膨大な電力消費するAI、新たな半導体ソリューション目指し競争激化

4/4 10:07 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): 人工知能(AI)が膨大なエネルギーを必要とする理由を簡単に理解するため、半導体が図書館の分館として機能し、AIアルゴリズムが本を借りにくる研究者だと想像してみよう。

アルゴリズムがデータを必要とするたびに、半導体メモリーと呼ばれる図書館に行き、データを借り入れ、プロセッサーと呼ばれる別の半導体に持って行き、機能を実行する。

AIは膨大な量のデータを必要とするため、この2種類の半導体間を何十億冊もの本が行き来し、その過程で大量の電力を消費することになる。少なくとも10年前から、専門家らはデータが保存されている場所でデータを処理できる半導体を構築することで電力を節約しようとしてきた。

半導体メモリーの第一人者で台湾積体電路製造(TSMC)のコンサルタントをしているフィリップ・ウォン米スタンフォード大学教授は、「図書館から家に本を持ってくる代わりに、図書館に行って仕事をする」のだと説明する。

しばしば「インメモリーコンピューティング」と呼ばれるこのプロセスは、技術的な課題に直面しているが、リサーチ段階から次のステージに入ろうとしている。

中国やサウジ

AIの電力使用がその経済的実行可能性と環境への影響について深刻な問題を提起していることから、AIのエネルギー効率を高める技術は大きな利益をもたらす可能性がある。

TSMCや米インテル、韓国のサムスン電子といった大手半導体メーカーは、いずれもインメモリーコンピューティングを研究。盛り上がりを見せるインメモリーコンピューティングは、半導体を巡る広範な地政学的論争に巻き込まれ始めている。

インテルのリサーチ部門インテルラボの上級主任エンジニア、ラム・クリシュナムルシー氏は、インメモリーコンピューティングがインテルの製品ラインアップにどのように組み入れられるかについては言及を避けながらも、インテルが研究を行うためにこうした半導体の一部を製造していると明らかにした。

対話型AI「ChatGPT(チャットGPT)」を手がける米オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)のような個人、オープンAIに出資している米マイクロソフトのような企業、中国やサウジアラビアなどの政府系事業体は、いずれもこの技術に取り組む新興企業に投資している。

米国の対米外国投資委員会(CFIUS)は昨年11月、サウジの国営石油会社サウジアラムコのベンチャーキャピタル(VC)ファンドに対し、インメモリーコンピューティングに特化したサンフランシスコのスタートアップ、レインAIの持ち分売却を迫った。

非公開情報だとして匿名を条件に語った関係者によれば、複数のアラムコVC部門は現在、米国外でインメモリーコンピューティングに取り組んでいる企業を探しており、中国でも積極的に投資先を見つけようとしている。

このテクノロジーに対し、特に強い関心を持っているのが中国だ。投資データを追跡しているピッチブックによると、PIMチップや后摩智能といった一握りの中国スタートアップが著名な投資家から資金を調達している。

インメモリーコンピューティングに取り組む新興企業エンチャージAIの共同創業者ナビーン・ベルマ米プリンストン大学教授は、中国の企業や大学でこのテーマについて講演するよう頻繁に招かれているという。

「彼らはインメモリーコンピューティングのシステムや先進的なシステム全般の構築方法を積極的に理解しようとしている」と同教授は言うものの、ここ数年は中国を訪れておらず、アジアではエンチャージの技術についてではなく、自身の学術的研究についてのみ講演を行っていると語った。

エヌビディア

この半導体テクノロジーが、AIコンピューティングの将来において重要な役割を果たすようになるとはまだ断言できない。

インメモリーコンピューティング半導体は、計算エラーを引き起こしてきた温度変化などの環境要因に敏感だ。スタートアップ各社はこれを改善させようとさまざまなアプローチに取り組んでいるが、この技術はまだ新しい。

新型半導体への変更は高コストで、顧客は大幅な改善を確信できない限り、変更をためらうことが多い。スタートアップ側はリスクに見合うメリットがあることを顧客に納得させる必要がある。

今のところ、インメモリーコンピューティングの新興企業は、AIコンピューティングの最も難しい部分である新しいモデルの学習には取り組んでいない。

このプロセスは、アルゴリズムがペタバイト単位のデータを検証し、システムを構築するために使用するパターンを導き出すもので、主に米エヌビディアなどの企業が設計した最上位半導体によって処理されている。同社は、トランジスタの小型化や半導体間の通信方法改善など、電力効率を向上させる独自の戦略を採用してきた。

インメモリーコンピューティング半導体を製造するスタートアップは、エヌビディアに直接対抗するのではなく、推論、つまり現行モデルを使用してプロンプト(指示)を受け取り、コンテンツを生む作業でビジネスを構築することを目指している。

推論は学習ほど複雑ではないが、大規模に行われる。そのため、推論をより効率的にするよう特別に設計された半導体には大きな市場が存在する可能性がある。

最適な用途

シリコンバレーに本拠を置く半導体スタートアップ、d-マトリックスを創業したシド・シェスCEOによれば、エヌビディアの主力製品である画像処理半導体(GPU)は消費電力が大きいため、推論に使うには比較的効率が悪い。

しかし、AIブームが始まるまでは新たな半導体の投資家への売り込みは困難だったという。「2023年前半、ChatGPTのおかげで全てが変わった」と同CEOは話す。

マイクロソフトやシンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングスなどの投資家から1億6000万ドル(約243億円)を調達したd-マトリックスは今年、同社初の半導体を販売し、25年には量産体制に移る予定だ。

インメモリーコンピューティング各社は、自社製品の最適な用途をまだ見極めていない。オランダのアクセレラは、自動車やデータセンターでのコンピュータービジョンアプリケーションをターゲットにしている。

米マイシックの出資者らは、インメモリーコンピューティングを、当面はAIを搭載した監視カメラなどのアプリケーションに理想的だと考えているが、最終的にはAIモデルの学習に使うことを望んでいる。

業界のシンクタンク、セミコンダクター・リサーチのチーフサイエンティスト、ビクター・ジルノフ氏はAIのエネルギー使用規模が非常に大きいため、テクノロジーをより効率的にする方法に取り組んでいる全ての人にとって緊急性が高まっていると指摘する。

「AIにはエネルギー効率の高いソリューションがどうしても必要だ。そうでなければ、AIはあっさりと自滅してしまう」。

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)

原題:AI Energy Crisis Boosts Interest in Alternate Chip Architecture(抜粋)

(c)2024 Bloomberg L.P.

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最終更新:4/4(木) 10:07

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