不思議ではない。

例えば、理論的に考えた場合、一般的に「通貨の実力(ないし総合力)」などと報道で言われることが多い実質実効為替レートの調整経路は(1)名目ベースで円高が進む、(2)日本が相対的にインフレになる、もしくはその両方が考えられる。

かねてより筆者は(2)が有力だと考えてきた。冒頭のグラフで見たとおり、日経平均株価指数と実質実効為替レートの乖離は著しく拡している。インフレに応じて実質実効為替レートが押し上げられてくると考えれば、足許の株高も大きな調整は不要という話になる。

インフレによって実質ベースで見た円安感は解消され、名目ベースで見た円安感は放置される。「行き過ぎた円安」かどうかは時の物価水準で決まるものだ。

■ドイツに抜かれ4位になった日本

ドル建て名目GDPの日独逆転に際し、「為替レートが購買力平価(PPP)からかつてないほど通貨安方向に乖離し、物価水準が低い日本では、名目でみると実力が大幅に過小評価される」という意見は根強い。

この主張は理論的に正しいが、現実的に正しいのか良く考える必要がある。

購買力平価とは、短期的には色々な要因で為替市場が変動するとしても、長期的には二国間の財・サービスの価格が同じになるように為替レートは収束していく、という考え方である。

円が購買力平価から通貨安方向に大きく乖離してもう10年以上が経過している。

今、疑うべきは「実勢レートが正しいかどうか」ではなく「購買力平価が正しいかどうか」ではないのだろうか。

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今後、日本がデフレからインフレに切り替わるのだとすれば、実勢相場が過小評価なのではなく、購買力平価が過大評価であるという見方もできる。

実勢相場が過小評価とは言えないのであれば、ドル建て名目GDPの収縮も過小評価とは言えない。言い換えれば、名目ドル建てGDPが「本当に正しかった規模」に修正されているという考え方もあり得る。



インフレ経済では株価は上がるし、不動産価格も上がるし、通貨は下がる。

日銀総裁が「デフレからインフレへの切り替わり」を自認する今の日本において、インフレに付随して起きると想定されていることが起きているだけではないのか。

筆者は株式市場の専門家ではないが、日本のマクロ経済環境に照らせば、株価上昇は必然の帰結なのではないかと捉えている。

同時に自国通貨が安くなることも、不動産価格が上がることも、高級外車や時計などが上がることも、全ては名目価値が膨らむインフレという経済現象による必然の帰結であると考えている。

不動産投資の楽待

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最終更新:3/7(木) 19:00

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