西鉄天神大牟田線「隣駅から徒歩5分」新駅の背景 駅間距離は最短、福岡市南部に16日開業の「桜並木駅」

3/15 4:32 配信

東洋経済オンライン

 春にスタートを切る新駅としては、まさにぴったりの駅名だ。福岡県の大手私鉄、西日本鉄道(西鉄)天神大牟田線に3月16日開業の「桜並木駅」(福岡市博多区)。駅名は公募によって駅南側にある桜並木にちなんで命名され、駅施設のあちこちに桜の模様がちりばめられている。

 西鉄で2010年以来、14年ぶりの新駅として期待を集める桜並木駅。ただ、この駅が設けられたのは、難読駅名として知られる雑餉隈(ざっしょのくま)駅からわずか500mの位置で、「天神大牟田線の駅間の距離では一番短い」(西鉄広報担当者)。両駅間は徒歩でも5分ほどだ。すぐ近くに駅があるにもかかわらず、新駅を造ったのはなぜか。

■駅のあちこちに「桜」

 桜並木駅は、福岡市中心部の繁華街、天神に位置するターミナルの西鉄福岡(天神)駅から8つ目。高架駅で、ホームは上下線にそれぞれ1本ずつの「相対式」だ。天神大牟田線の列車は最長で7両編成だが、ホームの長さは8両編成に対応している。

 駅施設で目立つのは、駅名にちなんだ桜の模様の装飾だ。ホームの駅名標をはじめ、券売機上の運賃表や、改札階からホームへ通じるエスカレーターや階段脇の案内板、トイレの入り口などあらゆる部分に桜をあしらっている。広報担当者によると、駅名標に模様を入れたり色を変えたりするなど駅独自のデザインを採用した例は、西鉄では2010年開業の紫駅(筑紫野市)など一部という。

 改札は2階で、西鉄福岡(天神)寄りの「北改札口」と大牟田寄りの「中央改札口」の2カ所を設けている。1階に1区画、2階には3区画の店舗スペースもあり、テナントについては「夏頃の開業を目指して現在協議中」(西鉄広報担当者)だ。

 天神大牟田線の駅には「T01」のようにアルファベットのTと数字を組み合わせた駅ナンバーが付いており、桜並木駅は「T08」。路線の中間に新たな駅ができると駅ナンバーを1つずつずらす必要がありそうだが、西鉄は2017年2月に駅ナンバーを導入した際から新駅の開業を見込み、T08を欠番としていた。このため、各駅のナンバーは変わらない。

 停まるのは普通列車のみで、2024年3月16日改正のダイヤでは上り、下りともに日中1時間当たり6本が停車する。

■もともとは「駅移設」の予定だった

 新駅の周辺は博多区南部の住宅地。直線距離で約700m南西にはJR鹿児島本線の南福岡駅がある。同線は福岡市のもう1つの中核、博多に直結する路線だ。だが、新駅設置の理由は新たな宅地開発でもJRへの対抗でもない。もともとは、「雑餉隈駅を移設しようとしたこと」(西鉄広報担当者)がきっかけだった。

 雑餉隈駅は1日平均約1万4200人(2022年度)が乗降し、天神大牟田線でも比較的利用者が多い。一方で、駅周辺が手狭なため駅前ロータリーなどの整備が難しく、最寄りのバス停もやや離れているほか、ホームがカーブしているなど安全面でも課題があった。

 そこで、同駅付近の連続立体交差化検討とともに、駅を改良して交通結節点とすべく移設する構想が浮上。新たな場所として白羽の矢が立ったのが、線路沿いに西鉄バスの営業所(雑餉隈自動車営業所)やグループ会社の事務所といった西鉄所有の土地が広がっていた、現在の桜並木駅の位置だった。

 ただ、雑餉隈駅の地元からは従来の位置での存続を求める声があったといい、協議などを踏まえて2007年ごろ、移設ではなく新駅を設置することに決定。こうして隣駅から約500mという極めて近い場所に新たな駅が誕生することになった。

 新駅は、雑餉隈駅付近の連続立体交差事業と同じ2010年に工事に着手した。連続立体交差化は雑餉隈駅付近から下大利駅付近までの約5.16kmで実施しており、事業主体は雑餉隈駅付近の約1.86kmが福岡市、春日原駅―下大利駅間の約3.3kmは福岡県と分かれている。新駅が位置するのは福岡市が事業主体の区間だが、駅の設置は西鉄による事業だ。

 当初は2020年度中に高架線に切り替える予定だったが、春日原駅の地下にコンクリート塊が見つかったことで工事が遅れ、高架化は約1年5カ月遅れの2022年8月にずれ込んだ。線路の高架切り替えと同時に、雑餉隈、春日原、白木原、下大利の4駅も高架化された。

 同区間の高架は、一部を除いて従来の地上線の真上に造る「直上方式」で建設した。この方式だと、もともと線路があった場所に駅舎などの施設を造ることになるため、「高架線に切り替えた後に下の部分を仕上げる必要がある」(西鉄連立工事事務所の担当者)。線路の高架化後、引き続き新駅施設の工事を進め、2024年1月、開業日を3月16日と正式に発表した。

■コロナ禍から復活のダイヤ改正

 桜並木駅の開業に合わせ、天神大牟田線はダイヤ改正を実施。コロナ禍によって減少した利用者数が回復してきたことから運行本数を増やし、取りやめていた平日日中の特急列車復活など前向きな内容が目立つ。桜並木駅の隣駅、春日原は新たに特急停車駅となる。

 西鉄の2023年度第3四半期決算説明資料によると、鉄道利用者数はコロナ前の2019年度同期と比べて約9割まで回復しており、とくに定期客は約95%まで戻っている。一方で定期外客は8割台後半にとどまっており、さらなる回復へは通勤・通学以外の利用者増加が課題だ。

 桜並木駅の利用者数は1日約8000人の想定だ。これは隣接する雑餉隈駅からの転移も考慮した数だが、西鉄は「せっかくの新駅なので利用者増に結び付けなければ」(広報担当者)と意気込む。

 福岡市内では2023年3月に地下鉄七隈線が博多駅まで延伸開業し、それまで利用低迷が続いていた同線は混雑が問題になるまでに乗客が増加した。桜並木駅の開業は西鉄に「桜咲く」結果をもたらすことになるか。

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最終更新:3/15(金) 4:32

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