史上初の営業赤字、ゼネコン大手「清水建設」に何が起きている?《楽待新聞》

3/11 19:00 配信

不動産投資の楽待

企業の決算から、不動産業界の現状について考える本連載。

今回取り上げるのは、大手ゼネコンの「清水建設」です。清水建設は建築・土木などの建設工事が主力ですが、国内のオフィスビルを中心とした不動産の開発も行っています。

清水建設は2月8日、2024年3月期の連結営業損益が330億円の赤字になる見通しであることを発表しました。

営業損益の赤字は上場以来初めてであり、また従来予想は575億円の黒字でしたから、これは大きなニュースとして取り上げられました。

いま、清水建設はどのような状況にあるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

■建設コストの増加が重荷に

清水建設が近年竣工した建築物を見てみると、「麻布台ヒルズ」や「平瀬ダム」など、非常に大型の建築物を作っている企業だということが分かります。

大手のゼネコンですから大規模工事が多く、工事が長期に渡るものが多いという特徴があります。

ちなみに清水建設は、建設事業の他にも不動産開発事業を行っています。その状況を見てみると、国内が82.4%と国内中心で、そのうちオフィスビルが78.9%となっており、国内のオフィスビルを中心とした構成になっています。

その建設能力を生かし、建設事業を行う他にもオフィスビルなどの不動産開発事業も行っている企業だということですね。

では、主力の建設事業について見ていきましょう。

市場別の売上構成は、国内が94.6%、海外が5.4%と、国内市場を中心とした展開となっています。同社の業績は、国内の建設市場の動向に左右されやすいということです。

続いてここ4年ほどの業績の推移です。

売上高の推移を見ると、2020年度を底として増加傾向にあります。2022年度は好調で、コロナ前を上回る水準となっています。

一方、利益は2019年度をピークとして低迷が続き、売上が好調だった2022年度も低水準で推移しています。売上は改善傾向にあるものの、利益面では苦戦していたということです。

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利益の面で苦戦していた理由は「建設事業の収益性の悪化」です。

建築・土木工事の利益率は、2019年度から2022年度にかけて、13.0%から5.2%まで下落しています。完成工事総利益(売上高から売上原価を差し引た利益)の額自体も、1761億円から746億円まで減少しています。

売上は拡大したものの工事の収益性が低下したことで、利益面では苦戦していた、ということです。

この背景にあるのは、「建設コストの増加」です。2021年1月~2023年9月にかけて、資材価格が平均28%上昇しています。資材費割合を50~60%と仮定すると、建設コストで14~17%の上昇に繋がっているということです。

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今後も国内では建設需要が旺盛な事もあり、大幅な値下がりは見込めないとしており資材価格の高止まりが続く見通しです。

■設備工事費も上昇

資材だけでなく、設備工事費の上昇も起きています。

製造業の国内回帰による工場建設、データセンターの建設需要拡大など、需給がタイトになり設備関連も高騰しています。

清水建設が行っているような大規模建築物で使われるものでは、変電設備が64%増、自家発電装置が45%増、盤類が41%増、空調機器は40%増、ダクト類は52%増など大きな値上がりを見せています。こういった建設コストの増加を受けて収益性が悪化していたということです。

こういった資材価格や設備類の高騰は、清水建設のような契約から竣工まで時間がかかる工事を行っている企業では、建設コストの増加を適切に反映できないため、悪影響が特に大きくなります。

以前の建設コストが安かった時の見積もりで行った契約の工事を、建設コストが上昇してからもしばらくは行う必要があるという事です。

また、会計上の利益面で特に大きな悪化要因となるものに「工事損失引当金」があります。

2022年度の清水建設の状況を見てみると、業績の悪化要因は複数の大型工事で工事損失引当金を計上した影響が大きいようです。

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・2022年度の連結売上高は、単体において手持ちの大型工事が順調に進捗したことにより完成工事高が増加したことなどから、前期に比べ 30.4%増加。

・売上利益は、前期に比較的採算の良い大型開発物件を売却した反動などから開発事業等利益が減少したものの、完成工事利益が増加したことから、前期に比べ 15.3%増加。

・2022年3月末に連結子会社化した日本道路の業績が2022年度から反映されていることも連結売上高及び売上利益の増加に寄与。

・単体の建築工事の利益率改善(2.8%→4.1%)は、国内において、複数の大型工事で工事損失引当金を計上したことなどから採算が悪化したものの、海外において、多額の工事損失引当金を計上した前期に比べ、工事採算が持ち直したことによるもの。

・単体の土木工事の利益率低下(14.7%→10.9%)は、国内の一部の大型民間工事で工事損失引当金を計上したことなどによるもの。

~清水建設「経営概要」より~
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この工事損失引当金がどういうものか、少しご説明しましょう。

前提として清水建設では、複数期間に渡るような大型の建築物を作っており、受注の進捗に合わせて売上を計上することになります。例えば「500億円の案件の20%が進んだら、100億円の売上を計上する」といった形です。したがって建設途中の工事の業績が、決算上に表れています。

そして、工事損失引当金について、語弊を恐れずざっくりと説明すると、その建設途中の案件で、当初の見込みより事業の収益性が悪化したので、今後の業績悪化を織り込んだというものです。

実際のその工事全体の損益は工事が完了するまで分かりませんが、500億円で契約した案件が途中でどうやら600億円のコストがかかりそうだとなった際に、100億円を工事損失引当金として計上する、というようなことをします。

今後起きてくるであろう工事のマイナスを先に計上しておくというのが工事損失引当金だという事です。

つまり清水建設のような長期に渡る工事を行っている企業では、当初の契約時から建築コストが増加していくと、その期中の損失が拡大するだけでなく、今後の工事のマイナスの予想が大きくなり、工事損失引当金によって業績が大きく悪化するということです。

長期的な大規模工事であれば、それだけ当初の見積もりからは乖離が生まれ将来の見通し悪化の影響が大きくなりますので、大きな赤字となる場合もあるということです。

逆に工事損失引当金を計上すると、将来の損失を先に業績に取り込むことになるので、翌期以降の業績自体は改善しやすくなります。

■人手不足の問題に直面

建設業界では、技能労働者の減少が進んでいます。高齢化も進む中で、2014年には343万人いた技能労働者は2025年には128万人減少し、218万人になると見込まれています。

さらに2024年には、働き方改革関連法案で時間外労働規制が建設業にも適用されるため、直近でも労働力不足は問題となる可能性が高いです。労働力不足による工期の長期化なども想定され、それもまた建設事業の収益性悪化に繋がる可能性があります。

そんな中で、清水建設では新規若年入職者確保のために、工事現場でも週休2日の定着、賃金向上に向けて取り組みを進めています。待遇改善が進まないと労働力不足は解決しませんから、こういった取り組みは必要不可欠ですが、これもまた短期的には収益性悪化の要因となります。

清水建設は、「大型工事については想定を超えるような資材・労務費高騰や労働環境の改善を踏まえた慎重な受注判断をし、資材価格の高騰に関してもそれを反映できる契約を進めている」としています。

現在進行中の工事に関しても、一定の交渉の余地はあるのでしょう。工事損失引当金によって今後の損失も一定程度は織り込んでいます。しかし基本的には、資材コストの増加を織り込んだ新しい契約の工事が増えてくるまでは、収益性の低い工事をする必要があり業績の低迷が続く可能性が高いと考えられます。

労働力不足などが顕著になる中で、ロボット化やデジタル化などの取り組みも進めていこうとしていますので、こういった取り組みの進捗には注目です。

このように清水建設を取り巻く環境は良好とは言えませんが、その一方で建設市場自体は堅調です。

製造業を中心とした環境対応のための設備投資や、首都圏を中心とする大型再開発の継続、交通・物流インフラの整備、老朽インフラ対策などが見込まれ、今後も約60兆円ほどの堅調な建設投資市場が継続する事を見込んでいます。

そういった中で、清水建設の受注高も増加しています。

建設コストの相場変動などで、工事損失引当金が今後どれだけ計上されるかには左右されますが、現在進行中の低収益の工事の減少、資材高騰を織り込んだ新しい受注の増加による、業績の改善が進んでいく事は期待されます。

■史上初の営業赤字へ

清水建設の状況が分かったところで、直近の2024年3月期3Qまでの業績を見ていきましょう。以下の通りとなっています。

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売上高:1兆4485億円(+9.7%)
営業利益:282億円 → ▲519億円
経常利益:299億円 → ▲470億円
純利益:215億円 → ▲209億円
※▲はマイナス
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増収は継続しながらも赤字転落と、利益面が苦戦しています。

利益面が苦戦した要因については、建設資材やエネルギーコストの高止まり、労務費上昇などの状況が続いたこと、また国内外の複数の大型建築工事において、工事採算の大幅な悪化に伴って工事損失引当金を計上したことが影響している、としています。

コスト増加が続く中で将来の見通しも悪化し、今期は特に大きな規模の工事損失引当金の計上があったため、業績は悪化していたということですね。

それに伴って通期予想は営業利益が▲905億円、経常利益が▲870億円、純利益は▲400億円の下方修正を行っており、通期でも清水建設としては史上初の営業赤字を見込むという、非常に苦戦した状況です。

とはいえ、売上は350億円の上方修正をしており、堅調な建築市場環境を受けて売上面は堅調です。受注面も堅調な中で、期間の経過とともに資材価格高騰を契約時点で織り込んだ案件も増えていくことが想定されます。

さらに、今期はかなり大型の工事損失引当金を計上しています。もちろん今後のコスト面の環境次第ではありますが、今後の損失をかなり織り込んだことで、これからの業績の改善が想定されます。

こういった点から考えると、今後は利益面の回復が進んでいく可能性が高いということが言えそうです。

通期予想に関しては、下方修正を行い清水建設としては初の営業赤字を見込んではいるものの、4Q単体の業績予想は以下の通りです。

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営業利益:211億円
経常利益:140億円
純利益:309億円
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4Q単体ではしっかり利益の確保ができて、一定の利益面の改善が進む見通しだということですね。

もちろん、現在抱えている不採算の工事に関しては、工事損失引当金で将来の損失を先に織り込んだため、翌期以降の業績が改善するというだけです。現在進んでいる工事をトータルで見ると非常に大きなマイナスになっている、ことは変わりません。

ただし、大幅なコスト高でさらなる工事損失引当金の計上がなければ、業績の改善が進むと考えられます。建築資材や設備費、労務費など今後のコスト面の動向に注目です。

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最終更新:3/11(月) 19:00

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