吉岡里帆が語る30代の現在地「最近は、関西人らしい自分を素直に出せている」

11/30 12:02 配信

東洋経済オンライン

 30代という人生の節目に立つ吉岡里帆が、自分を見つめ直すために選んだのは、「日常を離れて心をリセットする旅」。新しい環境、変化する価値観――エネルギーを蓄えるように訪れた旅先で、彼女が見つけた“心を解き放つ瞬間”とは?  さらに、最新作『正体』で挑んだ「信じる」というテーマへの深い向き合い方。迷いながらも力強く進む姿に迫る。

■「自分をリセットしたかった」

 タイの美しいビーチで、木製のブランコに腰をかけ、遠くの景色を静かに見つめる吉岡里帆。その姿をInstagramに投稿した一枚の写真には、日々の忙しさから解放された彼女の静かな心が映し出されている。この瞬間、どんな思いに包まれていたのだろうか。写真の真意について尋ねると、吉岡さんは少し微笑みながら話してくれた。

 「ずっと旅行したかったんです。でも、なかなか連休が取れなくて。『また今度かな』と諦めてばかりでした。でも今年は人生の転機を迎えて、事務所など環境も変わったことで、自分自身と向き合う時間がどうしても必要だと思ったんです。東京ではいつも舞台や台本に囲まれて、仕事を完全にオフにするのが難しい。だから、日常から遠く離れた場所で、自分をリセットしたかったんです」

 透き通る青空とエメラルドグリーンの海が広がるビーチで、吉岡さんは久しぶりに心の静けさを取り戻したようだった。昨年30代を迎え、走り続けてきたキャリアの節目に立った彼女は、自分自身を見つめ直す時間の大切さを改めて感じているという。

 「長く仕事を続けるためには、心をリセットする時間が大切だと感じたんです。それで最近は、意識的に旅の計画を立てるようにしています」と微笑んだ。そこで、心に残った旅のエピソードを尋ねると、

 「初めて挑戦したパラセーリングです。現地の方に『人生が変わるから』と勧められ、最初は怖かったけれど、思い切ってやってみました。空に上がった瞬間、子供の頃に戻ったような気持ちになりましたね」と記憶を思い出すように語る。

 「小さい頃はジャングルジムやアクティブな遊びが大好きでした。でも、この仕事を始めてからは、怪我や日焼けを避けるために、知らず知らずのうちに自分に制約をかけていたのかもしれません」

 吉岡さんのInstagramには、旅先で出会った犬や鳥、自然と触れ合う瞬間が収められている。今回の旅もまた、彼女にとって「自分を解き放つ時間」となり、仕事だけでなく人生全体を楽しむ「自分と向き合う旅」になったようだ。

■映画『正体』が問いかける真実の意味

 真実を必死に伝えようとしても、誰も信じてくれない。孤独に耐える日々の中で、たった一人でも自分を信じて支えてくれる存在がいたら、その温もりがどれだけの希望になるだろうか。

 映画『正体』は、日本中を震撼させた凶悪事件の犯人として死刑判決を受けた鏑木慶一(横浜流星)が脱走するところから始まる。

 変装を重ねて逃亡を続ける鏑木を追う刑事・又貫(山田孝之)は、逃亡先で出会った人々の証言から、まるで別人のような鏑木の新たな一面を知ることになる。

 そこまでして伝えたい真実とは何なのか?  真実を追い求める者たちの思いが交錯し、物語は深みを増していく。

 吉岡さんが演じる沙耶香は、オンラインニュースの編集者として登場する。彼女は「無実を信じ、支える存在」として物語の核を担う重要なキャラクターだ。

 映画が進むにつれ、沙耶香は逃亡中の鏑木と深く関わりを持つようになる。ライターとしての才能を信じ、行き場を失った彼を助ける中で、2人の距離は縮まっていくが、やがて彼が連続殺人の容疑者かもしれないという疑念が頭をよぎる。

 「もし好きになった相手が、連続殺人犯かもしれないとしたら……」その複雑で矛盾に満ちた状況を想像しながら、吉岡さんはこの役に深く向き合い、自らの演技に落とし込んでいった。

 「この映画では、たとえ誰にも信じてもらえなくても『自分が見たものを信じる』という強い思いが描かれています。彼が犯人かもしれない。でも、私の知っている彼は違う、と信じたい気持ちが彼女を支えています。その思いが、葛藤や疑念、そして最終的には信頼へと変わっていく。彼を信じるために自らの痛みや恐れを超えていく、その心の変化が沙耶香の核だと感じました」

■“自分の意志で生きる”ことの尊さ

 吉岡さんにとって、沙耶香の「信じる」行為は役柄を超えて、自分自身への問いにもつながっているようだった。インタビューの中で、「信じることは自分を超える一歩である」という言葉があると伝えると、吉岡さんは深くうなずきながら共感を示した。

 「信じるって、決して簡単なことではないですよね。誰かを信じるためには、まず自分自身に自信が必要で、その自信は日々の小さな成功や『あの時がんばった!』という経験の積み重ねから生まれるもの。その積み重ねが、相手を信じる強さに変わっていくんだと思います。

 沙耶香も、彼を信じるために痛みや不安を乗り越える覚悟が必要でした。だからこそ、『自分を超える一歩』という言葉がぴったりだと感じますね」

 吉岡さんが劇中で心を動かされたのは、森本慎太郎演じる和也が「お前、そんな顔してたのかよ」とつぶやく一言。その場面が強く印象に残っているという。

 「このセリフは、仮面を重ね続けた鏑木が初めて“素顔”をさらけ出す瞬間に出る言葉なんです。長い逃亡生活で彼が隠してきた姿が、初めてあらわになる。それは彼が抱えてきた孤独や痛みに触れる瞬間でもあって、『そんな顔してたんだ』という言葉は、ただの印象以上に、彼の本質を受け止めるように響きました」

 吉岡さんは続けて、「鏑木が命を懸けて逃走する姿を描きながら、この作品では現代社会で薄れがちな人とのつながりや、情報に翻弄される不安の中での『信頼の大切さ』が強く描かれています」と語る。

 「『人を信じ、信じられる存在でありたい』という思いを抱きながら、主人公もまた希望の象徴として描かれています。信じる力を失っていた人が、誰かに信じてもらうことで、その力を取り戻していく。

 そんな純粋な感情が、この物語の根底に流れている。どんなに厳しい状況にあっても、鏑木の痛みや諦めない姿勢を通して、『もう少しがんばってみよう』と思ってもらえたら嬉しいです」

■30代に見つけた“遊び心”と新たな挑戦

 30代を迎え、年を重ねることについて、吉岡さんはどんな思いを抱いているのだろうか。

 「自分が何を好きで、何に誠実でいたいかがぶれなければ、年齢は気になりません」と、穏やかに微笑む。

 「20代は本当に仕事一色で、多くの困難を乗り越えてきました。その積み重ねが、今の自分にとって大きな自信になっています」と語るその表情には、確かな充実感が漂っている。

 まじめな姿勢を軽んじる人もいるかもしれないが、「まじめさこそが私の最強の武器だと思っています」と言葉に力を込める。その地道な積み重ねが、ようやく「やりたい作品」につながったと感じているという。

 「このスタイルは、これからも変えたくないです。誠実であることが一番大切で、メンタリティーは揺らがないようにしたいですね」

 そう語る一方で、どこか肩の力が抜けた様子も見える。理由を尋ねると、「こう思われたい」というプレッシャーが、今はずいぶんと薄れてきたのだという。

 「最近は、関西人らしい自分が素直に出ている気がします。バラエティ番組に出ると、友達から『見たよ!』って連絡が来るんですけど、そういう反応が今はすごく嬉しいんです。仕事に全力で向き合うだけじゃなく、遊び心も大切にしていきたいなと。みんなに楽しんでもらえるような仕事に、これからも挑戦していきたいです」

 肩の力が抜け、自然体で歩む吉岡里帆。その姿は、彼女自身が示すように、ありのままでいることの大切さを多くの人に思い出させてくれるだろう。

東洋経済オンライン

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最終更新:11/30(土) 12:02

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