だから夜中に「甘いもの」を食べてしまう…ダイエットに失敗する人に共通する"食欲"以外の理由
目標を達成するのは難しい。途中で挫折しないためには、どうすればいいのか。『世界は行動経済学でできている』(アスコム)を書いた橋本之克さんは「人間は目の前の利益を優先してしまう習性がある。目標を達成するためには、おすすめのやり方がある」という――。(第3回)
■挫折するのは“バイアス”のせい
「1年の計は元旦にあり」と言われますが、みなさんは年始に何か「今年の目標」を立てたでしょうか。
「今年中に10キロやせる」
「年間100万円貯金をする」
「資格試験合格を目指して勉強をする」
そんな目標の数々は毎年、予定どおりに達成できていますか? ちなみに私は、毎年年明けに「今年こそこれをやろう!」という目標を立てていますが、だいたい途中で挫折してしまい、ほとんど達成できたことがありません。詳しくは後述しますが、これには人間に共通の「習性」が関係しています。
例に挙げた、健康や美容のためのダイエット、お金を貯めるための節約、試験に合格するための勉強……。どれも現時点よりも先の利益を得るための行動ですよね。一方、目の前のお菓子を食べる、ネットで服を購入する、勉強のテキストを閉じてオンラインゲームをするなど、目標達成を妨げる誘惑の数々は、今この瞬間に手に入る利益です。
私たちはしばしば、「将来手に入る利益」よりも、「目の前にある利益」を優先してしまいます。「やらなきゃいけないのはわかっているけど、とりあえず後回しにして今はこれを楽しもう」と思ってしまいます。これを「現在志向バイアス」と言います。
■“目の前のお菓子”を食べてしまうワケ
「現在志向バイアス」とは、人が判断をする際に、未来よりも目先(現在)の利益を優先する傾向を指しています。
目の前のおいしいお菓子を食べる「利益」と、そのお菓子を我慢して将来やせるという「利益」を比較すると、前者を優先してしまいます。前者の利益を受け取ってしまうと後者の利益を得られなくなるとわかっていても、目の前の利益を求めてしまうのです。その結果、目標を軽視したり、先送りにしたりしてしまいます。
ただ、「現在志向」であることは必ずしも悪いことではなく、かつてはむしろ当たり前のことでした。文明が発達する以前の人間は、いつ食べ物を口にできるかが不確実だったため、目の前に食べ物があれば「とにかく食べる」という現在志向は、生存するために十分合理的だったわけです。
たとえそこまで空腹ではなかったとしても、食べられるときに食べておかないと、力の強い人に奪われたり、腐って食べられなくなったりするかもしれません。そうした損失を回避するためにも、利益を受け取るタイミングは先送りせず、目の前にある食べ物を口に詰め込むことが「正しい」選択だったのです。現代の私たちにも、きっと無意識のレベルで当時の習性が残っているのですね。
■「すぐに」「即日」と煽ってくるのは理由がある
こうした私たちの「現在志向バイアス」を刺激するマーケティング手法はいろいろあります。
「すぐに効果を実感!」
「会員登録完了後、すぐに使えます」
「○時までの注文は即日発送!」
こういったフレーズは、「効果が実感できる期間には個人差があります」「仮会員登録後郵送で申し込み資料を発送します」「お届けまで約1週間かかります」といったフレーズと比べると、購入意向を高めます。
また、クレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレス決済も、「現在志向バイアス」に一役買っています。現金で支払うと、その場で手元から物理的にお金がなくなりますが、キャッシュレス決済ではその実感がないために、より多くのお金を使ってしまうのです。
マサチューセッツ工科大学のドラゼン・プレレックとダンカン・シメスターの両教授による、イベントチケットのオークションの実験では、クレジットカード使用のグループは現金使用グループの約2倍の金額を使ってしまうという結果になりました。その場でリアルに現金を支払うという行動が伴わないため、お金を失う痛みが少なくなることが影響していると考えられます。
■「目標の解像度」を高くしておく
サボったり、先送りにしたりすることが必ずしも悪いわけではありません。例えば、休憩や睡眠を削って目の前の仕事をクオリティ高く迅速に処理すれば、会社での評価は一時的に上がるかもしれません。しかし、長期的には健康を損ない、仕事自体ができなくなってしまう可能性もありますよね。
ですから、自分の健康をキープできるペースを把握したうえで、時にはサボったり、息抜きしたりすることも合理的な選択と言えると思います。
もっとも、私を含め多くの人は、誘惑に弱く、何事も先送りしてしまいがちな自分をどうにかしたいと思っていることでしょう。そこで、「現在志向バイアス」から逃れるためのアイディアを紹介しておきます。
その方法とは、「やることや目標の解像度を高くする」こと。例えば、「1年以内に10キロやせる」という目標に挫折してしまうのは、1年という期間が長すぎるため、目標達成までの道筋がはっきりしないからです。まだ時間があるし……という甘えから、「明日からでいいや」「これが終わってからやろう」などと、行動を先送りにしてしまいます。
■“小さい締め切り”を設けるといい
そう考えると、本項の冒頭で述べたように「1年の計は元旦にあり」は、行動経済学的には間違っているのかもしれません。
1年ではなく、1カ月、1週間、1日という短い単位で目標を設定したほうが、今日やるべきことの解像度が高くなるため、目標の達成に近づくと言えるでしょう。期間の設定は人それぞれですが、「1週間の計は月曜日にあり」くらいのスパンのほうが、現実的と言えるかもしれません。
実は、この方法を証明した実験があります。アメリカ、デューク大学のダン・アリエリー教授による、学生の校正アルバイトの実験です。アリエリー教授は、対象者の学生を2つのグループに分けて、論文3冊を読んでスペルや文法の誤りを3週間以内に見つけるよう依頼しました(3冊それぞれに文法やスペルの間違いが100個ずつある)。2つのグループでの作業の締切を変えたところ、表のように結果に大きな違いが出たのです。
この実験の結果から、“小さい締切”を設けることによって、先送りによる遅れが減るうえ、作業の精度も上がることがわかりました。
■やるべきことを「細分化」する
目標の解像度を上げるには、このように目標を細かくすることが有効です。これは「1/100プランニング」と呼ばれるやり方です。
まず「実現したいこと」を数値目標に変えます。その目標の1/100を小目標に設定して、すぐに実践します。例えば、資格の検定試験に合格したいと考えたとき、過去問を300問解くことを大目標に設定したとしましょう。そこで1/100である3問解くことを毎日の小目標にするのです。この方法は500ページの本を1日5ページずつ読むなど、さまざまなケースで応用できます。
大きすぎる、遠すぎる目標は、「今やるべきこと」の解像度が低いため、「現在志向バイアス」が働いてしまい、「明日からやろう」「時間ができたらやればいいや」という先送りをしてしまいがちになります。そうならないためには、「やるべきこと」を細かく分けて具体的なイメージを持ち、実行力を持たせることが大切です。
先ほどのダイエットで考えると、1年で10キロやせるということは、1カ月で約0.83キロ⇒1週間で約200グラム⇒1日で約30グラムです。ここまで数字を細かく分けていけば、毎日どのくらいのカロリーを摂取するか、どんな運動をすればいいかという具体的な行動をイメージすることができますよね。
■とりあえず「2分間」やってみる
そうはいっても、まず「始める」ところで躓いてしまう……という人もいるかもしれません。そんな人におすすめなのが、「2ミニッツ・スターター」という方法です。これは、小さな目標達成を積み重ねていくことで、最終的に大きな目標を達成するための方法の1つです。
何かをしなければならない際、次のような手順でスタートしてみましょう。
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①タイマーを2分にセットする。
②タイマーをスタートさせ、すかさず作業を開始する。
③2分後、タイマーが鳴ったと同時に途中でも作業をストップする。
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とにかくまず2分間やってみることで先送りを防ぐわけです。ポイントは、とにかくすぐに着手すること、締切などは意識せずに、具体的に行動することです。
たった2分でも取りかかれば、せっかく始めたのだからと続けるモチベーションも生まれます。また次の2分、4分、10分、1時間で何ができそうかも少しずつ見えてきます。道筋が見えてくれば、「次はここまでやろう」という現実的な設定もできるようになりますよね。
■周りに“宣言”するのも効果的
一緒に取り組む人がいれば、その人に対して目標を宣言することも有効です。「宣言効果」というバイアスを活用するのです。これは、自分の目標を他の人に宣言することで、その目標が達成しやすくなるという心理効果です。
アメリカのドミニカン大学で行われた研究によると、目標を書き出して友人に宣言した場合と、目標について一人で考えただけの場合では、前者のほうが目標達成率が約1.5倍も高まったという結果が出ています。
自分で目標を確認し他人に伝えることで、あきらめにくく挫折しにくくなります。宣言することは自分自身へのプレッシャーにはなりますが、もし達成することができれば有言実行できた自分に自信がつきます。
宣言する相手がいない、他の人の力を借りるのが難しいなどの場合は、最近ではサボりを防止し習慣化を促すアプリもあるので、アプリなどのリマインド機能を活用するのもいいでしょう。
人間は「解像度が低いと行動しない」ということを認識し、目標や締切を具体的で細かいものに落とし込む、そして2分でいいからやり始める、目標に向けた取り組みを宣言する。これが、先送りを回避するためのコツです。
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橋本 之克(はしもと・ゆきかつ)
マーケティング&ブランディングディレクター
昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。東京工業大学工学部社会工学科卒業後、大手広告代理店を経て1995年、日本総合研究所入社。1998年、アサツーディ・ケイ入社後、戦略プランナーとして金融・不動産・環境エネルギー業界等多様な業界で顧客獲得業務を実施。2019年、独立。現在は行動経済学を活用したマーケティングやブランディング戦略のコンサルタント、企業研修や講演の講師、著述家として活動中。著書に『9割の人間は行動経済学のカモである 非合理な心をつかみ、合理的に顧客を動かす』『9割の損は行動経済学でサケられる 非合理な行動を避け、幸福な人間に変わる』(ともに経済界)、『世界最前線の研究でわかる! スゴい! 行動経済学』(総合法令出版)、『モノは感情に売れ!』(PHP研究所)などがある。
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プレジデントオンライン
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最終更新:3/14(金) 9:17